れいの中の危うい光に気付いてから、一月に一度は必ず髪結い処に行くようにした。
どうしているか、体調面の心配も勿論だが、その精神面もだ。
局長の発案で、雪村の父親探しをれいにも手伝ってもらおうということになっり、島原で主演を開きながら話をしようという流れになった。
巡察に行っている間に、新八、左之、平助が迎えに行っているらしい。
三人のことだから、無事に連れてこられるとは思わなかったが・・・、託すしかあるまい。
後から副長と雪村と一緒に島原に行くと、案内された部屋から女性の・・・いや、れいの、悲鳴が聞こえてくる。
一気に副長のこめかみに青筋が浮かぶ。
襖を開け放ち、一歩踏み込んだ副長が立ち止まり、何かを抱きとめる。
「げっ、出た・・・。」
呟きが聞こえてきて、副長が喚きだす。
抱きとめられたれいを横に押し退けて、新八、左之、平助の方へ詰め寄る。
雪村の後ろで、れいの様子を少し窺う。
薄紫の、大人しい着物を身に纏ったれいに目を奪われる。
以前の華やかな着物も似合っていたが、その着物もまた似合っていた。
慎ましやかな色合いが、れいの魅力を包み込み、艶やかさを醸し出している。
呆然と四人の騒ぎを見つめていたれいが急に振り向いて、驚いた顔をする。
「うわ!ビックリした・・・。」
驚いたれいの瞳が見開かれて揺れる。
副長に呼ばれて席に着くが、その後もれいは立ち尽くしていて、更には部屋を逃げるように出て行く。
立ち上がり、追いかけようとするが副長の方が早かった。
副長に任せようと席に再び着くが、副長に抱えられて戻ってきて、唖然とする。
小脇に抱えられたれいの表情は不機嫌に頬を膨らませている。
部屋に戻ってくる前にも、なにやら言い争いをしていた。
副長に席に押し付けられたれいが、顔を背けて座り込む。
れいに感じた境界を物ともせずにずかずかと踏み込んでは触っていく副長に、苦い思いをする。
更に、副長がれいを気に入っているという話になり、気分が害される。
自分が気を使って踏み込むのを躊躇っている間に、副長が近寄っていたということだろうか・・・。副長がれいのところに通っているなど、聞いたことが無いが・・・。
それとも、誰の目にも薄い境界の壁は見えていないという事だろうか・・・。
副長にも、新八にも、左之にも触られて、無防備さを存分に発揮しているれいにハラハラしつつ、腹の底が熱くなるのに戸惑う。
キャンキャン言い争うれいを落ち着けて、やっと大事な話をすると、途端に真剣な目で考え込み、責任を持って請け負うという。
こういう、真摯な態度にも好感を持つ。
大事なことは何か、きちんと心得ているのだと思う。
しかし、その後に再び度肝を抜かれる。
遅れてきた総司に刀を突きつけられて、それでも毅然と立ち向かうれいに、あの雰囲気を出している時の総司に平然と言い放つことが出来る女性が居たのか・・・と感心する。
総司の瞳が怪しく光り、立ち去ろうとするれいの腕を掴んで、頬に触れる。
何やら不穏な空気を感じて、腰が浮く。
総司がれいを前後に振り出して、嫌な予感は当たった・・・と、頭を押さえる。
総司に近寄り、れいを腕から助け出すと、総司は面白く無さそうに去っていく。
大丈夫だと強がるれいが立てないのを確認すると、抱き上げる。
「副長、別室で休ませてきます。」
「ああ、悪い。そうしてくれ。」
総司の仕業に頭を痛ませる副長の許可を貰い、れいをみんなの目から隠すように連れ去る。
語りかけてくるれいの言葉に上の空で返事をしながら部屋に入る。
べたべたと触られたことに腹が立っていることに、今更ながら気がつく。
れいを降ろして隣に座り込み、顔を覗き込む。
赤い顔で、少し目が潤んでとろん・・・としている。
普段と違う着物のせいか、ひどく色気を感じる。
大丈夫だから、部屋に戻れと言うれいに、薄い壁を再び感じたが、今回はその壁に阻まれる気にはならなかった。
「お前の大丈夫はあてにならないから・・・。」
そう言うと、複雑そうな顔をする。
前回も、帰れと言われたがその後に流した涙を思い出し・・・、それがただの強がりだと理解したのだ。
雪村のことを聞かれて、訳が分からなかったが、何やら気にするところがあるらしい。
好きなんでしょう?と言うが・・・、どこでそんなことを思ったのか・・・?
それよりも、思考が回らなくなる。
膝に手を置いてグッと近づけてくる顔に心臓が高鳴る・・・。
肩に手を置いて、少しだけ放す。
「れい・・・、近い・・・。」
首を傾げて聞き返すれいの足元にもドキドキしているらしい。
近寄るために開いた足の、裾が肌蹴て太腿が露になっている・・・。
白い足が艶めかしくて視線を逸らすと、れいが気にした風もなく、更に抱きついてくる。
散々他人には触らせておいて、俺は自分から触るだけで、触らせないというのか・・・?
れいの酔いに巻き込まれながらも、冷静さを保って水を渡す。
が、何を考えているのか、足を腿で挟んで膝立ちになり、口に含んだ水を口移しで飲まされる。
「!!?」
口の中に広がる冷たさと、口の端から零れる感触にゾクリと震えが走る。
これほど、我慢してやっているというのに・・・、何故迫ってくるのだ・・・?
そっと口を離すれいの表情が切なそうに揺れている・・・。
本当に、何故こんなことをするのか・・・?何故そんな表情をするのか・・・?翻弄される。
雪村を思うなら・・・と、再び訳が分からないことを言いながら首筋に唇を埋めてくるれいに、我慢の限界を感じた。
俺にだけではないのかもしれない・・・。触らせるのも、触るのも、誰でも彼でも・・・。
そう言うのだが、れいは首を傾げて愛らしい笑顔を戸惑いに歪めながら覗き込んでくる。
誰にも触れさせては居ないと、自分は寂しい独り身だと、副長や総司のは意味が違うと言うが・・・、俺にとっては同じだ。
どんな理由でも、触れているのは同じこと。
しかし、戸惑いを隠しもせずに、再び口付けをして・・・・・・、そのまま寝てしまった・・・。
無防備極まりないれいに、弾け飛びそうになる心臓が煩いのではと、心配になったものだ・・・。






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