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新選組屯所。 八木邸。 れいは、外からこっそりと覗き込む。 見張りが居るため、堂々と中に入り込むわけにはいかない。 八木邸に行ってから呼んでもらうのも良いかもしれないが、土方さんと一対一で話して喧嘩にならない自信が無い。 それに、またみんなでお話がしたい。 不純な動機なのは重々承知しているけれど、抑えが利かない。 「貴様!そこで何をしている!」 背後から急に声をかけられ、れいは飛び跳ねるようにして振り向いた。 見たことのない男が立っている。 「へぇ・・・。ここが新選組の屯所や言うんを聞いて来たんやけど。」 わざとらしく、京言葉を使って話しかける。 「それがどうした!」 相変わらず、男は威圧的に言葉を発する。 こんなに態度が悪いんじゃ、新選組の評判が上がらないのも仕方がないのかもしれない・・・と、心の中で男を睨み付ける。 「馴染みの女が顔を見に来たて、土方はんに伝えて貰われへんやろか?」 わざとらしく、挑戦的に見える角度で男を見上げる。 「はぁ?土方副長に用事だと!?何の用だ!」 見かけによらず頭が回るらしい男は、警戒心をむき出しにして相変わらずれいの前を動こうとせずに上から下まで不躾に舐めるように見てくる。 「何の用て・・・。わざわざそんな事まで伝言するような野暮なことはせんでよ。」 「こんな日も暮れかけの時間に押しかけてくるような女、信用できるか。帰れ!女が来たとだけは伝えておいてやる。」 「こんな時間に一人で帰れ言わはるん!?家に着く前に真っ暗や!」 家を出るときに暮れ始めていた日は、西に沈み込もうとしている。あたりは既に闇色に染まり始めている。 作戦が失敗だとしても、ここから一人で帰るには少々危険な時間帯だ。 何とか誰でもいいから会いたい・・・、そう思うのだけれど・・・、男は強情で取り次いでくれそうにない。 「あんたはん、うちを袖にしたこと、後悔しはるえ。」 少し背伸びをして男を睨み上げると、れいは急に華やいだ笑顔を男に向けた。 「な、何だ?」 「ここに来るまでに、足がパンパンに腫れちゃった・・・。」 着物の裾をそっと開いて、白い足を男のほうへと寄せる。 「蒸し暑いから、汗もいっぱいかいちゃったし・・・。」 胸元を少しだけ寛げて、上から谷間が見えるように計らう。 「ぉっ?」 男が覗き込むように近寄ってくるのを小首を傾げて眺めながら、最後に一言付け加える。 「いけずな土方はんは諦めて、あんたはんとここで・・・も、燃えるかもしれへんなぁ。」 男の近寄ってきた頭を抱きこむように背伸びをして手を差し出すと、警戒しながらも更に近寄ってくる。 手が届き、足が届く距離になった時・・・。 れいは男の股間を思い切り蹴り上げた。 足元を寛げたのは、蹴りやすくするためにであって、見せるためではない。 しかし、男はそれに気づいていなかったにも関わらず、素早い反応でれいの足を抑えて避けると、そのまま腿を掴んで自分の方へと引き寄せた。 「っく!」 「で、実際は一体どこの誰の指図で動いてるんだ?」 背中を抱かれて密着させられる。腿を掴まれたまま、その手を少しずつ上にずらされる。 「いやぁ〜〜〜!!!痴漢〜〜〜!!!」 あらん限りの声で叫び、男を突き飛ばす。 男から離れて後ろに下がると、その瞬間掴まれて腕をねじ上げられる。 「いったぁ〜〜〜〜い!!!」 「ふ、副長!!」 「何してやがるんだ、お前らは!!」 振り向くと、そこには鬼の形相をした土方さん。れいを睨んでため息をつくと、腕を解放してくれる。 「いやぁ、土方はん!!会いたかったぁ〜!!」 土方さんの首に腕を回して抱きつく。迷惑そうに顔を背ける土方さんの耳にそっと囁く。 「情報です。」 盛大にため息をついてれいを引き剥がすと、改めて正面から見つめてきた。 「ああ、お前か・・・。」 「ぇえ!!?酷っ!」 「門前で大騒ぎをするような奴に知り合いは居ないんでな。帰ってもらえるか?」 「では、やはりどこかの間諜で?」 「いや、ただの勘違い女だろう。」 「土方さん!勘違い女って、何ですか!」 「そんな若作りして、お前は自分が恥ずかしくないのか?」 「恥ずかしくない!」 「こいつを放り出せ。」 「土方さん!!」 門を守っていた男が、二人のやり取りに戸惑い始める。 「放り出していいんですか?」 「良い。」 「よくない!!」 土方さんが踵を返して奥へ戻ろうとする。 れいは慌てて追いすがり、その首に飛びついた。 「お前っ!!」 「うわぁ!!!」 土方さんが、条件反射的にその腕を掴んで体をひねり、れいを地面に叩きつける。 「いったぁ〜〜〜〜〜〜〜い・・・。」 「あ、悪いっ。」 まったく悪びれた様子のない言葉が上から降ってくる。 腰から地面に叩きつけられて裾が捲れ、れいの足が露になる。 慌てて裾を直しながら、土方さんを睨みつける。 「酷い・・・・・・。」 「お前が飛びついてくるのが悪いんだろう。」 「武士だったら、投げ技使わないで斬りなさいよ!」 「武士は無闇に刀を振るったりしないんだよ。」 「だからって、女を投げ捨てるなんて有り得ない・・・。」 土方さんが、未だに立てずに座り込んでいるれいの前に座り、人の悪い笑みを見せる。 「ここはお前が来る様な場所じゃねぇってことだ。分かったらとっとと帰れ。」 土方さんが冷たい声で宣告する。が、れいは睨みあげてその胸倉を掴む。 そして、首筋に顔を近づけると、囁いた。 「長州の人たち、近々何かしでかすわよ。」 険しい表情になった土方さんが顔を遠ざけて見つめてくる。 後ろの男には、れいが土方さんの首に口付けをしたようにでも見えたのか、「羨ましい〜」という呟きが聞こえてきた。
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