れいは息が整うと、男たちを見回してみた。
先頭を歩く男がこの中では一番権力がありそうだが、きっと店に行くともっと上に人が居るのは間違いないと思う。
その他に、京言葉を喋る男、家の中を確認して、今自分を抱き上げている男。そして、その後ろに二人、ただ従っているだけの男が居る。
五人の男の中からどう逃げるか・・・。それとも、逃げずに助けが来るのを待つか・・・。
何故、自分はこうも連れ去られてばかりいるのだろうか・・・?江戸に居た頃には考えられなかった。京という町のせいなのか、それとも、自分の環境が変わったことにより、雰囲気も変わったのか・・・・・・。
否!今回に限っては、自分がどうこうではなく、桜井さんが全ての元凶だ!!
そう思ったら、腹立たしさが臨界点に達し、れいは抱き上げている人の胸に手を思い切り突っぱねて押して、そのまま腕から転がりようとした。
が、思いのほか反応が早く、上半身だけがぶら下がり、足を持ち上げられている形になってしまった。
「この!放せ!」
「危ないですよ。しっかりと掴まっててくれないと・・・。」
「危ないですよ!じゃな〜い!この人攫い!人攫い〜〜!!!」
れいが喚いた事で、前に居た二人が振り返って睨んできた。
「人攫いたぁ、どういう意味だ!お前の父親が悪いんだろうが!」
「だからって、こんなのおかしいでしょう!何で私が攫われなきゃいけないの!?」
「攫ってんじゃねぇ!お前は借金のかたに売られるんだよ!」
「借金のかた!?いつの時代の言葉よ、それ!って、どうでもいいけど、早く放して!降ろして!」
道行く人々が遠巻きに見ていく。みんな、関わりたくないと思っているのが丸分かりで更に腹が立つ。
「何でみんなも黙って見てるの!?こんなのおかしいでしょう!!」
足だけを掴まれて宙ぶらりんの状態で、れいは両手を精一杯振り回しながら叫んでいるのだけれど、どうにも格好がつかない。足もバタつかせているのだけれど、力を入れているようには見えないのに、ガッチリと掴まれていて動かせない。
「いい加減にしねぇと、気絶させて無理やり連れて行くぞ!!?」
「気絶してなくたって無理やりじゃない、こんなの!」
先頭を歩いていた男が近づいてきて、れいの胸倉を掴んで持ち上げる。
「放して!」
「無理に決まってんだろうが!」
胸倉を掴む腕に力を入れて、襟元を締められる。
足だけを掴んでいた腕が背中に回り、体勢の苦しさは無くなったけれど、今度は首が絞まって息が苦しい。
手で男の拳を放そうとするが、少し離れただけですぐにまた締められてしまう。
「それ位にしてあげられませんか?」
自分を抱き上げている男が実直そうな声を出す。
「あ゛!?口出ししてんじゃねぇぞ!」
「っは。ですが・・・。」
「新入りは、黙って仕事してりゃ良いんだよ!」
「ぅぅ・・・っく・・・・・・」
息が苦しくて、目の前が霞んでくる。指に力が入らなくて震えてしまう。けれど、それでも必死に男の拳を退ける為に掴む。
「そこまでだ!!!」
突然、どでかい声が耳に飛び込んできたと思うと、れいを抱き上げている男が首を絞めている男を蹴りつけて拳を振り払った。
急に息が吸えるようになり、激しく咳き込むれいを抱えたまま、声がしたほうへと駆け出していく横を、数人の影がすれ違っていく。その手には白く光る一筋の光が握られていた。
その中に、暮れかけた蒼い空が見えた気がした。
「れい君、大丈夫か!?」
地に下ろされ、そこに駆け寄る人を見上げる。
「こ、近藤さん!?」
新選組局長、近藤勇その人だ。
何故、局長である近藤さんがこんな場所に・・・?
「あの・・・、有難うございます・・・・・・。お出かけでしたか?」
ヒュウヒュウ鳴る喉を押さえながら尋ねると、近藤さんは物凄く申し訳無さそうに眉を寄せてれいを覗き込む。
「うむ。君を助けに来たんだ。」
「ぇえ!?局長自らですか!?何を考えていらっしゃるんですか!駄目ですよ、そんなの!」
「いやぁ、しかし・・・。」
助けた本人に叱られて、近藤さんが頭を掻く。しかし、れいはそんなのお構いなし、という感じで、後ろを振り返って自分を抱き上げていた男を見上げる。
「で、あなたは一体誰なんです!?」
「自分は、新選組監察方の島田と申します。」
「・・・・・・新選組監察方・・・?」
と言う事は、自分が知らなかっただけで、新選組は動いてくれていたということだ。
「はぁ〜〜〜・・・・・・。」
れいは大きく息を吐いて、仰向けに倒れこむ。
「れい!!?」
叫びと共に、駆け寄ってくる足音がする。そちらを向いて、微笑みかけて手を上げると、握り締めて引き起こしてくれる。
片膝をついて自分の手をしっかりと握ってくれる斎藤さんの膝の上に、額を乗せる。
「大丈夫。安心したら力が抜けちゃっただけ。」
「良かった・・・。」
「さ、れい君。とりあえず、屯所に戻って話を聞かせてもらえるか?」
近藤さんが立ち上がりながらそう言うのを聞いて、やっと顔を上げて周りを見渡す。
男たちは隊士たちに捕縛されているようで、斬り殺されてはいなかった。何となく、それだけでまた安心した。
斎藤さんが先に立ち上がり、手を引いてくれる。助けられながら立ち上がると、近藤さんに首を振る。
「屯所には行けません。あまり屯所に出入りしない方がいいので・・・。あの、家に送ってもらいがてら、お話するので良いでしょうか?」
「う、うむ・・・。しかし・・・。」
「単純な話です。あれでしたら、店でお礼にお茶をご馳走します。」
「ああ。そうしましょう、局長。」
斎藤さんが同意してくれる。
近藤さんが島田さんを見ると、島田さんも頷いて、結局家で話すことになった。






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