そんな二人の間に原田さんが割り込んで、土方さんのお猪口にお酒を満たす。
「まぁまぁ土方さん、女の子には優しくしてあげなきゃ。千鶴ちゃんも言ってやってよ。」
「え、あの、痛そうですよ、れいさんが…。」
千鶴ちゃんが優しく土方さんの腕に手を乗せると、少しだけ引っ張った。
すると、土方さんが顎の手を離してくれた。
何だろう、この千鶴という少女は、斎藤さんだけでなく、土方さんまで篭絡しているのだろうか…。
痛む顎を摩りながら、二人を見比べてしまう。
「全く、土方さんも大人げないよなー。気に入っている子程虐めるんだからよ。」
原田さんが言いながら、再びれいの横に戻ってくる。そして、少しだけ減ったお猪口のお酒を満たすと、自分も注いで飲み干す。
「はぁ!?」
土方さんが、心底嫌そうな顔をして杯を煽る。
「誰が誰を気に入ってるって?」
「んなもん、土方さんがれいちゃんをに決まってんじゃんー!」
藤堂さんまで言い出して、土方さんの機嫌は更に悪くなる。
「れいちゃんも、土方さんの前だと、態度が変わるんだよなー。」
いや、変わるのは、険悪になっていくだけだと…。
「そうなんだよ。俺らには硬いのに、土方さんの前だと生き生きとしてるよな。」
してるのは喧嘩なんですけど…。
「大体、土方さんて活きの良い女が好きだもんなー。京の商売女より、江戸の素人女が良いって言ってたしな!」
そんな事を仰ってましたか。
自然と、半目で睨みつける様に見てしまう。
「素人女が良いんですかぁ。さ・い・て・い」
笑顔を向けて、強く言い放つ。
そして、土方さんの女の好みを議論する三人にも笑顔を向けて、杯を煽ると、ダンと音を立てて膳に叩きつける。
「話が無いなら帰ります!」
「れいさん、目が笑ってないし…。」
藤堂さんがポツリと零して目を逸らす。
「なぁんだよー、土方さんが気に入ってるってのが嫌なのか?なら、俺にするか?」
永倉さんが笑ながら徳利を持って近づいてくる。そして、お酒を注ぎながら腰に手を回してくる。
「やぁです!」
ピシャリと叩いてそれを制すると、原田さんが永倉さんを引き戻してくれた。
「大体、土方さんのお気に入りだとか、間違ってますよ!いつだって言い争いばかりですよ。こういうツンケンした人には、少し頼りなくて思わず手助けしたくなっちゃう様な子で、気が利いて、でも危なっかしくて、ほおっておけない、気の長い子じゃ無いと無理ですよ!」
土方さんの舌打ちが聞こえたが、気にしないで続ける。
「私はシッカリしてるし、自分一人で生きて行ける様な強い女ですから!気が利くのは否定しませんが、危なっかしくなんてないです!私はいつでもそばで微笑んでくれる人が良いですもん!土方さんじゃ毎日喧嘩で、行きたい方も違うし、絶対に無理!」
絶対に無理!を、必要以上に強調して言うと、みんながしぃんと静かになる。
あ、と気がついた時には既に、隣から湯気が立ち昇っているような気配を感じた。
「ツッコミどころは満載だが…、ここは我慢してやろう。」
まるでゼンマイ仕掛けのカラクリ人形にでもなったかの様に、ぎしぎしと音がなるほど力を込めて、横を向くと…、土方さんの背後に炎が立ち昇っているのが見えた様な気がした。
不動明王が降臨したかのよう…。
「お前…、言いたい事はそれだけか?」
「…は、はい…。」
「なら、話を始めるぞ。」
怒り心頭の土方さんにそう言われて、思わず姿勢を正す。
みんなも、勢いに飲まれて姿勢を正している。
「俺は別にこいつを気に入っているつもりは無い!それに、誰がツンケンしているだと!?しかも、お前自分でしっかりしてるとか思っていやがったのか!!?」
「ツッコミは我慢するって言ったじゃない!」
「我慢しきれなかったんだよ。」
頭に手を乗せられて、思い切り指に力を入れられる。
指が食い込む。
「痛い!痛い痛い痛い!!」
「ったく、こんな小っちぇぇ頭、持ち上げられるぜ。」
「持ち上げなくていいからぁ!」
土方さんの腕を持ち上げて離そうとするのに、やはりビクともしない。
重い刀を振り回せるように鍛え上げられた腕は、細く見えても筋肉で締まっているらしい。
「千鶴ちゃん、助けて!!」
千鶴ちゃんに目を向けて訴えると、戸惑いの表情で二人を見ていた千鶴ちゃんが、土方さんの服を軽く掴んで引っ張る。
「はぁ・・・。」
土方さんが大きくため息をつくと、手を離して腕組みをする。
痛みが残る頭を抱えながら、二人を見比べる。
こういう直観はよく当たる。
これは・・・。そう言えば、前に土方さんが言っていた少女の話・・・。
「あぁ・・・。」
そう言う事だ・・・。土方さんは、千鶴ちゃんを大事にしている。それが、恋愛感情が伴っているのかは分からないけれど、大事にしていることはとても分かる。
斎藤さん・・・、強敵が居るんですね・・・。
斎藤さんと千鶴ちゃんの関係が進んでいないんだと理解してホッとするはずなのに、痛む心に戸惑いが生まれる。
自然と、斎藤さんに視線を向けられないで、膳を見る。
お猪口の中で揺れる液体が、自分の心の中で揺れる感情に見えて、ぐいっと一気に煽る。
「さ、じゃぁ私は帰りますね。」
お猪口を膳に戻して立ち上がりかけると、土方さんと原田さんに両腕を掴まれる。
「肝心の話がまだだ。」
「れいちゃん、何でそんなに帰りたがるんだよ。酒しか飲んでねぇじゃん。少しは食べないと酔いが回るのが早いよ。」
むぅ・・・と唇を尖らせると、再び座り込む。
「じゃ、早く話して下さい。そうしたら、帰っても良いでしょう?」
「ああ。話が終わったら、勝手にしろ。」
「何でだよー。話が終わっても、一緒に呑もうぜ!」
藤堂さんが口を挟んでくるが、土方さんの一瞥で黙り込む。
千鶴ちゃんが、土方さんの隣で身じろぐのを感じた。
「ここに居る雪村千鶴の父親探しを手伝って欲しい。」
土方さんがれいを向いて真剣に告げる。
「父親・・・?」
「ああ。雪村綱道という蘭方医だ。俺たちだけで探していたが、一年たっても、何の情報も入ってこなくて困っている。」
「一年も探して見つからない人を、私が探せるとでも?」
「正直、期待はしていない。が、お前が街から上げてくる情報には、色々と助けられている。」
土方さんを見て、原田さんを見る。永倉さん、藤堂さんと視線を移して、斎藤さんの所で少しだけ不自然に視線が揺れるのが自分でも分かった。無表情のまま呑み続けている斎藤さんの眉間に皺が寄っている。
そして、千鶴ちゃんを見て、目が合うと彼女が深く頭を下げた。
「お願いします。」
「そりゃ、協力はするけれど・・・、期待されても困るかな。」
頬に手を当てて、肩の力を抜く。
「うちに来る様な情報は、本当に街での噂話ばかりだし。人探しには向いていないと思うの。京に居なかったら、情報は一切入ってこないわ。山崎さんですら掴めない情報なんでしょう?」
「ああ。だが、蘭方医は目立つからな。京に居たら、誰かしらが気づくだろう。」
「気づくって・・・。蘭方医って、確かみんな剃髪しているのよね。そのお父さんも?」
「はい。きっと、今も剃髪のままだと思います。」
「そう・・・・・・。綱道さん・・・ね。一応、みんなに聞いてみるわ。」
父の行方を捜している少女。そして、それに協力している新選組・・・。
協力・・・?そんなことを手伝うほど暇ではないと思うけれど・・・。
「脱走した隊士さん・・・じゃないのよね、蘭方医だものね。何かいけないことした人?必要な人?」
ポツリと呟くと、原田さんが勢いよく振り向く。






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