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池に浮かんでいる・・・。 紅梅の紅さが目に染みるほどに、日の光を反射している池の水面が揺れる。 揺れる度に、紅梅の花びらが形を変えていく。 そして、その真ん中に、浮かんでいる・・・。 それが・・・・・・、ゆっくりと形を変えていく・・・・・・。 紅梅の花びらが一つ一つ繋がり、流れ出るような赤い液体へと変化する。 真ん中に浮かんでいるモノから流れ出てくる・・・。 池の水面が全て赤く染まり、光の反射が落ち着くと・・・、何が浮いているのかがハッキリと見えるようになった。 仰向けに倒れて、浮かんでいる・・・・・・、斎藤さんの瞳は何も映していなかった・・・・・・。
「・・・!!!!」 声にすらならない悲鳴を上げて、れいは布団から飛び起き、腕に走る痛みに呻いた。 背中に冷たい汗が伝い、呼吸が荒くなる。 腕を胸に抱いて痛みが治まるのを待ちながら、呼吸を整える。 いつの間にか眠ってしまっていたらしい。 だから、眠るのは嫌なのに・・・・・・。 しかも、今回の夢は最悪だ。池に浮かぶ夫が、斎藤さんに変わっていく。 助けに行きたいのに、足が動かない、声も出ない、駆け寄って抱き上げたいのに、自分はそこでただ立ち尽くすだけで、呼吸すらままならなくなる。 「も・・・、やだ・・・。」 心臓の暴走が収まらない。いつまでも耳の奥でドクドクと早く鐘を打つ。 一体、いつまでこんな夢を見なければいけないのか・・・。 何度か見ることはあったけれど、これだけ毎日、いつまでも、いつまでも見続けることはなかった。 自分の中の不安の現れだと分かっている。分かっているけれど、どうすれば見なくなるのかが分からない。 障子越しの明かりが大分紅くなっている。 夕刻だと分かる。 汗で気持ち悪い・・・。額の汗は拭うことが出来るが、背中の汗は自分では拭えない・・・。 ようやく呼吸が落ち着いて、れいはゆっくりと立ち上がった。 千鶴ちゃんの部屋へと行こうと思ったのだ。 けれど、部屋に千鶴ちゃんは居なかった。 この時間なら、もしかしたらお勝手で夕飯の準備かもしれない。 自分が行くわけにはいかない・・・。 「はぁ・・・。」 溜息をついて、土方さんの部屋へと移動を開始する。 捕り物に出ていて、居ないかもしれない。けれど、居るかもしれない。 ゆっくりとしか進めないのがもどかしい。 ゆっくりだけど急ぎ足で土方さんの部屋へ着くと、外から声をかけた。 「土方さん、居ますか?」 「ああ。」 「ちょっと、失礼しても良いですか?」 「ああ。」 返事を聞き、襖を開ける。 中で、土方さんが相変わらず書類を前にして座り込んでいる。 前に来た時と変わらない光景が広がっている。時間が進んでいないような感覚になる。 「土方さん・・・・・・、一体いつまで机に噛り付いているんですか・・・?」 「はぁ!?」 不機嫌そうな声が返ってくるが、振り返らない。 「余計なこと言ってんじゃねぇ。用がないなら帰れ!ったく、一日に何度も部屋を出やがって・・・。」 言葉の端々が尖っている。それだけで、機嫌の悪さがどれほどなのか伺える。 「あの〜、お風呂に入りたいです。」 「・・・・・・。」 土方さんは、返事をしてくれない。 「あの〜、お風呂に入りたいです!」 さっきよりも大きな声で言うと、土方さんの肩がピクリと動いたのが見えた。 「聞こえてるなら、返事をしてください。」 「じゃあ言うが・・・。」 筆を置いて振り返ると、一度れいを睨みつけてから口を開いた。 「その怪我でどうやって風呂に入るってんだ?熱だって下がったばかりなんだろう。そんな奴を風呂に入れるわけが無いだろう。」 怒鳴りつけられると思っていたら、案外冷静に諭されてしまった。その表情は不機嫌そうではあるけれど、心配もしてくれているらしいと分かる。 「腕をお湯に浸けなければいいんじゃない?千鶴ちゃんに手伝ってもらって。」 「足だって、温めないほうが良いんだよ。」 「じゃ、足も風呂桶から出して入る。」 「馬鹿かお前は!」 「それは冗談だけど、そんなに長く浸からなきゃいいじゃない!」 「また熱が出たらどうするんだ!」 「まぁ・・・、それはそれ。どうせここから出られないんだし・・・。」 土方さんは一度溜息を吐くと、顎に手を当てた。 「大体、女を風呂に入れるっていうこと自体が嫌なんだよ。」 「でも、千鶴ちゃんだって、入るでしょう?」 「あいつは、みんなが寝静まった頃に入ってる。」 「じゃ、その時間でもいいから!」 「それじゃ、出たらすぐに冷えちまうだろう。熱がぶり返しちまう。」 もっともな言葉を返され続けて、段々と駄目なのでは・・・と落ち込んでくる。 「でも、お風呂に入りたい・・・。これじゃ、逆に病気になっちゃう・・・。」 「まぁ、言ってることは分かるが・・・。」 顎に当てている手を額に持っていき、眉間を揉み解し始める。 何とか考えてくれているらしいことが分かり、嬉しくなる。 「はぁ〜・・・。誰かを見張りに立たせるか。今から入れるようにするから、少し待て。」 「え、本当!?」 「何だ、入りたくないのか?」 「いえ!入りたい!入ります!有難うございます!」 「じゃ、ここで少し待て。」 「はい!」 土方さんが立ち上がり部屋を出て行く。 れいは、言ってみるもんなんだな・・・と、土方さんを見る目を改めた。
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