れいはいつだって、自分ひとりで問題を解決しようと頑張る。
自分が居ても、それは変わらなかった。
常に傍に居てやれるわけではない、その事実があの時もれいを追い詰めた・・・。
山崎からの報告で、れいの父親代わりに髪結い処へと行った桜井さんが、夜な夜な陰間茶屋へ通っていると、更には、お店の売り上げに手をつけていると知った。
すぐに対処をするために、山崎が桜井さんの素行の調査を行い、あまり良くない金貸しと関わっていると知る。
事実を突き止めるために、島田さんが金貸しの潜入調査に当たり、山崎は桜井さんを監視し始めた。
島田さんからの報告では、金貸しから大金を借り、陰間茶屋で豪遊をし、身請けも約束していたと言う。
更に悪いことに、借金は、娘が払うと言っていたという・・・。
自分にもきちんと給金が支払われていると言うのに、それだけでは飽き足らずに、れいのお金に手を着け、最悪にも金貸しからお金を借りて、自分では返す気が無い・・・・・・。
副長は、これだけの報告を厳しい顔つきで聞き、「切腹させろ。」そう一言で言い捨てた。
「いや、しかし・・・。もう少しだけ様子を見ないかね?せめて、れい君の所から引き上げさせてからにしないか。れい君の所から引き立てるのは、あまり良くないと思うぞ、トシ。」
「様子を見るって・・・、近藤さん、そんなこと言って逃げられたらどうするんだ?」
「逃げはしないだろう。桜井君とて、新選組の一員だ。自分がやっていることが悪いと、きっと分かっているさ。」
「何だってそんなに甘いんだよ、近藤さんは。悪いことだと分かっててやってるんだったら、なお更切腹だ!」
「処遇は・・・、追々考えるとして、ともかく、れい君の所から引き上げさせるのが先だろう。」
「ああ。さっさと引き立ててやる。」
「トシ・・・。」
大きく溜息をついた局長が、立ち上がると副長の肩に手を置いた。
「じゃ、俺が行って来る。れい君に謝りたいしな。」
「近藤さんが行くこたぁねぇよ!」
「しかし、トシが行ったら殺伐としてしまうだろう。れい君に迷惑をかけるわけにも行くまい。」
「なら、斎藤、お前もついていけ。」
「斎藤君は、これから巡察だ。俺一人で行ってくるよ。」
「近藤さん!」
「連れてくるだけだよ。桜井君は刀を振るえない。何かあっても問題は無いよ。」
「・・・分かった。俺は屯所で、筵を敷いて待ってる。」
「トシ・・・、処遇はまた後で決める。」
「分ぁったよ。」
「うむ。では、行ってくる。斎藤君も、巡察だろう。行こう。」
局長に促されて、頷くと部屋を後にした。
れいのことでは、こうして呼ばれるという事が多くなった。
俺とれいが恋仲だと言うことは、既にみんなに知れ渡っているらしい。
副長にも局長にも知られているらしく、道すがら局長に頭を下げられて動転した。
「すまない、斎藤君。」
「な、何故局長が謝られるのですか?」
「いやぁ、れい君の所に桜井君を送ると決めたのは俺だ。」
「そうですが・・・、それで何故俺に・・・?」
「れい君は、君の愛しい人なのだろう?」
「・・・・・・むっ。」
「なに、誤魔化さなくても良い。れい君はみんなも認めるほどの良い子だ。条件さえ揃えば、娶わせてやりたいとも思うが・・・・・・。まずは、桜井君のことをどうにかしてやらなければな。」
「お願いします。」
「金貸しの方は、島田君が対処に当たってくれている。もし店に取り立てに行っても、大丈夫だろう。安心してくれ。」
「はい。」
門前で別れると、局長はれいの店へと歩いていった。
条件さえ揃えば娶わせてやりたい・・・という局長の言葉に驚愕と動揺をしつつ、隊士を集めて巡察へと繰り出した。
その、条件とやらが何なのか、その時には全く分かっていなかった。
その日の巡察の順路は、髪結い処に程近い通りを通る予定だった。
しばらく行くと、前から大慌てで走っている人物に出くわした。
いつもれいの髪結い処に居る男で、相手も自分を常連だと気付いたのか、浅黄色の段だら模様の羽織を羽織っているのも気にせずに走り寄ってくると、手紙を押し付けて走り去っていった。
押し付けられた手紙を開くと、そこには見慣れた少し癖のある丸みを帯びた字が連なっていた。
『借金取り五人、桜井遁走、横田屋、悪徳』
急いでいたのだろう、最低限必要な情報だけ書かれていて、それが余計に事態が思わしくないのだと告げていた。
すぐに隊士と共に髪結い処に駆けつけると、局長の後姿を見つけた。
俺たちの様子に気付いた局長が併走しながらどうかしたのか聞いてくるのに、ごく短く説明をした。
髪結い処を通りかかる時に、山崎からの報告が目に飛び込んできた。
新選組にしか分からないようにしてある暗号が店の壁に仕掛けてあり、更に悪いことに、店の中は既に誰も居なかった。
自分たちが来たほうには誰も来なかった。
ならば先だと、足を止めずに判断をして更に進むと、少し人だかりが出来ている。
その中心に、男が五人、女に無体を働いている!!
島田さんが居るから安心をしていたのが仇となった・・・。
島田さんが守るように抱き上げているが、れいを抱えて四人と対峙するほどの無謀策は取れない。
が、れいは無謀な突進型だった・・・。
「そこまでだ!!!」
局長の大音声を聞きながら、四人に突進していく。
局長に気付いた島田さんが四人の中を抜け出して駆け寄ってくる横を、刀を抜き放ちすれ違う。
れいを横目で確認して、頬を赤く腫らしているのに目を瞠る。
向かってくる男を峰打ちで倒し、そのまま逃げようとする男たちに追いすがり峰でなぎ倒していく。
その後ろから隊士達が男たちを拘束していく。
素早く指示を出して、自分はれいの元へと急いだ。
地面へとゆっくりと倒れていくれいに肝が冷えて、思わず名前を呼ぶと、微笑みながら振り向いて、手を伸ばしてくる。
その手を掴んで横に膝を着くと、立てた膝に額を当てて身を任せてくる。
局長と島田さんの手前、そのまま引き起こして立たせたが・・・、居なければ抱き上げて家へと連れ帰り、外に出さないように押し込めていたかもしれない。
れいの家で、辿り着くまでに一体何があったのかを聞いたが、島田さんの言葉に、呆れと苦しさがこみ上げてきた。
また、自分ひとりで何とかしようと頑張ったのか・・・と・・・。
俺が居るのに、どうして何も言わない?どうして頼らない?どうして、いつも一人で頑張って、一人で解決しようとして、そうして結局は怪我をしたり、攫われたり、襲われたり・・・、それを後で聞かされて、俺はいつも後悔と自己嫌悪に苛まれるのだ・・・。
しかし・・・、思わず言い募ってしまい、そこでまた後悔した・・・。
れいは、一人で頑張らなければ立っていられないのだと・・・。
そうだった、強がりが身についてしまっているが、ただの弱い女性なのだ。だからこそ頼って欲しいのだが、誰かに頼れるほど強くは無いのだ・・・。
俺を追い出し、一人で泣き始めたれいの押し殺した声を聞いて、俺は自分を呪った・・・。
いつだって必死で立っているれいは、少しでも弱音を吐いたら、崩れてしまってもう立てないのだと・・・、涙に濡れる口付けを受けながら実感した。






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