山崎さんに桜井さんのことがバレてしまった日から数日がたった。
桜井さんはと言うと、翌日普通に帰ってきて、また寝てばかりの生活を始めている。
山崎さんがどう土方さんに報告したのか分からないが、とりあえず任せたのだから・・・と思い、今まで通りに接している。
しかし、静寂は突然破られた・・・。
「失礼するよ。」
そう言って、数人の男たちが店に顔を出してきた。
「いらっしゃいませ。」
笑顔で出迎えると、男たちはれいを見てにやり・・・と気持ちの悪い笑みを見せる。
「ほう、あんた、桜井って男の娘か何かか?」
「はぁ・・・。はい。」
どうも、お客さんとして来た訳では無さそうな感じがして、思わず身構える。
「あの、髪結い・・・に来たのでしょうか?」
「いいや、違うぜ。」
せせら笑う男の声を聞いて、れいの前で耳かきをされているお客さんが目を開ける。そして、男たちを見て顔を顰める。
「お父さん、呼んでくれないか?」
「え・・・、ええ。」
立ち上がり、奥へと行こうとすると、お客さんが小さな声で呼び止める。
「金貸しどす。なんや、お父さんあんな奴らに金借りはったん?横田屋言うてな、あっこの店、悪徳や言うて有名どすえ!?」
「そうなんですか!?そんな素振り・・・・・・」
あった・・・。そんな素振りは沢山あった・・・。
顔から血の気が引く。よろめきながら立ち上がって奥へと行くと、そこには既に桜井さんの姿は無く、扉が開け放たれたままにされている。
眩暈を起こしそうになりながら、文箱から紙と筆を出して、走り書きをする。
それを懐に入れて店へと戻ると、男たちが店先に座り込んで一斉にこちらを振り向いた。
「なんだ、お嬢ちゃんだけか?」
お嬢ちゃんて・・・、そんな年齢じゃないのだけど・・・。
心の中で突っ込みつつ、そんな自分に余裕を取り戻して睨みつける。
「父は生憎出かけてしまっているようで、不在です。何の用か知りませんが、また後日来ていただけますか?」
「そうはいかないんだな。今日、貸したお金耳をそろえてお返しいただかないと、俺らも帰れないんでな。」
「一体、いくら借りたんですか?」
「ほう、お嬢ちゃんが返してくれるのか?」
男の目が光った。背筋がゾクリと凍る思いがした。
「520両ぽっちですよ。すぐに返せるとか何とか、言ってましたけどねぇ。」
「ご、ごひゃくっ!?そ、そんなお金、何に!?無理ですよ!いくらなんでも、有る訳ありません!」
「何言うてはんねや。随分と儲けてはる言うて、聞きましたえ。」
違う男が口を挟んでくる。
儲けているって、一体誰にそんな事を聞いたんだろうか・・・。
「そんなに儲けられたら、苦労していません!」
「父親に内緒で仰山溜め込んではる、言うたはったで。」
と、言うことは、桜井さんが言ったのだろう・・・。一体、どうしてそのような話になったのだろうか・・・。儲けたお金は、桜井さんの食費として、かなり出て行ってしまっている。新選組も困窮していると聞くから、打診できずに居たというのに・・・。
「なんや、金庫に売り上げ入れてあるてなぁ。それ、もろうて行きますわ。」
「だ、駄目ですよ!それは家賃と食費なんです!」
間に挟まれたお客さんが、居心地悪そうに身じろぎすると、立ち上がった。
れいは慌てて駆け寄ると、懐から紙を取り出して手に握らせた。
「これを、新選組屯所へ。つけておいたお代金、支払いに来てくれって言ってたと言って、渡してきてもらえますか?」
囁くように訴えると、お客さんも小さな声で答えてくれる。
「新選組て!そんな、関わり合いになりとう無い!」
「お願いします!今日のお代、タダにしますから!」
れいの必死の様子とタダという言葉につられて、お客さんが頷いて出て行った。
それを目で追いながら、男たちが客の居なくなった店内を探し出す。
「金庫を見たって、お金なんか入ってないです!家賃支払ったばかりですから!」
「それでも、金になるものはいくらでもあるだろう?」
「無いですよ!!」
正直、本当に金になるような物など無いのだ。着古した着物と、晴れ着が二着。晴れ着はもしかしたらお金になるかもしれないが、それでも微々たるものだ。
他は桜井さんの物と山崎さんの物。
桜井さんの物は自業自得だ、いくらでも持っていけば良いが、山崎さんの荷物は困る。中には薬を処方するときに使うものも多々入っているのだ。
「本当に、今はこれしか無いんですよ!」
金庫を開いて見せる。中には数十枚の銅銭が入っている。ここ最近の売り上げだけだ。
「ふざけるんじゃねぇ!どっか他に隠してるんだろ?」
「そんなの、父の勘違いですよ!ありません!」
自宅部分へと足を踏み込もうとしている男の腕を抑えて行かせまいとするが、簡単に振り払われてしまう。
部屋の中の箱を漁られて、山崎さんの荷物まで開けられてしまう。
しかし、山崎さんの荷物の中身の使用方法が分からなかったのか、物自体を知らないのか、すぐに蓋を閉めて放置してくれた。それに安堵の溜息を吐いて、指図している男へと腰に手を当てて怒鳴りつける。
「全く!娘一人に働かせて、自分はのうのうと何もしないで寝てばかりいる父を抱えている私のどこにお金があると思えるの!?有る訳無いじゃない!!どう考えたって、父の勘違いでしょう!?」
実際の自分の父親は、絶対にそんなことはしない。それだけに、この台詞を吐き捨てなければいけない今の状況に腹が立ってしょうがなかった。
「何考えてるのよ!!どこの悪党だか知らないけどね、言ってる事が一々芝居臭くて気持ちが悪い!もっと上手なことを言ったらどうなの?何なのこの状況!これだって、三流芝居見ているほうがまだマシよ!」
来る・・・。
そう思った。そして、案の定来た・・・。
予想通りの行動も、芝居よりも面白みが無くてつまらない。つまらないが、痛い・・・。
右頬に激しい痛みを感じて、更にお腹を蹴りつけられて体勢を崩すと、上から足で踏みつけられた。
「おい、お前、自分の状況を分かってないな?」
「分かってるから、言ってるんじゃない・・・」
更に体重をかけられて息が詰まる。男の顔が真剣な怒気を孕んでいる。
「金がないなら、お前が稼いで来い。うちが経営している店でな、島原や祇園なんかじゃ味わえないような店があるんだよ。そこで雇ってやるよ。」
「ぉ・・・こと・・・わ・・・・・・りっ!!」
詰まる息の隙間から何とか声を絞り出すと、男が目を更に吊り上げて踏みつける足で蹴り上げられた。
「っぐ・・・げほっ、げほっっ!!」
お腹を押さえて蹲るれいを誰かが持ち上げる。しかし、抵抗するほどの力がのこっていない。そのまま横抱きにされて、運ばれてしまう。
傍から見ると、苦しんでいるれいを病院に連れて行ってくれているようにも見えるだろう。
やる事言う事三流だけれど、自分たちの逃げ道を用意することは一流のようで、悔しい・・・。






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