後事を山南さんに頼むと、れいを追いかけて走った。 さほど行かない場所で、身を硬くして立ち止まるれいを見つけて腕を引くと、全身がギクリと硬くなる。 どうかしたかと疑問に思い声をかけると、驚いた様子で振り返った後に、へなへなと座り込んで泣き出すれいに再び心をかき乱された。 どうして、こんなにも色々な面を持っているのだろうか、そのどれもが魅力的で、儚げで、何故だか支えてあげなければと使命感が燃え上がる。 そして、飛び出す言葉の一つ一つに翻弄される自分が居るのだ・・・。 何故新選組に居るのか?と聞かれたとき、咄嗟に答えられなかった・・・。 新選組は、俺にとっては恩人だ。が、ここに至った経緯は、人を斬ったことに発端がある・・・。 そして、自分は武士で人を斬るのが仕事だ。 どう上手く言えば伝わるのかが分からずに黙っていると、冷たい風が通り抜けて、れいが寒そうに身を縮こませるのに気がついた。 自分の襟巻きを巻いてやると、匂いを嗅がれて驚愕した。 癖だと言っていたが・・・、やはり、色々な面を持つれいには驚かされてばかりだ・・・。 匂いが好きだと言ってくれた、そのれいの匂いがついた襟巻きを、心地良いと感じている自分を、不思議に思ったものだ・・・。 その二日後、山崎からの密書に、全身が凍る思いがした・・・。 ただ無事で居てくれと・・・、そう願うことしか出来ずに気持ちが急いた。 副長の落ち着き払った態度に尊敬と苛立ちを感じながら地主の家に辿り着くと、入り口には不審な男たちが数人屯っていた。 「お前ら、ここら辺で変な噂を聞いたんだが・・・」 副長が中の一人に声をかけると、男たちが目配せをしはじめる。 気にせずに悠々と話し出す副長の指だけの合図で、三番組は門の中に入り込んだ。 「ちょっと!勝手に入らんといてください!」 中から一人、気弱そうな細腕の男が出てくる。 「女が一人、ここに攫われてこられたと聞いたが・・・?」 低く問いただすと、途端に男の視線が泳いで、奥の一角で止まる。 「はて、何のことやろか・・・?」 「そちらだな。」 「な、何を言うてはんねや!?覚えが無いて・・・!」 すがり付いてくる男を隊士に任せて、副長に目配せをすると、奥に駆け出した。 庭伝いに目線の先を目指す間も、屈強な男たちが刀を抜いて立ち塞がってくる。 軽く太刀を抜き放って刀を振るえなくすると、追いかけてくる隊士たちが捕縛していく。 副長と共に目的の場所に辿り着く前に、男たちに囲まれた山崎が目に飛び込んでくる。 れいが見当たらないが、一人だけ少し離れた場所に居る男に山崎の視線が注がれているのに気付いて、息を呑む。 副長が指だけで合図をするその時、れいの声が聞こえてきた。 「山崎さん、ごめんなさい!!」 その言葉と同時に、副長の刀が男の腕を切りつけ、れいを引き剥がす。 「何してやがる!!」 副長の怒鳴り声に驚いているれいを確認しながら、山崎の周りに居る蝿を追い払う。 瞬時に終わらせ、山崎の無事を確認して頷きあうと、刀を納めてれいに近寄る。 涙で濡れて赤く腫れた頬に胸が再び締め付けられる。 自分がもっと早くみんなを動かしていれば、こんなことにはならなかったのでは・・・。 そっと頬に手を伸ばして、副長に胸倉を掴まれて指先から頬が遠ざかるのに、一瞬呆然として、れいの言葉に更に呆然とする・・・。 「死んじゃおうかなって・・・。」 例え山崎を助けるためだとは言え、女性が命をそんなに簡単に捨てるなど・・・・・・!! 「ふざけるんじゃねぇ!!」 副長が怒り任せに胸倉を押し放し、れいがよろめいて胸の中に転がりこんできた。 抱きとめて、微かに震えて崩折れそうな小さな身体に気付いて胸が締まる・・・。 「俺たちが来るという計算は無かったのか?」 聞いて、れいの様子と山崎の話で、それどころではなかったのだろうと理解する。 女性と言うものは、守られて当然だ。それなのに、れいは誰かを守るために命を投げ出す勇気を持っている・・・、ただ守られているだけの女ではないのだ・・・。 この話を持ってきた時に、自ら調べに行った行動力を思い出し、その無謀な危うさに気付いた。 副長にお礼を言いに行くと言って駆け出したれいが倒れそうになるのを抱きとめて、無事であったことを実感するために強く温もりを感じた。 「心臓が止まるかと思った・・・。」 腕の中の小柄な温もりに、安堵の溜息が零れる。 副長に改めてお礼を言うと言ったれいの口から嫌味とも取れる言葉が出たときは驚いたが、それが本心からの言葉だと気付いて、更に驚いた。 死ぬならもっと早くなど・・・、どうしてそんな事を言えるのか・・・。 副長が言う諦めとは、死ぬことすら入っているのか・・・? 考えながら聞き入っていたら、副長が急に雪村のことを例にだして話し始め、れいも山崎も戸惑った。 副長の愛妾だと思ったのか、れいが驚愕して年齢差を聞くものだから、思わず答えてしまった俺も、それなりに動揺していたのだろう・・・。 お勝手口から山崎と二人で去るれいの首についた赤い傷口に気付き、襟巻きを再び貸した。 嬉しそうに口元に持っていくれいを見て、死とは無縁に見えるこの女性が、何故そんな覚悟を持てる・・・?そう思えてならなかった。 女性の強さが、理解できるほど大人ではなかったのかもしれない・・・。 夜、襟巻きを取りに行った時、山崎から聞かされたれいの本当に危険だった状況とやらに赤面して・・・・・・、あの大男だけは斬る・・・!!そう心に誓った・・・。
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