店主から仕入先を聞き出した子淑と孔明は、並んで城へと歩いていた。
両手を頭の後ろで組んで、のんびりと歩く孔明の気楽な様子に、子淑は首を傾げては思案した。
何故…今この男は自分の隣を歩いているのだろうか…。
けれど、それを聞いてしまったらこうして並んで歩く時間が終わってしまうかもしれない。
真っ直ぐ前を向いて歩いているが、子淑はチラチラと孔明を盗み見していた。
ふと、孔明がこちらを見て、視線が合った。
何も言わずに微笑まれて、子淑は眉間に皺を目一杯刻んで怪訝そうに伺った。
「あれ、どうして僕は今睨まれているんだろう?」
自分の胸に手を当てて、孔明が残念だと表情に表した。
「貴様が私に微笑みかけるなど、何か裏があるとしか思えなくて、つい…な。」
我ながら悲しい条件反射だったが、身構えてしまうのは仕方がない。
目が合って、微笑みかけられて、喜んだり照れたりと普通の反応を返せない自分が憐れに思えてくるが、孔明との関係性を考えるとどうしても…警戒心が先に湧く。
「見とれてくれても良いのに、君は睨むんだねぇ。」
悲しいと言わんばかりに大仰に溜息をつくが、前半の台詞は聞き捨てならない。
「私がお前に見惚れると…?」
「そう。こんなに良い男を目の前にたら、見惚れちゃうでしょう。」
孔明の言葉に、子淑は盛大な溜息を返した。
「お前は分かっていないようだ。」
「ん〜何がかな?」
相変わらずヘラヘラと掴み所のない孔明の腕を掴み、子淑は孔明を正面から見据えた。
「私はお前の顔に惚れたんじゃない、その頭脳と貫き通す意志の強さに、中身に惚れたんだ。」
それと、一途さにも…。
心の中でそう付け加える その一途さで自分を想ってくれたら、どれだけ蕩けるように幸せになれるだろうか…。
子淑の真っ直ぐに射抜く視線を受け止めて、孔明が口元を手で覆った。
「これは…、不意打ちだな…。」
小さく呟かれた言葉はくぐもってもごもごと、子淑には何と言っているのか聞き取れなかった。
「何だ、受け容れられない、とでも言ったのか?そんな事は分かっている。安心しろ。」
孔明の腕を振り落とし、子淑は前へ向き直った。
想いを告げ、拒否されることなど慣れてしまったが、それでも傷つかないわけではない。
いや、一方的に想いを押し付けた方が傷付くのも、本来ならばおかしな話なのだろうが…。
分かっている、孔明からしたら自分は付きまとってくる厄介な女だ。
だと言うのに、こうして普通に接してくれる。
だからこそ、淡い期待を捨てきれずに、ずるずると思い続けてしまう…。
「だが、拒否されたくらいで諦められるほど単純ではないんだ。私だって、どうすれば迷惑をかけずに諦められるのか、…見当がつかない。」
諦められない、何故こんなにも想ってしまうのか理解ができない、心の操縦ができない…だからこその、恋…なのだろうとも思う。
「うん、受け容れられない、と分かってくれているなら。」
孔明が吐息と共に吐き出す台詞は、私を更なる闇へと引きずり込む…。





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