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道すがら、れいは近藤さんに事の顛末を報告した。 しかし、報告も何も、正直突然乗り込んでこられて、桜井さんには逃げられた・・・という事くらいしかない。 本当に、家に着くまでの数分で済んでしまった。 しかし、家から数分しか歩いていないのに、何故間に合ったのだろう・・・? そう思うと、斎藤さんが疑問に答えてくれた。 「桜井の行動を監視していた。それが、突然走り去っていったので、それは山崎が追っている。すぐに掴まるだろう。それから、俺は巡察の途中に山崎から報告を受けたのと、お前の店の常連が必死で走っているのを見て呼び止めたんだ。そうしたら、紙を押し付けて走り去っていったから中を確認したら・・・。」 はぁ・・・と溜息を吐いて額に手を当てる。 斎藤さんの苦悩が分かるだけに、何か言いづらい。 あえて違う話題にして気分を変えてもらおうと思って、近藤さんに話しかける。 「で、近藤さんは?近藤さんも・・・巡察ですか?」 「いやぁ、俺は・・・、君に謝りに行く途中だったんだ・・・。」 「私に、謝りに・・・?」 思いもかけない言葉を聞いて、お茶を出す手が止まる。 「何か謝ること、ありました?」 「ああ。桜井君を紹介したのは俺だ。彼はどうも、隊と溶け合っていなかったようで、肩に傷も負ってしまって・・・。それで塞ぎ込んでいたから・・・。れい君と一緒に居れば元気になるだろうと思ったんだが・・・。君にこれほどの迷惑をかけてしまうことになるとは・・・。」 「いえ、良いです。気にしないでください。結局はこうして助けていただいたんですから。」 お茶を出しながら笑顔で言うと、近藤さんが申し訳無さそうに笑い、鼻の頭を少し掻いた。 「いやしかし、れい君は本当に度胸があるな。」 島田さんが感心したようにしみじみと言うので、れいは何かしたか?と思わず聞き返してしまう。 「度胸?」 「ああ。あの状況で、俺から逃げ出そうとするとは、中々出来るものじゃない。転げ落ちてでも逃げようとされるとは思わずに、足だけでぶら下げてしまって、本当に申し訳ない。」 男らしく、しっかりと頭を下げて謝ってくれる島田さんに苦笑いをして返す。 が、視線が痛い・・・。横から凄まじく危険な視線が飛んできている気がする。 「れい・・・・・・。」 しかも、声にも棘がふんだんに含まれているような気がする・・・・・・。 「はい?」 視線が飛んでくる方を見ないようにして返事をするが、何やら変化を感じ取って、島田さんが近藤さんを見て目で合図をしあう。 「何故、そんな無茶をした?」 「・・・・・・。」 「手紙を託したなら、助けが来るまで待っていれば良かっただろう。」 「助けが来ないかもしれないでしょう?」 「助けが無いわけ無い。」 「それは、斎藤さんの意見です。でも、近藤さんや土方さんはどう判断するか分からないでしょう。」 「局長も副長も、お前を見捨てるはずがない。」 「いや、うむ。見捨てることなどしないぞ?」 近藤さんが、合いの手を入れてくれる。が、斎藤さんの様子は変わらない。 「ほら。局長もこう言っている。何故、大人しく待っていられなかった?」 「何で大人しく待っていなければいけないの?その間に何があるか分からないじゃない。」 「その為に、島田さんが居たんだ。」 「島田さんが居るなんて、知りませんでした!」 「う、うむ。すまない。早めに言えれば良かったのだが・・・。」 今度は島田さんが合いの手を入れてくれるのだが、それすらも無効のようだ。 「あまり運動が得意では無いのだから、下手に動いたらまた大怪我をすると言っている。」 「わ、私だって、きちんと自分の身は自分で守ります!運動が苦手だって、ちゃんと出来ます!」 「ちゃんと出来たつもりで、この怪我だっただろう。」 斎藤さんが、れいの腕を掴んで着物を捲くる。そこに残っている傷跡を見せ付けられて、頬が膨らむ。 近藤さんと島田さんが、静かに小さくなってお茶を啜っている・・・。 「今回は襖は無かったもの!」 「段差は有ったんだろう?飛び降りると、また足を挫く。」 「また挫くとか、また怪我をするとか、私そんなにドジじゃないよ!?」 「運動が得意では無いと言っている。」 「運動が出来なくても、鈍くても、ドジじゃないもの!」 「ドジじゃなくても、反射神経が鈍ければ怪我をすると・・・」 「まぁまぁまぁまぁ!!二人とも!少し落ち着きなさい。」 近藤さんが湯飲みを卓に戻して、俯いていた顔を上げる。 二人が睨み合っている間に居るだけに、居心地が悪いのだろう。 「れい君。斎藤君の言うことはもっともだぞ。女の子があんまり無茶をしてはいけない。」 「ええ。そう思います。俺も、屋敷に着いたら伝えようとしていたのですから。局長も副長も、きちんと準備を整えてくれていたのですよ。」 「・・・・・・。」 れいが二の句を告げないで居るのを、少しだけ斎藤さんが目元の鋭さを緩めて頷く。 「気付いていないのかもしれないが・・・、頬、腫れているのだぞ?」 近藤さんがそう言って頬に触れてくる。 「ぃぃったい!!」 そっと触れられただけなのに、驚くほどに鋭い痛みが走って、蹲って頬をそっと手で包み込む。そうすると、今度はお腹が痛くて前かがみになれずに背筋を伸ばす羽目になる。 「ぅぅ・・・、冷やしてきます・・・。」 涙目で言うと、れいはお勝手に行き、手ぬぐいを水に浸してから絞り、頬に当てた。 確かに熱を持っているらしく、すぐに手ぬぐいが温くなる。 お店の中で、島田さんが豪快に二人に謝っている声が聞こえる。 れいは戻ると、すぐに「島田さんのせいじゃ無いですよ。」と微笑んでみせる。 そして、斎藤さんを睨みつけた。 「どうせ、私がいけないんですよね?ええ、そうですね。私がいけないんです。どうもすいませんでした!!」 一歩下がって、三人に向かって正座をして、三つ指を突いてお辞儀をする。 「本当に、今日は有難うございました。大変助かりました。桜井さんの件は、決まり次第お教えくださいますよう、お願い申し上げます。さて、新選組の局長ともあろうお方が、このような場所でいつまでも遊んでいたら、鬼の副長に怒られてしまいますよ。」 顔を上げて、三人に向かって微笑むと、先にたって出口へと移動する。 近藤さんと島田さんが、気まずさから立ち上がり出口へと近寄ってくる。 「本当に、有難うございます。」 二人には心を込めてお礼を言い、送り出す。 「あ、ああ。また、すぐに連絡をするよ。」 「はい、お願いします。」 手を振って送り出してから、振り返って未だに座り込んでいる斎藤さんを見つめる。
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