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翌日、海を背負って、蒼の手を握って、おにぎりを持って林へと向かった。 白米だけのおにぎりなんて贅沢品だけれど、蒼を何とか喜ばせてあげたくて奮発したのだ。 昨日よりも、少しだけ嬉しそうに歩いている蒼を見て、自分も自然と顔が綻んで、そんな自分の顔を見て蒼が更に笑顔を見せてくれる。 やっぱり、気持ちをきちんと理解しているのだと、感情を感じ取っているのだと実感してしまう。 「蒼、枝いっぱい拾ってね!」 「うん。」 「お昼にはおにぎり食べようね。」 「うん。」 嬉しそうに、腕を引っ張って先を歩く蒼を見つめて、安心の吐息が口からこぼれ出てしまう。 昨日の様子が心配で心配で、この笑顔を見るまで生きた心地がしなかったほどだ。 林は、少し遠出になってしまうのだけれど。 それでも、蒼が喜んでくれるなら、自分はいくらでも頑張れる。 最近の蒼は、遠くに行きたがる。 見えなくなるまで走り去ってしまったり、いつの間にかふらりと居なくなっていたりする。 子供だし、男の子だし、そういう事はあるだろう。 一太さんの子供たちも、突然居なくなって、遅くなって帰ってくることもあった。 子供だけの遊び方というのがあるのだと思う。 けれど、近くに蒼と同じ年頃の子供が居ないために、蒼は一人で行ってしまう。 もし道が分からなくなったら・・・とか、どこかで怪我をしていないか・・・とか、考えてしまい、帰ってくるまでハラハラしてしまう。 親と言うのはそう言うものなのだから、子供と言うのはそう言う生き物なのだから、あまり心配しなさんな・・・と、近所の人たちに諭されてしまうけれど、心配はしてしまう。 それで蒼を叱ったりはしないようにしているけれど・・・、「どこに行っていたの!?遅いじゃない!」等、どうしても問い詰めるように言ってしまうこともある。 そして、その度に蒼は黙り込んでしまう。 他の子たちのように、遊んでいただけだと思うのだけれど、「遊んでいた」とも言わない蒼が、やはり心配になってしまう。 遊んでいたのでなければ、何をしているのだろう・・・。 「かか、はやく!」 少しだけ思考が飛んで、足が遅くなってしまっていたれいを、蒼が引っ張って催促する。 「ごめんごめん。早く行こうね。」 「うん。」 林への道を分かっているのか、蒼が先にたって導いてくれるのだけれど、その道は確かに林へと続く道だった。 「蒼、林までの道、覚えてるの?」 「うん。」 「凄いね、蒼!頭良いねー。」 嬉しくなってしまうのは、親なのだから仕方が無いと思う。 更には、愛しい斎藤さんとの子供なのだから、親ばかにだって何にだって、なる。 「かかぁ。」 「ん?なあに?」 「はやしのおくには、なにがあるの?」 「林の奥・・・?」 蒼の言葉に首を傾げて、林がある方へと視線を投げた。 確か、海は林の方とは違う方向で・・・。 だけど、辿り着く場所はやっぱり・・・海? 「海かな・・・。」 「じゃあ、人はいない?」 「どうかな・・・。かかはあんまりここら辺詳しくないから、分からない。」 「わからない?」 「うん。ごめんね。」 「・・・そっか。」 蒼が頷いて、林に視線を向けて更に引っ張る。 何かを考えているようで、その後林に着くまで言葉を発しなかった。 何を考えているのか気になるけれど、聞いても教えてくれない気がした。 林を見る瞳が、昨日と同じように翳りを帯びていたから・・・。 林に着くと、蒼は手を放して駆け出してしまう。 足元には沢山の落ち葉、そして枯れ枝が落ちていて、自分もそれを拾って歩いているけれど、蒼の速さには追いつけない。 木がまばらな入り口付近だけと思っているのだけれど、いつの間にか蒼は奥まで行ってしまっていて、自分も追いかけて奥に行く羽目に陥っている。 海を背中から降ろしてしまうと、蒼を追いかけられない。 けれど、海は降りて歩きたがってしまって、どうにも出来ない。 こういう時、やっぱり斎藤さんの存在を欲してしまう。 蒼を育てている時、周りに沢山人が居た。 そのせいで、自分一人だけで子供を育てるという事に慣れていず、時々、力が尽きて何も出来なくなってしまう時が出てきた。 辛い・・・と言ってしまうと、少し違う気がする。 けれど、確実に疲れていると自分で思う。 「蒼、蒼待って!枝は?拾ってくれてる?拾ったら持ってきてね!」 どこかに行きたがる蒼は、斎藤さんに似ているのだろうか・・・。 走り回って奥に行きたがる蒼が、枝という単語で薪集めを思い出したようで、しゃがみ込んで拾い始めてくれたのを見て、安心して自分も座り込んで背中の海を下ろしてあげた。 辺りの枝を拾って、落ち葉だらけの柔らかい場所を作ってあげる。 けれど、海も蒼の方へと行きたがって、よろける足をたどたどしく動かして奥へと行ってしまおうとする。 すると、蒼がこちらに枝を持って走ってきて、籠の中に枝を放ると、海の横に立って、海の傍の枝を集め始めた。 「蒼・・・、有難う。」 優しい。 蒼は、斎藤さんのように、あまり気持ちを全身で表現をしたりはしない、どこか子供っぽい無邪気さが足りないように見えるけれど、その小さな身体の中には、沢山の愛が詰まっていると思う。 きっと、遠くに行きたいのも蒼なりの理由があるのだと思う。 いつか、その理由を教えてくれるだろうか・・・。 年取ったな・・・と思う。 普通なら、もうこんな小さな子を育てているような年齢ではない。 もっと若い親だったら、蒼も海も一緒にみながら、走り回ったり出来るのだろうか。 もっと若い親だったら、蒼に寂しい想いをさせないで済むだろうか・・・。 ふと、膝に乗せられた小さな手に気がついて顔を上げると、笑顔で見上げてくる海が首を傾げた。 「海、どうしたの?お兄ちゃんは?」 小さな手を握り締めて抱き寄せて辺りを見回しても、蒼の姿が見当たらない。 また、奥に行ってしまったのだろうか・・・。 「帰ってくるよね。」 辺りを見回して、そっと祈る。 斎藤さんも、いつも行ってしまうけど、帰ってきてくれる。 だから、蒼も帰ってきてくれるはずだから・・・。
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