お風呂を沸かして、れいはゆっくりと浸からせてもらった。
暖かな湯と、歓迎されたという安心感から、ぽろぽろと涙が流れてきた。
ここは斎藤さんともそんなに離れていないし、きっとすぐに迎えに来てくれるはずだ・・・。
でも、もしこのまま幕府軍が有利に立てなかったら・・・、斎藤さんが羅刹とかいうあの薬の力を使い果たしてしまったら・・・・・・。
自分が生活する分には安心できたけれど・・・、斎藤さんの事に関してだけは、安心出来なかった・・・。
お湯から上がると、浴衣に着替えて居間に戻る。
しかし、お婆ちゃんは居なかった。
「あれ・・・?」
お勝手を覗いても見当たらず、畑を向いている縁側に出てみる。
畑の中に、小さな影が見える。
きっと、また畑に行ったのだろう。
縁側に座りこんで、そよ風に吹かれながら目を閉じる。
土の匂いと、緑の匂いが頬を撫でて行く。
久しぶりに、のんびりと座っているような気がする。
お婆ちゃんの家は、始めて来たのに何だか懐かしい匂いがした・・・。
心地よい空気に包まれて、れいはうつらうつらとし始めた。
「おめ、そっだらとこで寝てっと、風邪ひぐぞ!?」
「!?」
突然野太い声に叩き起こされて、れいは飛び上がりながら目を開けた。
目の前に、引き締まった小麦色の肌をした男が、覗き込むようにして立っていた。
「おめか?美代婆ちゃんの孫って?」
「・・・は、はい・・・。」
「おらは、三太。」
「・・・・・・れいです・・・。」
「そうけ。れい、飯造りにこっちゃこ!」
気がつけば、母屋に灯りが灯っていて、人の気配がしている。
中から賑やかな子供の声もしていて、畑の周りを走り回っていた子供たちを思い出す。
母屋の灯りに気付くほどに、空も薄暗くなっていた。
本当に眠ってしまっていたらしい。
「いつもは婆ちゃん、別々に飯食うんだけんど、今日は特別だっつって、張り切ってだがら。母屋で一緒だ。」
「あ、はい。」
れいが立ち上がって玄関まで行こうとすると、三太が呼び止める。
「そこの草履使ってええで、早ぐこ!」
「は、はい。」
実はイマイチ、何を言っているのか聞き取るのに難儀しているのだけれど、何となく理解できているのだと思う。
少し縁側を歩くと草履が置いてあるので、それを履くと、三太が頷いて母屋に先に歩き出す。
「しっがし、おめ、変な頭してんな。江戸ではそんなんが流行ってるのが?」
「え、いえ、流行っていないです。」
「おめ、子供みでぇにちっこいな!」
「そんなこと無いですよ!」
「こんなちっこい体で、丈夫な子供産めんのが!?」
三太が、言いながられいのお尻をポンと叩く。
「うわ!何するの!」
「は〜、ケツもちっこいちっこい!おめ、全部がちっこい癖に、胸だけはでっけな!」
ガハハと笑いながら先を歩く三太を睨んで、れいは浴衣の襟元をギュッとキツク合わせた。
三太も、そんなに大きいわけではない。
斎藤さんよりは大きいかもしれないが、土方さんよりは小さい。
けれど、農作業で培った筋肉が、大きな熊を連想させる。
小麦色の肌の色のせいもあるかもしれない。
永倉さんは筋肉自慢の人だったけれど、筋肉の付き方が違うような気がする。
農作業と剣術では、使う筋肉が違うのかもしれない。
って、何で筋肉なんか論じてるんだろう・・・。永倉さんに犯されてきている・・・?
頬を両手で挟んで、首をぶんぶんと振る。
筋肉を論じたところで、自分は筋骨隆々が好きではない。
斎藤さんみたいに、繊細で細やかなのにしっかりと引き締まってついているところはついている・・・っていうのが、好みだなぁ・・・。
そう言えば、斎藤さんって、細かったな・・・。無駄なお肉が無い感じ・・・。
贅肉が無くて筋肉だけだなんて・・・、羨ましい・・・・・・。
じゃなくて!
駄目だ、何で筋肉を論じてしまうんだろう・・・・・・。
再び首を振って、母屋へと入っていく。
「母ちゃん!連れで来だ!」
三太が言うと、奥から女性が一人出てきて、手招きする。
「よぉぐ来だなぁ!入れ!」
「は、はい。」
草履を脱いで女性の方へ行くと、さっと身を翻して奥に行ってしまう。
「あ、あの、れいともうしま・・・。」
「挨拶なんて後!早ぐ飯作らねぇど!」
挨拶を遮られて、引き返してくるとれいの手を引っ張ってお勝手に連れて行かれる。
お婆ちゃんが先に来ていたようで、野菜を洗っている。
「おお、れい!起ぎたけ?」
「すいません、寝ちゃってたみたいで・・・。」
「長旅で疲れだんだ。仕方ねって。」
お婆ちゃんが洗った野菜を切って、鍋に放り込んでいる女性も居る。
こちらの女性は若く、自分と変わらないくらいに見える。
「ほら、おめはこれ!」
籠の中に入れられたジャガイモを渡される。
「これ、婆ちゃんと一緒に洗っでけれ。」
「うちで採れた芋だ。」
「んめぞぉ!」
三人に話しかけられて、れいは微笑んで籠を受け取るとお婆ちゃんの横に並んでジャガイモを洗い出した。
お勝手での賑やかな料理のおかげで、すぐに打ち解けることが出来た。
三太が母ちゃんと言っていた人が、お婆ちゃんの息子のお嫁さんで、若い女性が孫のお嫁さんと言うことらしい。
長男の夫婦の長男一太夫婦が一緒に暮らしていて、娘の双葉さんは嫁に出ているらしい。次男の三太はまだ嫁を貰っていないらしく、同居をしているが、気ままに母屋と離れを行ったり来たりしていると言う。
一太夫婦には三人の子供が居て、まだ八歳と六歳と五歳だという。
れいは、子守と食事の支度の手伝いに家の掃除をしてくれれば良いから、と言われて、もっと手伝うと言ったが、
「元気な子を産むのが、おめの仕事だろ!」
とお婆ちゃんに頭を叩かれた。
このお婆ちゃん、手は早いがとても優しくて、一日で大好きになった。






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