これが縁と言わずして何と言うのだろうか・・・。
れいはいつも突然現れる。
京での出会いも、ある日突然、しかも一日に二度も出会ったが・・・。
江戸と一括りに言えど、その範囲は広大だ。
それだと言うのに・・・、新八と左之の吉原遊びも伊達では無かったのだ言わざるを得なくなってしまった。
お土産が部屋にあると言われて部屋に戻ると、そこには布団が敷かれていた。
しかし、もぬけの殻の布団・・・。
その前に座り込んで、様々な思いを巡らせていた。
刀を抜き放ち、細くなった刀身に自分の武士としての生き様を写していたその時、襖が開いて小柄な人物が飛びついてきて、まるで夢でも見ているのではと、固まった・・・。
副長と普通に話している声に耳を澄まして、自分だけが事情を把握していないことに嫉妬を覚えた。
れいを残して副長が去り、改めて見つめると、確かにそこに幻ではないれいが居た。
しかも、顔色が悪く、辛そうにして・・・。
もう、二度と手放したくないと、どんなに拒んでも、それを聞き入れるつもりは無いと、その姿を見て思った。
れいの言い分は分かる。
が、俺はそれに頷くわけにはいかない。
俺に語り聞かせる間、れいの瞳が揺れていたからだ。
その瞳の奥には、語る言葉よりも真実が現れていた。
離れたくない、寂しい・・・
そう、大きな声で叫んでいるように見えたのだ。
れいと直接語り合った事で、自分の気持ちは更に固まった。
このように強がるれいを、放ってはおけないと。
それに、自分が離れたくないのだ。
どんな理由を付けられようと、手放す気が無いのだから、仕方が無い。
ようやっと、れいが虚勢を脱ぎ捨てて素直になってくれて、喜びと共に安堵したのも束の間、れいは更なる驚愕をもたらした。
どうして、彼女はこうも俺を翻弄するのだろうか・・・。
子が、出来ていたなどと、思いもしなかった。
最後、一緒に過ごした時間に宿ったのだろうと、そう聞かされた。
子が出来ないと思っていたから、自分も全く油断していたと、実家に帰ってすぐにぶっ倒れたと何気なく語るれいの頬を再び摘んで、どうして自愛しない!?と詰め寄ったものだ。
今すぐにでも二人のために家を用意したいと思ったが・・・、自分の状況をきちんと理解してくれているれいが、それを望むわけが無かった。
祖母の実家で産んで育てるつもりだと聞かされたときは、複雑さに唸った。
女とは、どうしてああも弱いのに、どうしてあんなに強くなれるのだろうか・・・?
山南さんに目を付けられ、甲府に出陣している間に山南さんに襲われたと平助に聞いた時は・・・、肝が冷えて思わず刀に手がかかった・・・。
命に別状は無く、遊女屋で働いているとは聞いたが、すぐに迎えに行った。
その様子を見て安心をしたが、れいがどこまで知ったかによって、今後どうするかが決まるのだと思うと・・・、自分はどうすれば良いのか分からなくなった・・・。
副長の下へ連れて行って、沙汰を待つか、このまま連れ去って逃げてしまうか・・・。
そんな事まで考えていたのに、れいは何事も無かったかのように、仕事をさせてくれと言い、山南さんの様子を見たにも関わらず、自分たちのことを気味が悪い集団だと思ったりせず、ただ、何かの病なのだろう?と聞いてくるれいの剛毅さに改めて感心した。
何かに気付いていながら、誤魔化した副長を受け入れて深く追求することを止めた聡さにも・・・。
自分には、出来すぎた女なのでは・・・?
そう思わないではいられなかった。
桜の花弁を懐紙に包んで渡してくれたれいの顔を思い出す。
あんなにも、心配されて、それでも迎えに来てくれると信じられて、応えないのは男ではない・・・。
街道を、お腹を痛めながらあるき通したれいの凄さ、我慢強さは、どこから来るのだろう・・・。
俺を信じてくれているから、会津に行くのだと、会津で待つのだと、そう言ってくれたれい、みんなが休めるようにと、身体を張って宿をとってくれたれい、局長の処刑の話を聞いて、すぐに自分を案じてくれたれい・・・・・・。
声が、聞こえるんだ・・・。
名前を呼ばれている。
空耳なのだろうか、ずっと、ずっと・・・。
赤子の鳴き声と・・・・・・。
それから・・・・・・。




街道を大きく反れて、畑の中に入り込む。
奥の畑は軍に荒らされていずに、緑が生い茂っている。
なるべく丈の高い葉のある野菜の畑に入り込み、身を低くして突き進む。
みんな、散り散りになって逃げていった。
無事に戻れるのは、一体何人に上るだろう・・・・・・。
追っ手が来る気配は無いが、それでも警戒は怠らない。
泣き声が、次第に止んでくる・・・。
それと共に、何かが耳に聞こえてくる。
これは・・・・・・歌・・・?
子守唄・・・。
柔らかな声で紡がれる歌に、意識を奪われ、そちらに足が向く。
畑の中からでも分かる少し背の高い木、そちらから聞こえてくる。
これは、空耳では無い、本当に誰かが歌っている声なのだろうか・・・。
誰か、居るのだろうか・・・・・・。
ガサガサ音を立てながら、畑の中を進んで、不意に開けた先・・・。
夕焼けの紅さに染まった、田園風景の中、木の下で微笑む優しい空気が自分に向けられた。






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