六人が向かったのは、前の屯所だった八木邸がある壬生の方だった。
畑が沢山あり、町中よりは風が通り涼しいが・・・、ここら辺に川などあっただろうか・・・?
「あの、あまりこっちのほう詳しくないんです。川、ありました?」
「ああ。あるぜ。」
ほら、と言って指し示された方を見ると、そこには確かに川・・・がある。
「川・・・。」
用水路・・・?
川・・・?
小川・・・・・・?
恐らくは、どこかの川から畑用に引いて来た川というには細いが、小川というには太目の流れがある。
所々に木も生えていて、木陰になっている。
風が吹けば涼しい。良い涼になる。
「こんな場所があったんですね。」
確かに、ここなら泳ぐほどの広さも深さも無くて安心する。
人が二人並んだら川幅はいっぱいになる膝よりも下の水位。
けれど、水の音が耳に心地良い。
川縁に座り込んで、原田さんが持ってきた荷物を紐解く。
中からおにぎりが沢山出てくる。
「はい、れいさんもどうぞ。」
おにぎりを一つ、千鶴ちゃんが差し出してくれる。
「有難う。」
お礼を言って受け取り、千鶴ちゃんが座り込んでいる横に座る。その横に斎藤さんが座り込んでくる。
千鶴ちゃんの奥に藤堂さん、原田さん、永倉さんと続き、三人は川に足を浸ける。
斎藤さんが千鶴ちゃんからおにぎりを受け取り頬張る。
三口位であっという間に食べてしまう。
奥を見ると、男達三人もペロリと平らげて、直ぐに次のおにぎりを口へと運ぶ。
「斎藤さん、場所変わります。」
おにぎりを取り辛そうにしている斎藤さんへと告げて、反対側へと回り込む。
千鶴ちゃんの前に広げられたおにぎりを次々に平らげていく男達を見て、呆然とする。
山崎さんも食べる方だし、
桜井さんもよく食べるな…とは思っていたが…。
隊士たちは肉体労働だから、食は基本だ。が、この早さには驚く。
何度か、夜に食事を共にしたが、その時はお酒の減りの早さに呆然としたものだ。
「よく食べますねー。」
斎藤さんに問いかけると、斎藤さんが振り向く。
何個目のおにぎりだろうか、最後の欠片を口に放り込み、頷く。
れいは、一個目のおにぎりを未だに食べている。
夏の暑さで食欲がわかないのも有るが、今はあっけに取られて食べ忘れていただけだ。
こんな大食漢に囲まれているからか、未だ育ち盛りなのか、千鶴ちゃんも三つは食べている。
千鶴ちゃんの前に山と積まれていたおにぎりは、後二つしか無い。
斎藤さんが、その中の一つを確保する。そして直ぐに最後の一つを藤堂さんが取り、原田さんに奪い取られ、永倉さんがそれにかぶりつく。
「あ!新八!この野郎!」
原田さんが立ち上がっておにぎりを高い位置にまで持ち上げて守ると、藤堂さんがそれに跳ねて飛びつく。
「左之さん!俺が取ったおにぎりだぜ!」
「うるせえ。身体が小さいんだから、もうやめておけ!」
「まだまだ育ち盛りなんだよ!」
「ほおー、平助!お前はいつまで育ち盛りのつもりなんだ?」
お腹をさすりながら永倉さんがからかう。
「そうだぞ。いつまでも、背が伸びる、とか、男らしくなる、とか、夢見てられるわけじゃねえぞ。」
原田さんが藤堂さんの頭に手を置いて、下へと押し付ける。そのまま、顔を背けておにぎりを食べ尽くす。
「あーーー!!」
悲鳴をあげて、藤堂さんが原田さんに飛びつく。
そんな三人を眺めながら、おにぎりを食べ終わると、斎藤さんが確保していたおにぎりを渡してくれる。
「え?」
「一個しか食べていないだろう。」
「あ、はい。でも・・・。」
「お前のためにとっておいたんだ。」
れいの手に乗せると、斎藤さんは手を放してしまう。その奥で千鶴ちゃんが風呂敷を畳んで、はしゃぐ三人からお水の入った筒を守るために場所を変えている。
「あ、有難う。」
おにぎりは大きさの割りに中身がギュッと詰まってて、一個食べただけでお腹はいっぱいになったのだけれど・・・。
斎藤さんの気遣いに触れて、微笑む。そして、おにぎりを半分に割ると、大きいほうを斎藤さんへ差し出す。
「斎藤さん、まだ食べられます?私、半分で十分です。」
「半分で足りるのか・・・?」
「足りますよ。普段からそんなにいっぱい食べないです。」
そんなにいっぱい食べられるような贅沢が出来なかった・・・が正解なのだが。
「そんな量で・・・、維持出来るものなのか・・・?」
斎藤さんの視線が、顔よりも下に移る。
れいはムッとして斎藤さんが居ない方へと身体を向ける。
「太ってて悪かったですね!」
「いや、そんなつもりでは・・・。」
おにぎりを口いっぱいに頬張って、口をもぐもぐと動かす。
梅干の酸っぱさに目をギュッと閉じる。
「すまない。太っていると言った訳では無く・・・。」
斎藤さんが後ろでブツブツと言っているのを一応聞きながらおにぎりを食べ続ける。
「そ、その・・・。胸のことを言ったのだが・・・。」
思わず噴出しそうになって、無理やり口の中にあるおにぎりを飲み込んだら、欠片が器官に入って激しく咳き込んでしまった。
なんて事を・・・!!
「だ、大丈夫か!?」
「れいさん?お水どうぞ!」
千鶴ちゃんが慌てて駆け寄ってきて筒を渡してくれる。受け取って水を飲み込み、何とか落ち着ける。斎藤さんが背中を擦ってくれているが、誰が元凶だ・・・と恨む。
「大丈夫ですか?」
千鶴ちゃんが心配そうに覗き込んでくれる。
「顔が真っ赤ですよ?」
れいは首を振ってから頷いて大丈夫だと訴えるが、心配そうな顔は治らない。
「大丈夫。もう落ち着いた。」
はぁ〜、と深呼吸をして、千鶴ちゃんに微笑むと、やっと安心したのか、笑顔を返してくれる。
反対側を振り向いて斎藤さんを睨むと、斎藤さんがビクリと怯える。
にっこりと笑って、
「斎藤さん、ちょっと・・・。」
手招きしてから立ち上がり、斎藤さんが立ち上がるのを確認すると歩き出す。
斎藤さんが首を傾げてついてくる。
少しだけ千鶴ちゃんと離れて、聞こえない位置を確保すると、小さな声で斎藤さんに文句を言う。
「斎藤さん!!」
文句を言う・・・。言いたい。言いたいのだが、何て言ったらいいのか分からずに、結局顔を紅くしてそれ以上何も言えない。
「れい?」
不思議そうに見つめてくる斎藤さんに、肩の力が抜けてしまい、結局怒りも恨みも何も無くなってしまう。
「はぁ・・・・・・。ご飯が少なくたって、胸は小さくなりません。なるんだったら、とっくにもっと小さくなってます。」
普通に説明してから、斎藤さんがおにぎりを持ったままなのに気付き、それを受け取って斎藤さんの口に詰め込む。
また変なことを言われては困る・・・。
斎藤さんは首を傾げながらおにぎりをすぐに食べきる。
そして、結局変なことを口走る。
「それから、太っていないと思う。その、触り心地が最高だ・・・と。」
ボッとれいの顔が再び真っ赤になる。
「ふわふわしていて、いつまでも触っていたいと思うほどに肌馴染みが良い。」
「だ、だから!人前でそういう事を!」
「人前ではない。今はお前しか聞いていない。」
「周りにみんなが居ます!」
「さ、触るのは我慢している・・・。」
「当然です!」






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