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受け取って、にっこり笑うと口に水を含んだ。 冷たい水が喉に心地良い。 そして、れいの悪戯心に火がつく。 「斎藤さんも、水飲んでください。」 「俺は必要ない。」 「必要なくても、飲んでね。」 斎藤さんの脚に手を置いて膝立ちになると、斎藤さんの脚の間に膝をつめて、自分の足で挟むようにして更に近寄る。 「な、何を!?」 「酔っ払いの言うことは聞きなさい〜。」 斎藤さんの鼻を指で突つく。 斎藤さんは、れいの行動をまったく予想できずに戸惑うばかりらしい。 唖然と見つめてくる斎藤さんの顔を微笑んで見返して、器に残った水を口に含むと、斎藤さんの顔を手で固定して、口付けして、少しずつ水を流し込む。 「!!?」 斎藤さんとれいの口の端から、飲みきれなかった水が零れ落ちる。 口内の水を全て斎藤さんに飲ませると、れいは満足そうに唇を離した。 「ふふ。」 顔中を真っ赤に染めて呆然としている斎藤さんの首筋に顔を埋める。 「千鶴ちゃんが好きなら、早く手に入れないと。土方さんにとられちゃうよ?」 「俺は、雪村のことは別に・・・。」 「まだ、そんなこと・・・。あまりそんなことばかり言うと、私が斎藤さんを、奪っちゃうよ・・・?」 首筋に唇を寄せて、そっと吸い付く。 「れい!?」 舌を這わせて、耳たぶを甘噛みして、ぞくりと震える斎藤さんの反応を堪能する。 「れい!」 斎藤さんが、れいの肩を掴んで引き剥がす。 「・・・・・・。」 少しだけ、頬に赤みを残して、眉間に皺を寄せて眦を吊り上げている。 「あ、あの・・・。」 「お前は、誰にでもこういう事をするのか?」 「え?」 「みんなに触らせて、抱かれて、誰にでも口付けて・・・。」 「・・・・・・?」 れいは、真剣に聞いてくる斎藤さんに、へらっと締まらない笑い顔を返す。 「斎藤さん?あ、あの・・・、怒ったの・・・?」 へたり、と座り込んで、斎藤さんの顔を見上げる。 斎藤さんの膝に手を置いて、前傾して顔を覗き込む。 「怒るというか・・・・・・。」 「あの、私、誰にも触らせてないし、抱かれていないし、むしろ寂しい独り身よ?」 こくり、と上目遣いに覗き込む顔を横に傾げる。 「副長に抱かれていた・・・。」 「持ち上げられていた・・・でしょう?」 「頭を触られていた。」 「握りつぶされた覚えは有るけど。」 「総司に頬を触られた。」 「思い切り振られたんじゃなくて?」 「俺には・・・せ・・・、接吻を・・・・・・。」 どもりながら聞いてくる斎藤さんの唇に軽く口付ける。 「これのこと?」 「っそ・・・、いや・・・その・・・。」 「斎藤さん、斎藤さん・・・。」 「な、なんだ?」 「ふふ・・・、眠くなっちゃった・・・・・・。」 れいはそう言うと、斎藤さんの膝に身体を乗せて、抱きついたままスースーと寝入ってしまった。 「・・・・・・。」 斎藤さんは硬直したまま、しばらく放心していた。 「はぁ・・・。」 ため息をついて、膝の上で寝入るれいを見つめる。 そっと頭を撫でて、剥き出しになった脚を、裾を戻して直す。 「ん・・・っ」 れいが身じろぎする。 ビクと、手を引っ込めて、再びため息をつく。 れいの瞳から零れ落ちる涙を目にして、胸が締め付けられたような気がした。 「んぅ・・・」 ぽろぽろと零れ落ちていく。それが、お酒のせいで潤んだ瞳の水分ではないことが分かる。 「れい・・・?」 囁きかけて頬の涙を拭ってやると、れいが抱きしめている手を緩めて、腕を触りだした。 何かを探しているのかと思ったら、ゆっくりと伝い降りてきて、手までくると、ぎゅっと握り締めて頬に擦り付けてきた。 零れ落ちる涙の意味を色々と考えてみるのだけれど、れいの温もりで何も考えられなくなる。 「お前は、誰でもいいのか・・・?」 何度も奪われる唇に指を当てて、先ほどの感触を思い出す。 そして、れいが他の人にもそうしている姿を想像して、胃が捩れるような感覚を味わう。その感覚が一体何なのか分からなかった・・・。 しかし、手を握り締めたことで安心したのか、れいの涙が止まって安心する。 「何故・・・、俺に接吻をするんだ?」 頬にかかる髪を掻き揚げてあげる。そうすると、れいの丸くふっくりとした頬が現れる。 この頬に触れた土方さんと沖田さんを思い出して、知らず舌打ちが出る。 小さな身体にたくさんの活力を詰め込んでいるのかと思っていたけれど・・・、数ヶ月前に道で倒れたれいに遭遇したときから、そうではなかったのか・・・と思うようになった。 れいは、動いていないと居られなかったのだろう・・・。あまり体力が無いのに、動かないと居られない・・・、それでは倒れて当然だ。 そして、今、彼女はこうして眠りながら温もりを探している・・・。 「ん・・・斎藤さん・・・?」 ふと、瞼が揺らいで、大きな瞳が開く。 自分を見つめて、はぁ・・・と息を吐くれいは、容姿は年齢よりも幼く見えるのに、やはりどこか大人っぽくて女らしい。 「もう起きたのか?」 「少し、スッキリした。」 「そうか。」 しかし、れいは起き上がらずに、そのまま斎藤さんの手を握り締めながら、膝の上に頭を預けている。 「あのね、斎藤さん・・・。」 「ん?」 「ごめんなさい。」 「何がだ?」 「酔って・・・、色々・・・。」 返事に窮していると、れいがそのまま言葉を続けた。 「でもね・・・、触りたいのも、触られたいのも、斎藤さんだけ・・・。だから、こうして起きるまでこのままで居させてくれて嬉しかった。有難う。」 だから・・・と続けながら、れいは身体を起こして、ゆっくりと離れていく。 「もう、大丈夫。もう十分だから。」 小さな灯り一つだけの部屋の中は、畳三畳ほどの広さだ。 小さな窓があるきりで、薄暗い部屋内で、れいが笑顔で泣いているように見えた。 「みんなのところに戻ってください。私は、帰るから。」 揺らめく炎の影で、れいがこのまま儚く消え去ってしまうのではないかと思った・・・。 思ったら、抱きしめないではいられなかった。 斎藤さんは、れいを抱き寄せて、力強く腕の中に包み込んだ。 「さ、斎藤さん!?」 「お前の大丈夫は、当てにならない。」 「・・・・・・。」 頬に手を当てて、自分の方を向かせる。 密着した身体が、お互いの熱で体温があがる。 「俺だけに触れられたいのだろう?」 尋ねると、れいがこくり・・・と頷く。 「ならば、何故離れようとする?」 「・・・でも・・・。」 「俺は、お前を誰にも触れさせたくない・・・。」 斎藤さんの顔が自分に近づいてくる。 初めての斎藤さんからの口付けに、れいの全身は緊張で硬くなる。 その余裕の無さに、斎藤さんがふっと笑うと、更に強く抱きしめて深く口付けてくる。 唇の角度を変えるたびに、唇の間から吐息が漏れる。 そっと顔を離すと、れいが惚けた表情で見つめてくる。斎藤さんは、そんなれいの首筋に舌を這わせ、肩口に音を立てて吸い付いた。 「っふ・・・。」 ぞくり・・・と走る疼きに身震いすると、そのまま耳に舌を挿しこまれ、そのまま音を立てて弄られる。 「ひゃ、ぁ」 胸に顔を埋めて声を抑えるれいに、全身が震えるほど反応する自分を感じながら、斎藤さんは最後に首筋に再び口づけをして終わりにした。 「一緒に、みんなのところへ戻ろう。みんなも心配しているだろう。」 れいは、小さく頷いた。
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