夢流れ




池だった・・・。
春の風が吹き荒び、梅の花が舞い散る中、綺麗な風景の中で、残酷な現実を知った。
最初は、少しだけ歯車が狂ってしまったのだと思っていた。
けれど、それは時を追うごとに酷く狂って、最後にはまったく別のカラクリが出来上がっていた。



夫婦円満に過ごしていた家に、弟夫婦が転がり込んできたのは、夏に入る頃だった。
その前から、色々と問題のある弟だったが、義母にとってはそれでも可愛い息子で、夫にとっては可愛い弟だ。
夫と共に二人三脚で営んでいた髪結い処に、新しい家族が増えて賑やかになったと思っていた。
けれど、そんな賑やかさは、長くは続かなかった。
妻子も居る弟の悪所通い、そして、自分がいつまでも懐妊しないことによる重圧・・・。
更に、弟が作った借金の返済・・・。
弟の妻子は、自分たちが将来店を継ぐと言い出し、兄という立場なのに何も言い出せない優しい夫。
それらが重なって、次第に言い争いをすることが増えていった。
借金問題は、一生懸命働いて返せば問題は無い。自分が矢面に立って弟に注意すれば、しばらくの間はおさまるから、その間に必死で稼ぎに出る。
弟の子供が店を継ぐのも問題は無い。自分たちに子供が居ないのだから、それで当然だ。
けれど、不妊を言われるのが一番心が辛かった・・・。
自分が原因だと義母と弟に罵られ、それを我慢できずに夫に当たった。
ただ、慰めて甘やかして欲しかっただけなのに・・・・・・。
夫は次第に元気を無くし、自分はその分も廻り髪結いとして外に出るようになり、次第にお互いの時間が合わなくなり・・・・・・。
春の、風が強い、とても強い日・・・・・・。
ごめん、自分にはもう無理だ
一言書置きを残して、夫は梅の花びら泳ぐ水の中に沈んでいった・・・・・・。








れいが眠りについてから一日たつ。
なかなか目覚めないことを心配して、斎藤さんは夜も寝ないで隣に座っていた。
手を握り、体温の高さを感じる。
体温が高いのは、傷が熱を持って、その熱が全身に回っている証拠だ。
松本先生は、起きたら飲ませろ、と薬をくれたが、起きないのだから与えようが無い。
いつでも飲めるように水は横に用意している。
時折、身体を起こして口に水を含ませてやる。
「れい・・・。」
息が浅く、苦しそうな顔をする。
時折、呻きながら涙を流す。
酔って寝てしまった時もこうして涙を零していた。
一体、れいの小さな身体の中に、どれだけの涙が流されずに溜まっているのだろう・・・。
寝ている間の無防備な時にだけ流される涙は、意識という防波堤が崩れないと出て来れないのだろうか・・・。
「うぅ・・・、ごめん・・・。」
「れい!?」
「・・・めん・・・さ・・・」
時折、寝言でこうして謝る。
何に謝っているのか分からないけれど、ただそれを聞くたびに苦しくなる。
手をギュッと握り締めて、頬を撫でてあげると、眉間の皺が浅くなり、息が深くなる。
少しだけ、手を握り返されて、その手を自分の頬に当てる。
その腕には、包帯が巻かれている。
出血ほど傷は酷くなく、縫うほどの傷ではあったけれど、完治するし、腕の機能に問題は無いらしい。
けれど、確実に傷跡は残ってしまうらしい。
酷く責任を感じる・・・。
こうして、毎日傍に居られれば、守ることが出来たのだろうか・・・・・・。
しかし、新選組の三番組組長の自分が、たった一人の女のためだけに毎日を使うことは出来ない・・・。
「れい・・・・・・」
零れてくる涙を拭ってあげる。
けれど、目覚める様子がみられず、心配が募る。






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