翌日、昼過ぎまで眠ってしまって居た様で、起きたら日が中天を過ぎて居た。
「はじめさん?」
いつもなら、屯所へ戻ると言って起こしてくれるのだけれど…。
はじめさんは、自分の横で自分を見つめている。
「何してるんですか?」
「見つめている。」
「そう…ですね。」
こうして、斎藤さんが先に起きた時は見つめられている事が多い。そして、時間になると起こされる。けれど、今日は起こされなかった。昼過ぎまで、ずっと見つめていたのだろうか…。
「はじめさんは、いつ起きたんですか?」
「朝。」
「まさか、ずっと見てたんですか?」
「…ずっと、という訳ではない。」
「え?」
「時折、触れ…、いや、なんでもない。」
「ふれ…。」
ふれ…何だろうか…。斎藤さんの顔が心なしか赤い…。
斎藤さんが手をれいの腰に回してきて、はだけて腕に引っかかっているだけの夜着と肌の間に入れて、強く抱きしめてくれる。
「身体はどうだ?」
「平気。何だか、いっぱい寝ちゃったみたいで、ごめんなさい。」
「いい。見ていたかったから、起こさなかった。」
斎藤さんがそう言いながら、腰に回した手を優しく動かして、れいの脇腹やお尻を擽る様に撫でる。
もう無理だと訴える意思とは関係無く、身体が反応していく。
小さくピクピクと跳ねながら、トロンとした目を斎藤さんに向けて、睨みつける。
「や、もう無理です!」
「触り足りない。」
「そんな訳無いです。あんなにいっぱいしておいて…。」
れいが拗ねた様に言うと、斎藤さんが頬を赤らめて微笑む。
「れいの中は暖かくて狭くて気持ちが良いから、いつでも入りたくなる、いつまででも入っていたくなる。」
「もう、バカ!」
斎藤さんの胸を拳で軽く叩いて、触るのをとめる。
起き上がって、夜着を身体に巻き付けるが、立ち上がれない。
「まだ、起き上がれないほど、辛いか?」
斎藤さんが心配そうに見て来るが、そうではないのだ。
「違うの、はじめさんのがまだ、いっぱい零れてきて…。」
斎藤さんが小さく頷くと、立ち上がって腰帯を巻きつける。そして、手拭いを取ってきてくれる。
「あ、有難う。」
手拭いを受け取り、そのまま困った表情で固まるれいに斎藤さんが首を傾げる。
「どうした、拭かないのか?」
「その…、あっち向いてて…。」
斎藤さんの後ろを指差すと、斎藤さんの眉間にシワがよる。
「何故?」
「は、恥ずかしいから!」
斎藤さんの肩を押して無理やり後ろを向けると、素早く拭う。そして起き上がると、夜着から着替え始める。
夜着を脱いで襦袢を羽織って居ると、視線を感じる。
振り向くと、斎藤さんがジッと見ている…。
「な、何でそんなに見るんですか?」
「れいは、綺麗だ…と思って。」
「何をバカな事を。そんな訳無いでしょう?」
全身を隠す様に、素早く着物まで羽織る。いつもの地味な、味気の無い着物だ。
着終えると、腰に手を当てて気合を入れる。
「さ、洗濯しなきゃ!」
振り向くと、斎藤さんが腰帯一枚で未だに座っている。
「はじめさん、早く着て下さい。風邪ひきます。」
そう言って斎藤さんの着物を無造作に持ち上げると、重いものがごろりと転がり、風呂敷に包まれた何かがチャリチャリ音を立てながら転がり出てきた。
「あ、ごめんなさい!」
慌てて持ち上げて、意外と重いそれと着物を斎藤さんに手渡すと、斎藤さんはそれを持ったまま着物に袖を通して着付ける。
「構わない。」
それだけを言うと、再び懐にしまいこんだ。
斎藤さんがきちんと着物を羽織るのを見届けて、夜着と敷布を持ち上げる。それを束ねて、お勝手から外に出て、桶に水を溜めると中に汚れた部分を中心に放り込んだ。
斎藤さんが後をついて来て、感心したように溜息をつく。
「いつもそうしているのか?」
「当然です。汚れていたら寝られませんから。」
水の中でジャブジャブと洗い始めると、斎藤さんが項垂れて桶に手を入れて来る。
「はじめさん?」
「俺がやろう。」
「え、そんな、いいですよ。私がやります。」
「いや、汚したのは俺だ…。」
そえ言いながら、れいの手の中の敷布を奪って、手で擦り洗いを始める。
思わず吹き出して、斎藤さんの顔に水で濡れて冷えた手を当てる。
「!?」
目を見開いて驚く斎藤さんに笑いかけると、斎藤さんも微笑みを返してくれる。
「気にしないで下さい。汚されたなんて思ってないです。愛された証だって、思ってますから。」
「愛した証…か。」
斎藤さんがぼそりと呟く。
「ならば、これじゃまだまだ足りない。」
「え…!?いや、いやいやいや、充分ですよ?」
正直、斎藤さんがこんなに夜の生活に強いと思わなかった。
会えない分だけ、思いが募るのかもしれない…と思ったけれど、どうも最近は、そうでもない事が分かってきた…。
ただ単純に、強いのだと…。
両手を振って、首まで振って拒否するれいに、斎藤さんは少しだけ拗ねた様な目を向けて来る。
「こんな所で押し倒したりはしない…。」
誰も居ない湖畔で、押し倒されたことが有りますけど…?
そもそも、始まりからそんな感じなのだから、今更何をされても驚かないような気もするけれど。
「今夜…愛の分だけ…。」
「今夜?」
斎藤さんが、小さく頷く。
「今夜も!?」
れいが思わず叫ぶ。
「ちょ、え、え!?いや、連続であんなに激しいのは、身体が…。」
さすがに、身体が保たない…。
今までは、翌日には帰ってしまうから、何とか身体が持ちこたえていたようなものだ。
それが、連夜となると・・・、どうなるか分かったものではない・・・。
既に、腰が痛い。もう年なのか・・・と泣きたくなるほどなのに、追い討ちをかけられたら・・・。
「せっかく一緒に居られるのだから、存分に味わいたい・・・。」
「はじめさん・・・。」
そんな可愛いことを言われたら、断れないじゃないか・・・。
「休息所に移ったら・・・、我慢をする。」
夜着を優しく揉み洗いしながらそっと呟く斎藤さんに、結局れいは負けた。
休息所の話を出されると、心が痛くて、頷かざるを得なくなってしまう。
斎藤さんが夢見る、そんな日々は来ないのだから・・・・・・、こうしてしばらくだけでも連日一緒に居られるなら、斎藤さんの我侭をいっぱい叶えてあげたい。






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