降涙雪
冬の深夜は、空気がピンと張り詰めて、頬に痛みが走るほどだ。 しん・・・とした空気の中、れいは布団から起き上がった。 何だか寝付けない。 布団から出ている上半身が、寒さに震えだす。いつの間にか、火鉢の火も消えてしまっていたようだ。 あまりに寒いと眠れないのだけれど、どうも今日はいつもとは違う。 何とか布団から這い出して、火鉢に火を入れる。 すぐには温まらないけれど、暖かな灯りが点るだけで心がほっこりしてくる。 布団に再び潜り込んで、部屋が暖まるのを待つ。 斎藤さんから、妻に・・・と望まれてから数ヶ月がたった。 夢みたいに幸せな言葉なのに、受け取ることが出来ない自分に絶望する。 こうなることが分かっていたのに・・・こうなっても良いと思って、斎藤さんを愛して、一緒に時間を過ごしてきたのに・・・・・・。 結局、本当はどういうことなのか、全く分かっていなかったと言う事だ。 経験するまで、分からない・・・。 いつだって、最悪な状況になるまで、何も分かっていない。 昔から全く成長していない自分が恨めしい。 こんな事なら、最初から諦めて、もっと自分に相応しい人を選べばよかったのだ。 じゃなければ、もっと前に、こんなにのめり込む前に、離れれば良かったのだ・・・・・・。 自分が傷つくのは構わない。痛いし苦しいけれど、それは自業自得だ。 けれど、斎藤さんを傷つけると思うと・・・・・・、決心が鈍る・・・。 身分が違い、未亡人だと言うことは、どうしたって変えられない・・・。それを伝えれば、妻でも妾でも無くて良いと、きっと斎藤さんなら言ってくれるだろう。 でも、それでは駄目なのだ・・・。 斎藤さんは、きっともっと立派な武士になる。新選組で戦功を立てて、どんどん身分が高くなるはずだ。 そして、相応しい人を妻にしなければならない。そういう話がいっぱい舞い込むだろう。 そこに自分が居ては、邪魔になる。 武士として在りたいと願う彼の邪魔になってしまう・・・。 だから、離れなければ、と思うのに・・・、きっと傷つける・・・・・・。そう思うと苦しい・・・。 「はぁ・・・。」 膝を抱えて丸くなる。部屋の中が大分温まってきた。 火鉢の頼りない赤さが、自分の心の傷口みたいで、自分に「ざまぁみろ・・・」と思う。 ふと、戸口の外で物音がする。 猫か、でなければ風・・・? そう思って伺っていると、すっと扉が開いて誰かが入ってくる。 身を硬くして伺っていると、灯りを持った男の人のようで、薄ら暗い揺れる炎で斎藤さんだと分かる。 「はじめさん?」 「起きていたのか?」 「ええ、ちょっと眠れなくて・・・。」 斎藤さんが灯りを持ったまま近づいてきて、部屋の隅にある灯篭に炎を移す。 部屋の中が明るくなり、斎藤さんの姿をはっきりと捉えることが出来るようになった。 「どうしたんですか、こんな夜中に・・・。」 「少しの間、泊まる。」 「・・・・・・はい?」 「しばらく、ここに・・・。」 斎藤さんが、それだけを言うと火鉢の前に座り込む。 しばらくの間、泊まる・・・と言うのは、連泊する、という意味で合っていただろうか・・・? 思わず、そんな事を確認してしまう。 斎藤さんの背中に手を置くと、着物がとても冷たい。 「凄い冷えてる・・・。」 斎藤さんの身体を、掛け布団で自分と一緒に包み、抱きつく。 斎藤さんの冷たさに震えが走る。 「お前が冷える・・・。」 「大丈夫。すぐに暖かくなる。」 「それまでが寒いだろう。」 「いいの。抱きついていたいの。」 斎藤さんが、火鉢に手を当てて暖めて、れいの身体を抱き寄せる。 自分の膝の上に横抱きに座らせると、頬を優しく撫でて、口付けをくれる。 そのまま指で髪を絡めて、梳く。何度も何度も梳いてくれる。その間、口付けは優しく甘く、途切れることなく続けられた。 「髪、伸びたな。」 肩につくかつかない程の長さだったれいの髪が、今では肩を少し下ったほどの長さにまでなっている。結ぶことも、結い上げることも出来る長さだ。 寒いから不精で切らないのもあるけれど・・・、何となく、だ。何となく、後で・・・。 「はじめさんは、長かった私と、短い私、どっちが良いですか?」 「む・・・・・・。」 斎藤さんが、難しそうな顔で見つめてくる。 「もしかして、長かった頃の私、覚えていませんか?」 「いや・・・・・・。」 「置屋で偶然買っていただいた時の感じです。」 「むぅ・・・・・・。」 「それも・・・、覚えていませんか?」 「覚えている。」 「じゃ・・・。」 斎藤さんが、悩みながらもれいの身体を夜着の上から撫でてくる。 「どっち・・・?」 背筋を撫で上げられ、思わず背が反る。そうして押し付けられた胸を、大きな手で掴まれ、優しく揉みしだかれる。 「っ・・・、ね、どっち・・・?」 下から揉み上げて、時折指で頂を擦る。そうして少し盛り上がった頂を、夜着の上から美味しそうにしゃぶりだす。 「ぁぁっ!」 堪らずに声を上げて身を捩ると、斎藤さんがれいを布団の上に横たえて、その横に寝転がりながら、胸を味わい続ける。 「ん、はじめ・・・さんっ・・・、あ、どっち?」 斎藤さんの髪を優しく掴む。手を突っぱねたいのか、自分に押し付けたいのか分からなくて、泣きそうになるほどにもどかしい。 「どっちも好きだが・・・、短いほうが、形を崩す心配も無く抱けるのが良い。」 口を離してそう告げると、夜着の胸元を寛げて、ピンと尖った頂を口に含んで吸い上げ始める。 「んんぁぁあ、あぁ・・・、あふっ、」 結っていたら、形が崩れるほどに抱く気満々なのか・・・と、思わず期待と怯えに心が震える。 れいが、斎藤さんの着物を寛げる。すると、胸元に硬く重そうな感触がして、手が止まる。 斎藤さんが、れいの手を退けて、自分で着物を脱ぎ始める。そして、その硬く重い物を、着物の中に隠してしまう。 「はじめさん、それ何?」 「何でもない。」 一糸纏わぬ姿になった斎藤さんが、れいに覆いかぶさってくる。未だに夜着を身に着けたまま、れいのあらゆる場所を舐め、擦り、そして突き上げられ、れいはその日も意識を失うまで何度も何度も絶頂を味わい、疲れ果てて眠りについた。
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