巡想歌 2




れいが松本先生の許可を得て、髪結い処へと帰った後、年末年始の巡察強化が始まった。
それまで、屯所へ帰れば笑顔で出迎えてくれた存在が居なくなると、日常に戻っただけだと思うのに、心が空虚になった。
忙しい合間を縫って、会いに行きたいとも思ったが・・・、隊務を怠ることなど出来ない。
次第に、れいからの密書が減っていった・・・。
腕の傷が痛むのか、調子が悪いのか・・・、心配だが、様子を見に行けない。
そんな折に、桜井さんをれいの父親代わりとして、髪結い処に配置すると、局長から通達があった。
言伝を頼まれて、用向きのついでに顔を出すと、嬉しそうな微笑と共に出迎えられた。
お客の相手を始めたばかりのれいと、その後すぐに別件がある自分と、ただすれ違うほどの時間しか取れずに、名残惜しさで胸が押し潰されそうだった。
久しぶりに見たれいの顔は、色艶もよく、元気そうだった。
何事も無かったのだと、安堵する。
しかし、それから更に密書が減っていった。
桜井さんからの密書は届くものの、全く何の参考にもならず、副長が苛立ちから丸めて投げ捨てるのを何度も見かけた。
何度も見かけるように、副長の部屋を通りがかっていた。
「れいからの密書が届かねぇ。あいつは何をしてやがるんだ?」
「・・・?」
痺れを切らした副長が、部屋の前を通りがかる自分に声をかけてきた。
「お前、明日非番だったな。」
「はい。」
「ちょっと、行って探って来い。何も得るものが無いなら問題は無い。有るのに報告して来ねぇなら、一発ガツンと言って来い。」
「・・・副長が、れいからの密書を当てにしていたとは、知りませんでした。」
「当てにはしてねぇ。が、あいつがもたらす隊士たちの素行情報は、大いに役に立っているからな。」
「・・・はい。」
一瞬、複雑な気分になる。
れいがもたらす隊士情報により、処分される隊士がいるのだと・・・、知ったら、なんと思うだろうか・・・。
恐らくは、密書を書かなくなるだろう。これは黙っていようと、誰にとも無くそう言う話になっていた。
副長の命令が無くとも、れいに会いに行こうと思っていたが、これで心置きなく行けると言うものだ。
翌日は、屯所での所要を済ませるとすぐに出立した。
店で驚いたように自分を出迎えるれいの手をとり、外に連れ出す。
会えたら、見せたいものがあった。
きっと、気に入ると思ったのだ。
あの桜に囲まれた池が綺麗で、見せたい・・・いや、一緒に見たいと、思ったのだ。
れいが戸惑いながらついてくるのを感じて、屯所で一緒に過ごした時間で培ったと感じていたものが、気のせいだったのかと不安になり、家と家の隙間に連れ込んで抱き締めると、慌てて離れようとする。
それを阻止して強く抱き締めると、顔を埋めて身を任せてくる。
その様子に我慢しきれなくなり、柔らかな唇を啄ばみ、それから深く口付けた。
切なそうな声を洩らしながら応えるれいに愛しさが増し、素直な言葉が口から出る。
嬉しそうに微笑むと、自分も会いたかったと伝えてくれるれいにとりあえずの満足を得て、目的の場所へと移動を開始した。
副長が案じていたことを伝えると、自分はどうだったのかと問われ・・・・・・。
毎日、副長の部屋の前で、密書が届いていたのか、どうしているか何か連絡が無いか、探っていた・・・などと言えず、そんな奇行を知られたくは無く・・・、なんと伝えたら良いのかを考えていたら自然と足が速くなってしまっていたようだ。
言葉を見つけて振り返り伝えると、れいの息が乱れていて、やっと早足だったことに気がついた。
自分が会いに行けなかったことが寂しくて拗ねていたと聞いた時は、思わずその場で抱き締めたくなるほどに心が満たされた。
しかし、もう自分は用が無いなどと、再びそのような事を言うれいに驚いた。
密書に関して言えば、桜井さんよりもよほどきちんと仕事をこなしている。
そして、自分にとっては、既に無くてはならない存在になっているのだ。
林の奥の池に着くと、れいが池の畔に座り込んで花弁と戯れる。
自分の足に背中を預けて、髪を弄り始めるれいのその真剣な顔に思わず見惚れる。
自分を綺麗だと言ったれいの方が、断然綺麗だと、そう思った。
そして、髪にばかり気を向けるれいの気を引きたくて、自分の膝の上に乗せて顔を見つめた。
何かを求めるような、欲しがるような表情に魅せられて、深く激しい口付けを送った。
そっと背中を撫でると、それだけで背中を反らして反応するれいの首筋に舌を這わせ、更なる反応を楽しむ。
れいの艶を含む声を聞きたくて、思わず行為が激しくなってしまったが・・・、それでも拒絶をせずに全てを受け入れ、快楽に身を委ねて縋り付いて来るれいに、夢中で愛撫をした。
お互いの思いが通じ合っていると、思っていた。
屯所で過ごした数日間で、確かめ合ったと思っていた。
それ故に、俺を受け入れ、更には自らも奉仕をしてくれるのだと思った。
自分の穢れを一身に浴びたれいに、支配欲が満たされて、その卑猥な色気に生唾を飲んだ。
それだけでは我慢できずに、最後の一線を、越えた。
そのあまりの悦さに、夢中になりすぎたらしく・・・、ぐったりと動けなくさせてしまったのは、少し反省したが・・・・・・。
その後の夏の川涼みで、未だにれいの中では一方通行の想いだと思われていたと知って、唖然とした。
自分の言葉が足りなかったのだと、深く深く反省して、不安にさせていたのだと知り、申し訳なく思った。
お互いの想いを確認しあい、改めてれいを恋人とすることが出来た。
女など、武士たる自分にはただ邪魔なだけだと思っていたが・・・、自分を更に強くする存在なのだと、認識を改めた。
「絶対に、先に死なないで・・・。」
そう言った後に、泣きながら撤回するれいに、絶対に先に死なないと約束したのだ。
傍で、守ると、心の中で誓いながら・・・、武士ならば命を捨ててでも主の為に戦う所だが・・・、ただれいの為に、生き抜くと誓ったのだ・・・。




幕府軍での合議を終えて副長が戻ってきた。
仙台に行くことになった。しかし、会津をこのままにして去るのは心苦しいと・・・。
「ならば、俺が残ります。」
申し出ると、みんなが一斉に振り向いた。
会津公の為に、会津の為に、れいと、子の為に、自分が会津に残るのが一番だと判断したまでだ。
仙台に進み、幕府軍の為に戦うと決めた副長と、副長を守ると決めた雪村と、ここで別れる事となったが、後悔はしていない。
愛しい人が居る場所を守れないで、日本を守ることなど出来るだろうか・・・。
幕府の為に尽くした会津公を見捨てるなど、自分の武士道にも反する。
ここに骨を埋めるつもりで、会津新選組を名乗ることを許してもらった。
己のやりたいように生きてくれ。
そう、願ってくれたれいを想う・・・。






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