巡想歌 1




無事出産を終え、産後の回復が少し難航したが、元気になったれいは、城下に行きたいと思っていた。
中秋に入り、風が涼しくなりはじめている。
会津の冬は寒いと聞く。
あまり寒い中、赤子を連れて長時間出歩けないので、今のうちに行きたいのだけれど…。
何故だか、三太が許してくれないのだ。
曰く、
「おめ、死んじまうかと思ったんだがらな。中々元気にならねぇし…。あんま心配かげねでけれ。城下になんか行かせらんね!倒れだらどうすんだ!?」
らしいが、れいにとっては迷惑極まりない…。
心配されるのは嬉しいが、行動を規制されるのは好ましくない。
そう言えば、斎藤さんも心配性だったな…。
斎藤さんでも、駄目って言うだろうか…?
そんなことを考えて居たら、三太に頭を小突かれた。
「おめ、おらが話しでるのに、違う男のこど考えてるだろ?」
「当たり前でしょ。」
「なすてそっだに冷たいんだ?」
「しつこいから。」
「っかぁー!冷でえ!ゾクゾクしぢまう!」
自分の体を抱き締めて身悶える三太を冷めた目で見つめて遠ざかる。
そんな二人の様子を眺めながら、お婆ちゃんが頭をぽりぽり掻く。
三太を想えば、良い夫婦になれると思ってしまうが…、れいを想うと、三太を遠ざけてあげなければと思う。
子供が産まれてからは、三太は完全に離れに居を移して、れいの隣の部屋に陣取っている。
同室しようとして、竹ぼうきで追いかけられて居た…。
子供の世話も積極的に手伝っている。
元々三太は子供が好きで、一太の子供の面倒もよく見て居たので、手際が良い。
れいも、初産だと言って居たが、手際が良くて驚いたが、れいも姉と妹の子供の面倒をよく見たらしいと聞いた。
「なら、明日城下に連れでってやる。」
「本当に!?」
「んだども、条件がある。」
「何?」
「はじめが来るまで、おらの嫁になれ。」
「じゃ、明日は一人で行って来ます。」
「なすてだぁ!!?」
「なすてだぁ!!?って、よく聞き返せるねぇ!?」
喧々諤々言い合う二人に、お婆ちゃんが溜息混じりに忠告する。
「そっだに煩いと赤ん坊が泣いちまう。」
途端にピタリと静かになる二人に再び溜息を吐いて、お茶を淹れてあげた。
「れい、気持ちは分かるがなぁ・・・。最近じゃそこの街道でも戦ってる。まぁず、城下まで無事に行ぐのは難しいぞ。」
「嘘・・・。」
「おめ、赤ん坊産んでから外出てねぇがら知らねんだろが・・・。」
「最近じゃ、畑ん中まで入っでぐるて、みんな言っでる。」
「街道沿いの畑は、めちゃくちゃだって話だ。」
「おらたぢの畑は間っこにあっがら平気なだげで、もう、どこも危ねぇんだってば。」
お婆ちゃんと三太の話を聞いて、背筋が寒くなる。
そんなに大変なことになっているなんて、知らなかった・・・。
子を産んで随分と体力と血を失ってしまった為に、回復に時間がかかり、良くなってからも子を放っておくわけにも行かず、ずっと家の中で過ごしていた。
移動は、離れと母屋、そして目の前の畑だけ・・・。
外界の様子が気になっていたが、三太もお婆ちゃんも、心配ないって言っていたのに・・・・・・。
顔を青くして二人を見るれいに、三太が素直に謝る。
「黙っでて悪がった・・・。んだども、おめ、言ったらすっ飛んでっちまうべ?」
「・・・・・・。」
三太を少しの間呆然と見つめていたれいが、ふと立ち上がった。
外に行くんじゃないかと警戒したが、れいは赤子を抱き上げると、
「寝る・・・。」
言い置いて、自室に引き上げていった。
「婆ちゃん、おら・・・。」
「少し一人にしておやりよぉ。おめ、しづこいんだ!」
「婆ちゃんまで!酷ぇなぁ・・・。」
ついて行こうとした三太を引き止めて、お婆ちゃんはぬるくなったお茶を、不味そうに啜った。
れいは自室に入り、敷きっぱなしになっている布団に横になった。
赤子を横に寝かせて、眺めながら呆っとする。
目元が斎藤さんに似ていると思う。
口元は自分じゃないかと思っている。
自分は体調を崩したが、赤子は元気ですくすく育っている。
体が強くは無い自分から生まれたから、心配したけれど・・・。
多分、斎藤さんに似てくれたんだと思う。
未だに、名前をつけていない・・・。
斎藤さんにつけてもらいたくて、ずっと待っているのだ。
名前を呼んであげられないわが子を、そっと撫でる。
「お父さん、早く来れると良いね・・・。」
小さな小さな手をそっと突くと、指を必死で掴んでくる。
その暖かな温もりに救われる。
はじめさん・・・・・・!!どうか、無事で!!!






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