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副長率いる幕府軍が仙台へと向かって数日が過ぎた。 自分について会津に残った会津新選組は20人にも上った。 自分一人だけが残るつもりで居たが・・・、こうして仲間が居るという状況はとても心強い。 「隊長、これが終わったら、奥さんを迎えに行くんですよね。」 れいと会津街道で偶然出くわしたときにも一緒に居た若い隊士が、横で呟く。 「ああ。」 「なら、絶対に、こんなところでは死ねないですね。」 「馬鹿を言うな。隊長がこんな所で死ぬわけが無いだろう。」 自分を挟むようにして、反対側から年長の隊士が言うのを、若い隊士が頭を掻いて頷く。 この二人は、何故だかあれ以来、よく自分に関わってくる。そして、ついには会津新選組に加わっている。 「行けるか?」 短く聞くと、二人、そして後ろに従っている隊士達が短く応じる。 腰を上げて、突入体勢を整え、小さく腕を振って合図をする。 ふと、耳の奥で赤子の無く声が聞こえてきた気がした・・・。
伊東さんから、新八と共に食事会という名目の分派の誘いを受けた。 新八は乗り気ではなかったようだが、俺は進んで誘いを受けた。 伊東さんの胸のうちを明らかにする絶好の機会だった。 正月一日から、島原の角屋を開けての酒宴に、馴染みの妓女を呼んで良いという文句。 至れり尽くせりの伊東さんの宴は、他愛の無い話から、真剣な議論まで繰り広げられた。 やはり、伊東さんは学があり、弁が立つ。 新八が気持ちよく話せる様に、そう言う流れに持っていっている気がした。 侮れない人物であることを再確認し、それで終わるはずだった・・・。 新八の馴染みの太夫を呼びに行くと、何故かそこには遊女の格好をして、妓女二人に玩ばれている・・・・・・れいが居た・・・。 自分を確認すると、目を見開いて固まったれいに詰め寄り、腕を引いて立たせると、そのまま寝所に連れて行って押し倒した。 前日の天神からの誘いを無下に断り、触れたいのは一人だけだと宣言した、その触れたい女が目の前に居るのだ。 ・・・・・・しかも、艶やかな遊女の着物を纏ったれいは、以前にも思ったが・・・、幼い顔立ちに似合わず、妖艶な空気を全身に纏うのだ。 そんなれいの妖艶な表情を見た太夫と天神にすら、嫉妬を覚える・・・。 昂ぶった気持ちをそのままぶつける様に、れいを抱いた。 その間も、冷静な部分を覗かせるれいに焦りのような興奮を覚えて、何度も何度も奥を突いた。 独占欲の塊で、他の人には見せたくない、見せないでくれと、そう頼む俺に、れいが初めて苛立ちを顕にした。 最初から、欲しがる顔も、寂しい顔も、俺にしか見せていないと、そう言いながら、初めて俺に対して独占欲と寂しさを吐き出すれいに、胸がいっぱいになった。 いつも黙って我慢をしているれいが、感情を顕にして艶やかに訴える様は、想像以上にグッと来て、胸に熱いものがこみ上げてきた。 意識を取り戻したれいが、また我慢をして感情を抑える・・・。 新選組を、武士としての自分を大事にするあまり、れいに寂しい思いをさせるのは仕方が無いことだとは言え、あまり気持ちの良いものではなかった・・・。 なるべく、出来る限り、会いに行くと約束をした。 その約束が、思っていなかった形で実現するとは・・・。 副長の命で、新選組を離れて御陵衛士へと行くことになり、それ故に局中法度に触れることなくれいに会いに行ける様になった。 れいの所へ行く時は、必ず通る道がある。 そこに常駐している浮浪者に、そっと手紙を託す。 そうして、御陵衛士の内情を新選組へと渡していたのだ。 れいにはそれは内緒にしていた。 知る必要は無い。ただ、れいに会いたい、それだけの理由で十分だった。 初めて夜中一緒に過ごせると伝えたその日、即座にれいは何かがあったのだと悟り、問い質してきた。 その聡明さに改めて驚かされた。 何も隠すことでもないと思い、御陵衛士に移ったと伝えると、ならば自分は橋渡しをすれば良いのか?と、すぐに切り返してくる。 打てば即返るその反応の良さにも驚かされた。 しかし、同時に不安になる。 そうして、自分で判断を下して様々に動いてくれていたれいが、また無茶をしでかすのではないかと・・・。 もう、れいが動いても安全で居られる状況ではないのだ・・・。 ただ、何もせずに家で自分を待っていて欲しいのだが。 そう思って、大人しくしていてくれと伝えると、再び聡い言葉が返ってくる。 「命の狙い合いになるかもしれないと言う事ですね・・・。」 どうして、自分に降りかかること以外はこうも聡いのだろうか・・・。 この十分の一でもいいから、自分に向けて欲しいと思うのだが。 ただ家で待つという事が出来るほど大人しい性格ではないれいのことが心配で、いつも、いつでも、頭から離れなかった。 そうして、自分はいつまで「斎藤さん」なのだろう・・・?と、悶々と考えていた自分に比べ・・・、れいはどこまでも深く、自分を考えてくれていた。 その深さを知らずに、どれだけ自分はれいに甘えていたのだろう・・・。 大文字焼きを一緒に見たいと言ったれいに、また次回でも良いでは無いかと無下に断った自分・・・。 あの時の珍しく我侭を言うれいの、その心情を理解してやれなかった・・・。 あの時には、既にれいの中で終わりの予感がしていたのだろう。 思い出を作りたいと、そう訴えるれいに、自分はただの独占欲のみで縛り付けて、家に帰した。 あまりに酷い仕打ちだったと、今なら分かる。 それなのに、れいは微笑んで、受け入れて、すんなりと帰ると言い始めた、その笑顔に肝が冷えた・・・。 笑っているのに、泣いているようで・・・、れいが屯所に乗り込んできた帰り道に見せた表情に重なった・・・。 何かを諦めたような、自分から遠ざかっていくような、それでいて、傍で守ってやらなければと思わせる・・・・・・。 自分の前でまで、そのように我慢をし始めたのは、一体いつからなのか・・・。 ずっと、何故だかずっと、もう大丈夫だと、守ってやれていると、そう思っていたのに・・・、心まで守ってやることが出来ていなかったのだと・・・、その時初めて理解した。 だから、心までも守れる方法として、妻になって欲しいと願った。 それが、追い討ちになるなどとは露ほどにも思わず・・・・・・。
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