藤堂さんは力を潜めて、髪と瞳の色を戻すと、れいの肩から手を退かした。
「凄い・・・。やっぱり、白髪って、黒に戻るんだ・・・。どの生薬を使ったらそうなるんだろう・・・?」
未だに髪を弄っているれいを呆れ顔で見つめて、藤堂さんが頭を掻く。
「生薬なんか使ってないと思うけどな・・・。それに、この薬は勧めないし。」
「土方さんも、はじめさんも、飲んじゃ駄目だって言ってました。」
「駄目だよ、絶対に・・・。」
「昼に弱くなるって、どう言う事?」
「太陽の光が、身体に突き刺さるように痛むんだ・・・。昼間は眠いし、昼に起きているだけで命が削られる・・・。」
藤堂さんの苦々しい声を聞いて、れいは髪を弄る手を止めて、頭を撫ではじめた。
「人は、毎日命を削って生きていますよ。」
「そういう事じゃなくって!」
撫でられている手を避けて、藤堂さんが先に立って歩き出す。
何となく後をついて歩きながら、れいは胸に手を当てて息を吸い込んだ。
昼間に起きているだけで、命を削られる・・・?痛い・・・?
では、今斎藤さんは、毎日とても痛い思いをして毎日を過ごしていると言う事だ・・・。
強靭な肉体と驚異的な回復力を得る代償に・・・、痛みと、体の変化をもたらす・・・薬・・・・・・。
それはやはり、恐ろしい物だと思う。
そんな物が世の中に出回ってしまったら・・・、髪の色と目の色を変化させることが出来る、変身出来る!と喜ぶどころの騒ぎじゃない。
戦が・・・・・・、もっと酷く激しいものになるという事ではないだろうか・・・?
「血が、欲しくなるんだ・・・。それが、どんどん激しくなって・・・、正気を保っていられなくなるんだ・・・・・・。正気を失って、血を求めて徘徊するんだ。そして、人を見境無く切り殺して、血を・・・・・・。」
藤堂さんが立ち止まって、拳を握り締める。
「そうなったら、もう斬るしかないんだ・・・。もう、俺もいつ正気を失ってもおかしくない・・・。」
「藤堂さん・・・?」
「はじめ君は、まだ羅刹になって日が浅いから、この苦しみは分からないと思う。でも、すぐ・・・だよ・・・。」
「苦しみ・・・・・・?」
れいの呟きに、藤堂さんが頷く。
血が欲しくなると、苦しくなる・・・と言う事?
貧血の苦しみと、どう違うのだろうか・・・。
目の前で見ないと、経験しないと、何も分からない・・・。
分からない事だらけで、頭で理解があまり出来ない。
藤堂さんが、懐から薬包を取り出して、差し出してくる。
れいは反射的に手を出してそれを受け取る。
藤堂さんの手から、薬包が何個も落ちてきて、手の平に収まる。
「それ、吸血衝動を抑える薬。でも、正直気休めだし、効いてるのか効いてないのか分からない。」
何故、そんな物を自分にくれるのだろうか・・・?
薬包と藤堂さんを交互に見比べると、藤堂さんが再び歩き出す。
薬包を荷物の中に押し込んで後を追いかける。
「はじめ君にも渡すけど・・・、俺が居なくなってかられいさんの所に行くことになったらさ・・・、もう渡せないだろう?だから、先に・・・。」
「藤堂さんが居なくなる?」
「ああ。羅刹の力を使えば使うほど、寿命が縮むんだってさ・・・。俺、結構使っちゃってるからなぁ・・・。」
藤堂さんがさも気楽そうな声を出して話す。
しかし、れいの足は重くなり、次第に止まる。
「はじめさんも・・・知ってる・・・?」
「知ってる。知ってるのに、飲んだんだ・・・。」
「全部・・・知ってる・・・?」
「知ってるよ。」
れいの声調の変化に、藤堂さんが振り返る。
俯いて立ち止まっているれいを見て、藤堂さんが引き返してくる。
両手を頭の後ろで組んで、気楽さを装いながら。
れいの前まで来ると、そっと慰めてあげようと、そう思っていた。
けれど、れいは藤堂さんが何か言うよりも早く毅然と顔を上げた。
「なら、あまり無茶をしないで下さいと、伝言をお願いします。」
「れいさん・・・?」
「先に死んだら、許さないって・・・。力は温存して、ここぞと言う時にだけ、発揮するようにって・・・。」
「・・・・・・。」
藤堂さんがれいを見つめる。
その瞳に、驚きと尊敬を交えて。
「はじめさんに一目会おうと思ったけれど、やっぱり・・・、会わないでおきます。ここで会っちゃったら・・・、死に急ぐような薬を飲んじゃったことを私に知られちゃったら、はじめさんが動揺しちゃうものね。」
「知られちゃったらって・・・、その伝言でかなりバレちゃうと思うけど・・・?」
苦笑しながら言う藤堂さんに苦笑を返す。
「本当だ・・・。でも・・・、バレないかもしれないでしょう?」
「でも、はじめ君、鋭いしなぁ・・・。」
「そこは、藤堂さんの腕の見せ所です。」
「マジかよ〜、俺、そう言うの苦手なんだよなぁ・・・。」
「知ってますよ、前に失敗されてますし!」
「うわ、嫌なこと思い出させちゃったなぁ・・・。」
藤堂さんが肩を竦めて空を仰ぐ。
笑いながら同じように空を見上げて、れいは溜息を吐いた。
雲に隠れた月が、ほんのりと明るく存在を主張している。
雨が・・・来るかもしれない・・・。
そう言えば、梅雨に入る時期だ。
「行かなきゃ・・・。梅雨に入る前に、着きたいな・・・。」
呟くれいをチラリと見て、視線を逸らした。
強さの奥に揺らぐ不安を、見てはいけないような気がした・・・。





藤堂さんに送られて宿に着いたれいは、一泊だけして祖母の実家へと急いだ。
新選組は、白河口の戦いへと赴くために、出陣した。
羅刹となった斎藤さんは、様々な覚悟を秘めて出陣していった・・・。






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