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れいは、千鶴ちゃんに手伝ってもらいながらお風呂に入ることが出来た。 気持ちがスッキリして、気分も良くなった気がする。 夕飯の支度を中断させてしまったことは悪かったが、どうやら自分から手伝いを申し出ているらしく、もともとは今日は当番では無かったらしい。 頑張るなぁ・・・と感心してしまう。 お風呂にも入り、気分も上がり、るんるんしながら、部屋で千鶴ちゃんに与えてもらった、と言うか、奪い取った繕い物を始める。 頑張っている千鶴ちゃんは、仕事をいっぱいしている。 少しでも新選組の助けになりたいと、率先して仕事を探している。 繕い物は、彼女の仕事の中では一番ジッと動かずに出来るものだったので、与えてもらったのだ。 夕飯も食べ終えて、後は眠るだけのこの時間、一番暇をもてあます時間だったので嬉しい。 黙々と針を動かす。 細かい作業は、無心になれて好きだ。 こうして、家でも一人で黙々と細かい作業をして過ごしている。 剃刀を研いだり、付け毛を直したりなど、本当に細かい作業を無心でしている。 こうしていると、家で一人で居るような感じがして、安心する。 斎藤さんは昼に出て行ってから、夕方には帰ってきているらしい。 けれど、捕り物の後処理に追われていて忙しいらしい。千鶴ちゃんの話だと、夕飯も来なかったらしい。 土方さんの信頼も厚い斎藤さんのことだ。きっと、色々とやらされているのだろう。 けれど、無事に帰ってきて良かった・・・。 肩の力が抜けた。 それも、気分が上がった理由の一つだと思う。 繕い物は順調に進んでいる。 細かい作業は得意で、さくさく進んでしまう。さくさく進んでしまうから、すぐに終わってしまう。 終わってしまったら、また何もしない時間が来てしまう。 そんなことを考えて、ふと手を止めて考え込む。 自分が今繕っているものは、確か斎藤さんの物だったと思う。 千鶴ちゃんの裁縫道具の中から、ほんのり優しい桜色の糸を取り出した。 散っていく紅い花びらの残像を消し去りたくて、その上に桜の花びらを縫い付ける。 形が崩れて、血だまりにならないようにしっかりと。 儚く散らないように、咲いている桜を縫い付けて、ホッと息を吐く。 「こんなの、気づかないだろうな。気づいても、千鶴ちゃんだと思われたりしてね。」 綺麗にしっかりと縫うとなると、それなりに気を使う。 ゆっくりと丁寧に縫い、桜の花を咲かせ終わると、内側に織り込んで畳んだ。 次の繕い物に差し掛かったとき、襖の向こうから声がかけられた。 「れい?」 「はい、斎藤さん?」 「入って良いか?」 「勿論。どうぞ。」 繕い物を横に退けて、斎藤さんが顔を出すのを迎え入れる。 「遅くなってすまない。」 気にしていてくれたらしく、無表情なりに申し訳なさそうな様子が伺える。 「大丈夫です。怪我も無く無事に帰ってきてくれたんですから。」 近寄ってくる斎藤さんに笑顔を向けると、斎藤さんがホッとしたように息を吐く。 「あれ、斎藤さん髪の毛濡れてますよ?」 「ああ。先に風呂に入って、汚れを落としてきた。」 「汚れ・・・、そんなに泥だらけになるような事だったんですか?」 「いや・・・・・・、返り血だ。」 少しだけ言いにくそうにして、答えてくれる。 「返り血・・・・・・。」 血の池の中に浮かぶ斎藤さんの、何も見ていない瞳が浮かび上がる。 斎藤さんの腕を掴んで、顔を見上げる。 その瞳が不安に揺らぐのを見て、斎藤さんが頭の上にポンと手を乗せてくれる。 「俺は大丈夫だ。怪我は無いと言っただろう。」 「・・・はい。」 何とか笑顔を見せて、手ぬぐいを持ち出す。 自分の髪を拭いたものだ。 それを斎藤さんの髪の毛に当てて、水気を拭う。 「こんなに濡れていたら、風邪を引きますよ。」 「急いでいた・・・。」 「ここに来るのに?」 「ああ。」 髪紐を解いて、手ぬぐいで髪を一度大まかに拭いてから、毛先の水を拭ってあげる。 俯いてされるがままになっている斎藤さんを見て、思わず母性本能をくすぐられる。 巡察中の隊士が発見してくれていた自分の風呂敷包みの中から櫛を取り出し、髪を梳いてあげる。 この風呂敷包みのおかげで、れいが攫われたのだと分かったらしい。 斎藤さんの背に回るのではなく、抱き付くように髪を梳く。 その身体を、斎藤さんが腕を回して支えてくれる。 斎藤さんの顔の前にれいの胸があるのを、顔を赤くして俯いて気をそらしているらしい。 「私も、お風呂に入らせて貰えたの。今日は綺麗だよ〜!」 わざと、胸を押し付けて斎藤さんの頭を抱きしめる。 「む・・・。」 斎藤さんのれいを抱きしめる腕が硬直する。 頭を放して、目線を合わせると、斎藤さんが真っ赤になって視線を反らせる。 「斎藤さんって、いつまでも慣れないですねぇ。」 「慣れるわけが無いだろう・・・。」 「自分から口付けてくれるようになっても?」 「・・・・・・。」 黙り込む斎藤さんの唇に、そっと唇を重ねる。 「生きているから、こうして口付けが出来ますね。」 そう告げて、斎藤さんの首に吸い付き、赤い花を散らす。 斎藤さんが、頬に手を当てて、深く口付けてくれる。 それを受け入れて、生きていることの幸せを噛み締める。 斎藤さんがこうしていてくれる限り、生きているのも良いかも・・・。 そんなことを考える。
それからしばらくして、広島出張中の近藤さんが帰ってくる。 れいは、家に刀を握れなくなった年長の隊士を迎え入れ、父娘として生活をしていくこととなる。 小競り合いは相変わらずだけれども、大きな展開は無く、日々を大事に過ごせていた。 これがみんなにとってとても大事な幸せな時間だと、今は誰も知らない。
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