「で??」
「で・・・と、申しますと?」
翌日、昼休みに保健室に行くと、そこには山南先生だけでなく土方先生も来ていた。
山南先生と土方先生は不仲だという噂が流れているが、実際はそうでもない、ということを山崎先輩は知っている。
そして、何故だか山南先生と土方先生が隣り合わせに座り、山崎先輩一人を向かいに座らせている。
土方先生は、明らかに不機嫌顔だ。山南先生は笑顔のままだが・・・、そこはかとなく漂う雰囲気に黒と茶色と紫の斑模様が見えてくる。
「お前は昨日、名字の家に行って、宿題のプリントを返した。」
「はい。」
「それで、夕飯をご馳走になったのですね。」
「はい。」
先ほどから、この繰り返しをしている。これで三度目だ。
「で???」
「それから?」
二人は、どうしてかその先を何度も確認したがる。
「だから、夕飯をご馳走になって、お礼を告げて帰りました。」
「マジかよ・・・。」
「これはこれは・・・。」
山南先生が、メガネの奥の瞳を、一瞬きらりと光らせた。
「お前、馬鹿じゃねぇのか!!?男と女が家で二人きり!しかも、食事に誘ってくれた!これが、どうして手を出さずに帰ってこれるのか、俺には理解できねぇ!!」
「山崎君が、ここまで初心だったとは知りませんでしたねぇ。」
「なな、何をおっしゃるんですか!!俺が綱道先生のご息女に、そのような破廉恥な行為をだなんて!!!(欲望のままに触れたいと思ってしまったが・・・)しませんよ!!」
勢い良く立ち上がると、反動で椅子が後ろに倒れて大きな音を立てる。
「誰の娘だろうが、そんなもん関係ねぇだろ。惚れた女に指一本触れないで帰ってくるとは・・・。」
「呆れて物も言えないとは、まさにこのことですね。」
物も言えない・・・とか良いつつ、二人は散々文句を言っているような気がするが・・・。
「いや、しかし・・・。俺は別に、名字君に惚れているわけでは・・・。」
「はぁ!?」
「ほぅ・・・。」
土方先生は驚き、山南先生は呆れた、という声を漏らす。
山崎先輩は何故そんな反応をされるのか分からずに戸惑う。
「お前・・・、自分の気持ちにも気づいてなかったのか?」
「傍から見たらこんなに分かりやすいのに、当の本人が全く分かっていないんじゃ・・・救いようが無いですね。」
「お、俺が名字君に・・・・・・こここ、恋・・・!!?」
いや、そ、そんなはずは・・・?た、確かにストーカーじみた影ながら気づかれないように気を配った送り迎えはしているが・・・。そんな、これは任務であって、私情ではないはず・・・。
動揺のまま椅子に座ろうとして、椅子が倒れているのだから座れるわけも無く、派手に尻餅をついて、更に倒れている椅子の足に背中を強か打ちつけた。
「おやおや、激しい動揺ですね。」
「古典的だな。」
痛みに呻きつつ、椅子を直して縋り付いている山崎先輩を見ながら、二人は溜息を吐いた。
土方先生は、持ってきた書類の中から一枚のプリントを抜き出して、山崎先輩の前に掲げた。
「これ、お前が手伝ったんだってな。」
「は、はい。」
「読むぞ。」
「え?」
土方先生の意図が分からなくて、山南先生に助けを求めると、にっこりと真意の分からない笑顔を向けられた。
「最初、怒られているときはとっても悲しくて怖かったんですが、その後に褒められたら、心がとってもふわふわしました。嬉しくて、ちょっと恥ずかしかったです。また、山崎先輩のためだけに、紅茶を淹れてあげたいです。」
読み終えて、視線を山崎先輩に戻す。
「お前、何て言ったんだ?」
「い、いや、それは・・・その・・・。」
「おやおや、これは脈ありとみて良いんじゃないですか?」
「ああ、俺もそう思う。」
「そそ、そんなわけ・・・。」
「次回、紅茶を淹れていただいたら・・・。」
「ああ。そのまま押し倒して来い。」
「え・・・ぃ・・・ぇぇえええええ!!??」
「それが、。お前への宿題だ。」
「ちょっ、そ・・・、え・・・、いや・・・ぇぇぇええええ????」
山崎先輩は、それ以上言葉にならずに、ただ土方先生に縋り付くのだが、眉を寄せて嫌そうに振り払われる。
「俺は男に縋られる趣味は無いんでな。」
「せ、先生!?嘘ですよね?」
「・・・・・・。俺が嘘を吐いたことがあるか?」
大いにある。
そう口に出したいのだが、土方先生の目は真剣そのもので、「ある」とでも言うもんなら、もっと無理難題を吹っかけるぞ、と脅してさえ居るようで・・・・・・。
山崎先輩は、項垂れて了承するしかなくなった。
「じゃぁ、山南さん。俺は職員室に戻るから、そいつをよろしく頼みます。」
「はい。」
土方先生と山南先生が話を終わらせる。
山崎先輩は、一人だけ名前の食事にありついたことに対する嫌がらせではないか・・・?と思ったのだった。




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