れいの言動に翻弄されて、悩んだり隊務をこなしたりしているうちに、いつの間にかそれから二月がたってしまったらしい・・・。
巡察中、隊士に呼ばれて行くと、そこには真っ青な顔をして倒れている女性が居た。
隊士が膝を枕にしたてて頭を高くしてあげているが、全く意識が無いと言う。
髪が短く、まるで遊廓の禿のようだと思ったが、近づき、顔を覗き込んで驚愕する。
れいが髪を切ったことすら知らなかったほど、道端で倒れるほどに体調を崩していることを知らなかったほどに、傍を離れていたことに気付いて、自責の念に囚われる。
隊士から奪うように抱き上げると、山崎への伝言を一人に託して使いに走らせ、雪村を伴って髪結い処まで連れて行った。
布団を敷いて寝かせると、雪村が着物を緩めると楽になると言い、緩めてあげるのを見つめる。
少し息が楽になったようでホッとする。
持ち上げたときの体温の低さに肝が冷えた。
人間とは、こんなに冷たくなれるものなのか・・・と。
毎度、新しい顔を見せるれいから、目が放せないと、本気でそう思った。
しかし、そんなことをしては隊務が滞ってしまう・・・。
雪村に後事を頼み、戻ってくると言い置いて巡察に戻る。
巡察中、ずっと気がかりでならなかった。
普段よりも早足になる自分に、隊士たちが不思議そうな顔をしていた。
屯所に戻ると、副長に報告がてられいの様子を見たいと願い出た。
「はぁ!?そんな必要はねぇだろう!」
「しかし、山崎はまだ任務を離れられません。」
「だからって、女が一人倒れたくらいで、何で看病に行かなきゃいけない?」
「仮にも新選組の情報屋。ただの女では無いと思いますが・・・。」
「なら、そのまま千鶴を残せば・・・。」
「雪村が屯所を出て一人で居ても・・・?」
「良いわけがねぇだろう・・・。」
「平の隊士を置くわけにもいきません。」
「自分の体調くらい、自分で管理出来るだろう?」
「しかし、見過ごせません・・・。」
「・・・・・・。」
副長が頭を抱えて考え込む様子に苛立ちを覚えながら待っていると、手を振って行く様に促された。
「いいか、門限は大目に見てやるが・・・、泊まりや朝帰りは許さねぇからな。それから、千鶴はすぐに戻せ。」
「はっ。」
挨拶をすると、その足で部屋を飛び出し、そのまま走って髪結い処まで急いだ。
扉を開けて中に入ると、雪村が顔を出して出迎える。
「れいは!?」
「先ほど気付かれました。」
ホッとして、差し出される水を受け取って一気に飲み干すと、湯飲みを置いて部屋に上がりこむ。
振り向くれいの顔色が、覚えているよりも良くなっているようで安心する。
山崎が席を譲ってくれ、れいの傍に座り込むと、頬に触れて体温を確かめる。
温かさが戻ってきている。あの、心臓が凍えるような冷たさはなくなっていて、安心する。
少しだけ手に手を重ねて、微笑む様子に安堵するが、すぐに帰ってくれと言うれいに、不思議な気分になった。
今まで無かった何か、薄い壁のような物を感じたのだ。
夜半に山崎が戻ると言うのは、任務を放棄してれいに着くと言うことか?と思ったが、山崎に限って、そんなことは無いと思う。
二人を見送りがてら、確認をする。
「ああ、昨夜の様子から、今夜は恐らく開かれないと思いまして。それを確認次第、戻ってきます。」
「そうか。ならば、俺はそれまで居よう。」
「はい。」
山崎の言葉に安堵と、不思議な胸苦しさを覚えながられいの元に戻ると、何故か驚かれた。
そして、再び帰れと促される。
傍に寄ってきて、人の境界など存在しないかのように振舞うれいに、近寄ろうとすると境界を引かれる・・・。
ふと、短くなった髪に隠れた表情を確認したくなる。
そっと触れて、感触を確かめる。
柔らかな弾力に隠された表情に、全身が反応する。
「何故、泣きそうな顔をしている?」
「何で・・・でしょうね。」
その瞳に隠れる感情・・・。そこに鍵がある気がして、れいの頬に触れる。
髪を触りたいと訴えるれいに頷いて触れさせると、泣きそうになりながらも嬉しそうに触れてくる。
そして、頬に触れている手に手を重ねられる。
戻ってきた温かさと、動いているという安心から、見つめる瞳に優しさが篭る。
髪紐を解き、後ろに流して梳き続ける指使いに、甘い疼きが全身に広がる。
耳元に寄せられた唇から、吐息と共に吐き出される言葉・・・。
「斎藤さんの髪の毛、好き・・・。」
膝立ちをして髪を梳き続けるれいの不安定さに危なっかしさと脆さを感じて、腰を掴んで支える。
その細さに驚く・・・。
胸元の印象があるからか、こんなに細いとは思っていなかった・・・。
自分からは近づいてくるのに、近づくことを許さない・・・、奔放そうに見えて、本当は臆病で気を使う、弱いただの女性なのだと・・・・・・。
涙を見て、理解した。
抱き締めて、口付けて、押し倒してでも自分の物にして、支えて上げられたら・・・・・・。
そう思うが、きっと、近づくことを許さない彼女は、それをされることを拒むだろう・・・・・・。
そう思いながら、再び触れてくる唇を受け入れ、啄ばみ、自ら近寄ってくる時にだけ許される抱擁をする。
強く、壊れてしまいそうな身体を抱き締める。
それでも止まらない涙と、着物を握り締めて白くなる手・・・。
彼女が欲しているのが何なのか分からずに、ただただ強く抱き締めた。
山崎が帰ってくるまでには元気を取り戻したれいの瞳の奥に暗く揺れる何かが、結局分からないまま・・・。
元気な様子を見せるれいの瞳の奥には、いつもその何かが揺れている事に気付いた・・・。






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