髪切




「嬉しいです!」
布団を二枚並べて、千鶴ちゃんが微笑んでくれる。
片方にゴロンと寝そべると、千鶴ちゃんが同じように寝そべってきて、こちらを向く。
何だろう、この可愛い生き物は・・・。
今まで、こんなに可愛い子に醜く嫉妬だとかしていたのか、自分は・・・。
少しだけ後ろめたくて、反省をする。
「今まで、男の人ばかりだったから・・・、こうやってれいさんと一緒に寝られるって、本当に嬉しいです。」
「私も。」
微笑んで同意すると、千鶴ちゃんが更に嬉しそうに、頬を赤らめる。
うわぁ・・・、妹だってこんなに可愛く頬を染めてお姉ちゃんと一緒に寝られて嬉しい・・・なんて、言ってくれなかったよ?
その可愛らしさに絆されて、千鶴ちゃんを引き寄せて抱き締める。
「れいさん?」
「千鶴ちゃんは、可愛いねぇ。」
もしお腹の子が女の子だったら、こんな風に可愛く育ってもらいたいと思う。
間違っても、自分みたいな向こう見ずで勢いだけの人間には育てないようにしなければ・・・。
「そ、そんなことないですよ?」
慌てて離れていく千鶴ちゃんに微笑んで、掛け布団を被って仰向けになる。
何だか、色々と張り詰めていたものが霧消して、心が幸せ色に染まっている。
こんな風になるなんて思っても居なかったのに・・・。
ただ・・・、この先も戦いの中に踊り出す斎藤さんを思うと、幸せに浸ってばかりは居られないのだけれど・・・。
「ね、れいさん・・・。」
「はい?」
「斎藤さんのどこを好きになったんですか?」
「・・・・・・ん?」
身体を横に向けて千鶴ちゃんを見ると、頬を染めて興味津々と言った様子だ。
「はじめさんを好きになるのは、意外?」
「いえ、そうじゃなくて・・・!」
首をぶんぶんと振り回して慌てて否定する千鶴ちゃんに、「冗談です。」と教えてあげる。
「最初は、顔。」
「顔・・・・・・。顔?」
「そう。好みの顔だったの。」
「え、そうなんですか・・・。」
どう思ったのか、千鶴ちゃんの反応から戸惑いが感じられる。
「あ、でも、顔だけで言ったら・・・、最初は土方さんに見惚れたかな。」
「そうなんですか!?」
同じ言葉なのに、言い方がまるで違う。こめられている気持ちも違うようで、思わずれいはにやけてしまった。
「土方さんを好きになってたら・・・、どうなっていたかなぁ・・・。」
「え、どうなっていた・・・でしょうね・・・?」
視線を泳がせる千鶴ちゃんの眉は、への字に下がっている。
それに自分で気付いて居るのか居ないのか・・・。
何となく、この様子だけで、千鶴ちゃんが誰を一番気にかけているのかが分かってしまい、そっと溜息をついた。
「で、次は、髪の毛。」
「髪の毛?」
「そう。ふわふわしていて、凄く気持ち良い手触りなの。」
「ふわふわ・・・。」
「私の目に狂いは無かった。」
目を輝かせて言うれいに、千鶴ちゃんは呆気にとられていた。
「顔と、髪の毛が、好きになったきっかけですか?」
千鶴ちゃんの問いに、コクリと頷く。
「恋の入り口なんて、そんなものでしょう?」
「そんなもの・・・なんでしょうか・・・。」
「何かが気になる。そうすると目が離せなくなる。そして、色々な事を知るの。」
「・・・。」
「それで、それだけで終わる人も居れば、色々な事を知っていくうちにもっともっと惹かれてしまう人も居る。心配したり、思わず手を焼いてしまったりするのも、恋の入り口なんじゃないかな。」
千鶴ちゃんがれいの言葉に、真剣に考え込んでいる。
「恋のきっかけなんて、当人も気付かないって事も多々あるあし。上手に誤魔化してしまえる人も、居るのよね、これが・・・。」
後半は半ば独り言だ。
千鶴ちゃんも、土方さんも、誤魔化してしまえる人なのだろうと思う。
その誤魔化し方が、意識的なのか、無意識的なのかの違いは有れど・・・。
どちらかと言うと、千鶴ちゃんの方がまだ素直な分、気付くのは早いと思う。
もしくは、もう気付いているかもしれない・・・・・・。
「もう寝ましょうか。」
れいが言うと、千鶴ちゃんが頷いて灯篭の炎を吹き消してくれる。
一気に暗闇に包まれて、直ぐ傍に居る千鶴ちゃんすら見えなくなる。
「おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
挨拶をして、目を閉じる。
今日は沢山動いたし、調子の波も激しかった。
少し怠い身体を休めるために、早く寝たいのだけれど・・・・・・。
目を閉じても、すぐには眠れない。
色々と有りすぎて、興奮状態なのかもしれない。
少ししたら、落ち着くだろう。
そう思って、目を閉じたまま寝返りを打つ。
しばらくそうしてジッとしていて、次第にウトウトと、眠りに誘い込まれていった。






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