酒を取りに行ったはずのりんが戻らず、外が何やら騒がしくなる。
気にせずに辺りを伺っていたが、外から聞こえてくる声に、何かあったのだと悟り、部屋を一歩出た。
そこには、他の男に抱き上げられてもがいているりんが居た。
「俺が買った女に何をしている?」
抜刀し、男の首筋に刀を当てると、慌てたように男がりんを放す。
音を立てて転がり落ちたりんも気にせずに男を睨み据えるが、その男と連れの男が標的だと気付く。
「お前・・・・・・、長州の・・・。」
男が連れを睨みつけて、首筋に突きつけられた刀の切っ先を避けがてら、あろうことかりんに向かって刀を振りかぶる。
刀を横薙ぎに払えば男は始末出来るが、捕縛が命令であって、殺しは請け負っていない・・・。
一瞬の考えが隙を作り、りんに切っ先が迫る。
間に入り、刀を受け止めることに専念し、二人が走り去るのを見逃す。
この中で捕縛するよりも、外で隊士と合流したほうが得策だ。
「待て!」
一度振り返り、りんの無事を確かめて・・・、息を呑む・・・。
結っていた髪が乱れ、短い髪が顔の前で揺れている。
明るい廊の灯りの中で見るりんは・・・、見間違えるはずが無い・・・。
「部屋で待て!」
言い捨てて、男を追いかける。
飛び出した男たちに隊士が群がっている。
それを指図しながら二手に分かれて追いすがる。
その間も、廊で怯えていた顔が頭に蘇る。
何故、あのようなところで、あのような格好を・・・?
店を閉じた後に、通い遊女を・・・?そんなこと聞いたことが無い。遊女は返済が終わらない限りは遊廓で過ごす。
ならば・・・・・・、何故・・・?
男二人の捕縛を確認し、屯所に引き立てる。
副長に引渡し、報告を終えてから屯所を後にする。
あの後、どうなったのか・・・・・・。きちんと部屋で待っているのか・・・。
遊廓に行くと、少し時間が欲しくて金子を渡し、時間の延長を願う。
部屋で待っていると聞き、そのまま駆け上がる。
襖を開いて、そこに蹲る髪の短い遊女を確認する。
襖を閉じると、辺りが薄闇に包まれる。
駆け寄って頬に手を当ててしっかりと見つめる。
まさかとは思っていたが・・・・・・。
短い髪を見ると、それが確かにれいだと分かる。
身体を手で確認してくるれいの手を離して、しっかりと胸に抱きしめる。
れいが溜息と共に無事を喜んでくれる事に、心が擽られるが、沸々と湧いてくる疑念に心が囚われる・・・。
遊女に扮して、一体何をして居ると言うのか・・・。
れいだと分かると、途端に触れたくなり、他の誰もが触れていたのかと思い、更に胸苦しくなる。
これが初めての客だと言っていた事を思い出して安堵するがしかし、それでも心が晴れない。。。。
俺の苛立ちに気づきながら、その原因を理解していないれいに溜息をつき、その唇を奪うように貪る。
受け入れてくれるれいに何故だか余計に腹が立ち、そのまま首を食み、肩口に唇を押し付ける。
翻弄されていただけのれいが、首に絡み付いてきて自ら唇を押し付けてくる。
綺麗に着飾って化粧を施したれいの色香に、自ら迫ってくる大胆さに、ここ最近の不安が爆発する。
れいを押し倒し、胸元が大きく開かれた着物に手をかける。
「お前は・・・っ。」
艶を含んだ瞳を潤ませて見上げてくるれいに、胸がどんどん苦しくなっていく・・・。
「遊廓で身を売って、何をするつもりだ?」
「・・・あ、違っ。」
否定の言葉を紡ごうとするれいに、不安と苛立ちが募る。
着物を引きずり降ろし、露になる胸に舌を這わせる。
ビクリと反応を示すれいが、否定を繰り返し、説明をしようとするれいが、甘い吐息で声を上ずらせる。
俺だけに触られたいと言っていた言葉が、嘘だったのではないかと疑いたくなる状況にいるのに、それでも彼女は全てを否定して俺だけだと、そう言う。
帯を解き、全てを曝して身を捩るれいの手をとり、頭上で固定すると全身をくまなく見分する。
傷一つ無い綺麗な白い肌に、自分を刻み付けてしまいたくなる・・・。
ここまで我慢しておいて、れいの同意を得ずに全てを奪ってしまうのかと・・・、自分を律するのが大変なほどに、綺麗で、艶めかしくて、魅力的だった・・・。
俺の言葉に、自分だけだと言い張るのに聞き入れずに居る俺に、懸命に訴えて口づけをするれいを畳みに押し付けて、それでもみっとも無く言い募ってしまう・・・。
本当に、醜いただの嫉妬だと言うのに、抑えきれずにれいを追い詰めて・・・・・・、酷い事を言わせてしまった・・・。
女が女の武器である身体を売って何が悪い・・・?など・・・、言わせるべき言葉では無かった・・・。
俺のために・・・と言ったれいに、何も言えなくなる・・・。
何故、俺の為にそんなことまでするのか・・・?遊女に扮してくれなど、頼んでいない・・・。
しかし、頼まなくても率先して自分が出来ることは自分でこなす女だと言う事を思い出す。
呆然と考えていると、手を払いのけてれいが起き上がり、身を隠す。
そうして、自分はりんを傍に置いた癖に・・・と、そう言いながら、俺に触れてくる・・・。
その手つきと、こ惑的な瞳、拗ねた声音に、全身が戦慄く。
りんではなく、れいだから触れたいのだと・・・、れいから与えられる快楽に翻弄されながら説明して・・・、思いは同じなのだと、理解する。
そうして、肩に手を置いて引き剥がして・・・、れいの涙に心が震える・・・。
強気な発言をしながら、積極的に攻めながら、こうして弱く脆い部分をひた隠して、隠し切れずに居る・・・、そんな女を、男が放っておけるわけが無い・・・。
そう言っても、そんなわけが無いと本気で言うれいの無自覚さに溜息が零れる。
口付けて、抱き締めて、落ち着くまで背中を撫でる。
その滑らかな肌の感触に、手が止まらなくなる・・・。
同意を得るまでは抱かないと、もう一度決意をして・・・、更には、お互いの思いが通じ合うまでは・・・と、心に誓ったその瞬間、気持ちがぶれる・・・。
「このまま・・・、斎藤さんに抱かれたい・・・。」
「い、いや・・・、それは・・・。」
その言葉が、自分を求めての言葉だとしても・・・、今のこの状況に流されているだけでは・・・と・・・。それなのに、自分だけが舞い上がって、れいの生活を脅かすほどに嫉妬に狂ってしまいそうで・・・、拒むつもりで見つめたれいの瞳に吸い込まれ・・・、唇を味わい・・・・・・。
禿の言葉が無ければ、あのまま押し倒して、全てを味わい、仕事も忘れてそのまま溺れていたかもしれない・・・。
首に口吸いの痕を残して、自分のものだと牽制だけは忘れず・・・。
そう言えば、あの時初めて、「約束」をした・・・。
もう、れいは忘れているかもしれないが・・・。
仕事以上に大事なことが出来たら、教えると約束した・・・。
仕事は大事だ。けれど・・・、これが終わったら、他の何を置いても迎えに行こうと、そう誓っている・・・。
仕事以上に大事なこと・・・、れいと、子を守るために、今がある・・・。
それを、伝えたい。
だから・・・、生き抜く・・・・・・。






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