「いや!濡れてないのに挿れるなんて最低!せめて、口でしてから・・・」 れいは、やっとのことで声を絞り出して男に訴えた。 ミチミチと不自然な音を立てて入り込もうとしている男根の動きが止まる。 男が、怒りから悦びの表情に変わるのが、逆光でも分かった。 背筋に怖気が走る・・・。 「なぁんじゃ、嫌がっちょった割には、乗り気じゃないがかぁ。」 そう言って男が離れると、逆向きになってきた。 「そう言うからには、わしのモンも、舐めてくれるじゃろう?」 顔の上に跨れて、反り返った男根を口元に押し付けられる。 ギュッと目を瞑ると、バタバタと涙が大粒になって零れ落ちる。 「どげんした!舐めて欲しかったら・・・・・・」 男の言葉がそこで止まる。そして、そのままれいの上に全体重をかけて押しつぶしてきた。 「退け!腐れ外道!!」 体格の良い男の身体が、軽々とれいの上から退かされる。 そして、乱れまくった着物の中の姿態を目にして、声の主が慌てて後ろを向いてくれる。 「す、すまぬ・・・。」 「山・・・崎・・・・・・さん・・・」 はぁ・・・と息を吐き出すと同時に、嗚咽が口から零れて、涙が更に溢れ出す。 のろのろと起き上がり、乱れた着物をある程度直すと、そのまま座り込んだまま泣き崩れた。 最悪な事態は避けられた。けれど、情けなさと安心感と嫌悪感と自己嫌悪と、色々とごちゃ混ぜになった感情が一気に噴出してきた。 「れい君、遅くなってすまなかった。」 山崎さんが、戸惑いながらも声をかけてくれるのを、首を振って『大丈夫だ』と訴える。 けれど、嗚咽になってしまって声にならない。 泣いてる場合ではないのに、さっさとここから出なければ・・・。 そう思って立ち上がろうとするのに、足が震えて力が入ってくれない。 「い、いま、いきますっ、から、」 何とか声に出すが、それでもやっぱり動けずにいると、山崎さんが遠慮がちに近づいてくる。 「すまん、嫌だろうが、我慢してくれ。」 そう言うと、れいを横抱きにして持ち上げ、その場から走り出した。 扉の先には何人もの人が居て、二人を見つけると走り寄ってくる。 腰の長物を鞘から抜き出して、二人を取り囲んだ。 「も、もう大丈夫です、降ります!」 れいはそう言うと、無理やり山崎さんから身を捩って飛び降りた。 降りたが、落ちた・・・と言ったほうが良いだろう。腰と腿と腕とを強か打って、呻く。 その上で、山崎さんに向かって振り下ろされる刀を、短い剣で受け流して相手の鳩尾に肘を打ち付けている山崎さんを見る。 数人を相手取って、一人で、しかも短い剣で互角以上に戦っている姿に呆然とする。 しかし、相手の人数が多すぎる。 れいは邪魔にならないように隅に逃げようとして、そのまま足手まといにも一人に捕らえられてしまった。 最悪の馬鹿だ・・・。 自分をそう評して、更に自己嫌悪に陥る。 「貴様ら!!」 山崎さんが悔しそうに吐き捨てる。 もう・・・、これ以上迷惑をかけられない・・・。 諦めるような気持ちになていた。 乾ききっていない涙が再び零れてくると、れいの腕を掴んでいる手と反対にはる刀に自ら飛び込んだ。 「何を!!?」 慌てて刀を引いてれいから遠ざけるが、それを追いかけて手を伸ばす。 刀を奪おうとしていると思われたのか、腕を捻って後ろで拘束すると、その首筋に刃を押し当ててきた。 れいは山崎さんを見つめて、息を強く吐き出した。 「山崎さん、ごめんなさい!!」 変わらずに大勢の刀を避けながらなぎ倒していく山崎さんに届くような声で言うと、首筋に当てられた刃に、そのままグッと強く身体を押し付け・・・。 刃が首に食い込んで、ツ・・・と裂けるただけで、男の力が緩んで刀が消えた。 「何してやがる!!」 後ろから聞き覚えのある乱暴な声がして、首筋に指を当てられる。 その横を一陣の風が走り去り、山崎さんの周りに纏わりついていた蚊のような男たちが次々に倒れていく。 れいは振り返って、自分の首を抑えている男を見上げた。 「土方さん!?」 そして、山崎さんと並んで立つ人物を見た。 「斎藤さん・・・。」 斎藤さんは刀を仕舞うと、れいに近づいてきた。 後ろからどやどやと人が走り寄ってきて、次々と倒された男たちを捕縛していく。 斎藤さんがれいの頬を拭おうと手を差し伸べた時、一瞬先に土方さんが胸倉を津感じ自分のほうへ向けて睨み付ける。 「お前、今何しようとしやがった!!」 『何してやがる!!』とは、どうも自分に向けられた言葉らしい・・・と悟る。 「これ以上、迷惑はかけられないと思って・・・。」 小さな小さな声で答える。 土方さんの形相があまりに怖くて蒼白になる。 「迷惑をかけると思って?」 「し・・・、死んじゃおう・・・かなって・・・・・・。」 「ふざけんじゃねぇ!!!」 掴んでいた胸倉を乱暴に放すと、れいがたたらを踏んで斎藤さんの胸の中に倒れこむ。 「お前を助けるために、一体何人の人間が動いたと思ってるんだ!!そいつらに無事な顔を見せずに死ぬたぁ、良い度胸してんじゃねぇか!!」 「副長・・・。」 山崎さんが割ってはいるが、土方さんの勢いは止まらない。 れいは土方さんをキッと睨み付けると、唇を噛んだ。 その体は、斎藤さんがしっかりと抱きとめてくれている。そうしないと、座り込んでしまいそうだった。 「死ぬ覚悟があるんだったら、最初から相談なんかしないで死んでしまえ!!」 「最初から死んでたら、町の皆の問題が解決しなかったじゃないですか!こ、ここでは、私が死ねば山崎さんが助かって・・・、問題も、解決して、万事上手くいったんですよ!!」 「てめぇ!!!」 「俺たちが来るという計算は無かったのか?」 「山崎がこれくらいでやられるとでも思ったのか!!?」 斎藤さんと土方さんの二人から反論される。 何も言い返せずに押し黙ると、山崎さんが戸惑いながら口を挟んでくれる。 「一人で、よくやっていたと思いますよ。あの状況で自分の身を守る機転を利かせられるだけの冷静さを持っていた。ただの勢いで死を選んだわけではないだろう。それに、死んでいないのだから、そこまで言わなくても・・・。」 「山崎は黙ってろ!」 「いえ、例え副長でも、これ以上は言わせません。彼女は本当に危ない状況に居たんです。それでも死を選んだりしなかった。彼女に死を選ばせたのは、俺の不甲斐なさのせいです。」 「・・・・・・っち・・・」 土方さんは、舌打ちをすると踵を返して去っていった。 残った隊士たちに指示を出しながら、時折縛られた男たちと何やら話をしているのが見える。 「山崎さん、すいません・・・。」 「いえ、俺のほうこそ、早く場所を特定できれば・・・あんな状態まで追い込まれなかっただろうに。」 「いや、俺が警護に出向いたみんなにも知らせを出しておけばもっと早く対処できたはずだ。すまない。」 「いえ、こんなことに巻き込まれた私がいけないんです。新選組のみなさんに迷惑をかけるわけにはいかなかったのに・・・。」 未だに支えてくれる斎藤さんの腕の中からのろのろと出て、二人に向き直る。 そして、改めてお辞儀をする。 「有難うございます。」 「れい君、我々は先に帰りましょう。」 「あ、ちょっとその前に、土方さんにもお礼を言ってきますね。」 踵を返して走ろうとして、ガクッと膝が崩れた。それを斎藤さんがまたしても支えてくれる。 「す、すいません・・・。」 「無理をするな。」 後ろから抱きすくめられて、斎藤さんの力が以外に強いことに戸惑う。
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