れいと藤堂さんは、何とか人混みを掻き分けながら進んでいた。
けれど、れいは実は藤堂さんがどこに向かっているのか知らなかった。
「藤堂さん、どこに向かっているんですか?実は私、ここがどこら辺なのか分かってないんですけど?」
「んー?大丈夫だって。もうすぐ着くからさ。」
「着く?どこに?」
「んー…、はじめ君の所。」
「え、本当!?」
れいは、藤堂さんに抱きつきそうな程に跳び上がった。
自分一人では到底たどり着けないと思っていた。それどころか、こんな街中で遭難しそうになっていたのだ。
さっきの髪の毛の色が薄い人には、本当に感謝したい。
ふと、藤堂さんが立ち止まって、一角を指差す。そこには、何人かの刀を腰に下げた男の人達が居た。
「あれ、まだ来てないや…。」
藤堂さんが呟く様に、そこには斎藤さんの姿が見当たらなかった。
「れいさん、ここでちょっと待っててくれよ。はじめ君が来たら迎えに来させるから。」
「はい。」
ルンルン気分で、待ち合わせ場所の一角が見える場所に立ち、後ろの建物に寄りかかって斎藤さんを待つ。
自分が居たら驚くかな、それともやっぱり怒るかな…。
そんなことを考えながら待って居たら、何時の間にか前に人影が立ち塞がり、御陵衛士の人達が見えなくなる。
少しだけ不機嫌になって横にずれると、その人影も同じ方向にずれる。
何なんだろう…?
ムッとして顔を上げると、男の人が二人、自分の前に立って居た。
顔を赤らめて、少しだけふらついている人と、冷静そうな顔色で、ニヤついている人と。
その二人が、いきなりれいの肩に手をかけてきた。
「なあ、姉ちゃん!俺らと遊ばへん?」
「なんや、待ち惚けやろ?そんな薄情な男、捨ててまえ。俺らと一緒に行こうや。」
「結構です。待ち惚けてませんから!他をあたって下さい。」
酔っ払いと関わるとろくな事にならないのは世の常だ。
れいは二人の横をすり抜けて藤堂さんの所へと行こうとした。が、がっしりと手をつかまれてしまい、動けなくなる。
「放して下さい。」
「ええやんかぁ!行こうや。」
「嫌ですってば!」
手を引っ張るが、どんなに動いても手が抜けない。
早く藤堂さんが気付いてくれないかと思った矢先、れいの手を握っていた男が力を失って横に倒れた。
「何しやがる!」
立っていただけの男が後ろを振り返る表紙に、また倒れこんで行く。
その先で瞳に暗い色を燈した斎藤さんが、刀を鞘に収め終えて姿勢を正す。
「斎藤さん!!」
男たちは倒れてはいるが、血は出て居ない。斬った訳では無いようで安心すると共に、斎藤さんに会えて思わず嬉しくなって駆け寄る。
「…。」
しかし、斎藤さんが瞳の色をそのままに、冷たくれいを見つめて来る。
「斎藤さん、会いに来ちゃいました。」
笑顔で告げても、何時もの微笑みが無い。
「あ、はじめさん。でしたね。」
名前で呼ばないから反応しないのかとも思ったが、どうもそうじゃ無いらしい…。
いつもの斎藤さんとは、明らかに違う…。
溜息をついて、斎藤さんがれいの手を引いてその場を離れ始める。そして、倒れている男たちから少しだけ離れるとれいを改めて振り返る。
「れい…。」
「はい?」
「何故ここに居る?」
「どうしても、はじめさんと大文字焼き見たかったの。」
久しぶりに斎藤さんの雰囲気が怖いと感じる…。
思わず怯みながら答えると、斎藤さんが悲しそうな顔になり、胸が早鐘を打つ。
「無茶はしないと、約束したはずだが…。」
「無茶じゃないでしょ?」
「一人でこの人混みを歩く事が無茶じゃないと?」
「無茶じゃなかった。」
後ろめたい事が有るだけに、思わず声が小さくなる。
すると、藤堂さんが遠くから声をかけながら走って来た。
「はじめ君!遅かったじゃん。」
「ああ。少しゴタゴタが有ってな。」
「れいさん、良かったね。はじめ君と合流出来て。」
「う、うん。」
藤堂さんの明るさが、少しだけ眩しく感じる。
それ程に、今日の斎藤さんは…暗い雰囲気を纏っている…。
「平助、なぜれいがここに居る?」
「途中で会ったんだよ。れいさん貧血で倒れちゃっててさぁ…っあ!!」
「藤堂さん!!」
叫んだが、もう遅かった…。
斎藤さんのれいを掴む手の力が増した。
「痛い…。」
顔を歪めて呟くが、斎藤さんの目は藤堂さんに注がれたまま、凄味を増した。
「どうゆうことだ、平助?」
「いや、えっと…、俺も倒れた状況は知らないよ。お店の人に、倒れた人が運ばれて来たから引き取ってくれって言われて、見にいったら…れいさんだったんだよ…。」
藤堂さんから事情を聞いた斎藤さんの目が、鋭くれいを捉える。
「無茶はして居ないと、先ほど言ったな?」
「う…。」
「何故、嘘をついた?」
「だって…、はじめさん、それを聞いたら心配して怒るでしょう…。」
「今日、ここに来た時点で怒ってはいるが…、嘘をつかれたという事の方が問題だ。」
斎藤さんが言う事はもっともだ。
けれど、それ程まで一緒に大文字焼きを見たかったと言う思いは受け入れてもらえないのだろうか…。
心配そうに藤堂さんが二人を見守る。
「ま、まあ、その後は俺が居たし、何事も無かったからいいじゃん!」
「良くない。酔っ払いに絡まれて居たのだぞ!」
「え、マジで!?ごめんれいさん、俺そばに居たのに気付けなくて!」
「ううん、藤堂さんのせいじゃないから。」
呟いて、斎藤さんの方を伺い見る。
「絡まれて居たのも、私のせい…?」
「そうは言わないが…、こう言う事が有るから、今日はダメだと言ったんだ。」
「でも、大文字焼き…。」
「大文字焼きなど、今回じゃ無くても見られるだろう。」
斎藤さんが握っている手が痛いが、心も痛い・・・。
今回じゃなくても見られる保障など無いのに・・・。
「大体、貧血を起こす程体調が悪いのに、何故出て来た!」
「それは、昨夜はじめさんが激しすぎるからでしょう!」
れいの反論を聞いて、藤堂さんの顔が思わず赤くなる。
「動けなくすれば、諦めると思った。」
「諦められない!貧血を起こす程の体調でも、はじめさんと一緒に大文字焼きを見る事の方が大事だったの!だって、一緒に何処かに行って何かをして、そうゆう思い出、一個も無いんだもん…、無いんだもん!!欲しかったんだもん!!!」
斎藤さんの手を無理やり振り払おうとするが、両手を掴まれてしまって、動かせなくなる。
「痛い、放して!」
「れい…。」
「はじめさん、ずるい…。ずるい!!どうしてそんな傷付いたような顔するの?そんな顔の思い出なんか要らない!」
「思い出など、落ち着いてからいつでも作れる。」
「落ち着くって・・・、落ち着くっていつ?どんな状況?この状況だって、前より会えるし、私にとっては充分落ち着いている状況ですよ?」
それに、本当に落ち着いてしまったら、自分はそばに居られなくなる…。
「あ、あのさ…。」
横でハラハラと状況を見守っていた藤堂さんが口を挟む。
「大文字焼きくらい、一緒に見てあげても良いんじゃ…?」
「隊務はどうする。家に迎えに行って、ここに来て、送って行く。その間は隊務に支障をきたす。」
「でも、ここまでれいさんが言うのも珍しいと思って…。」
藤堂さんの言葉に、斎藤さんがれいをじっと見て伺い始める。






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