夕刻、れいは宿の部屋で空の赤さを見ていた。 その赤さで・・・、思い出す。 斎藤さんの胸の硬さ、あれは、あの小ささは、自分から取り上げた「強くなる薬」では無いのか・・・? あの薬が、結局何なのかは分からない。 けれど、あの男の病と関わりがあるのだろうと、何となくそう思っていた・・・。 あの日、血を吸われて朦朧としていたが・・・、確かに覚えている。 斬ったはずの場所が、すぐに癒えていく不気味さ・・・。 そして、助けてくれたという人、その人の声・・・・・・。 藤堂さんの声に似ていた。 それに、男のことを山南さんだと・・・。 同じ名前の人がそう居るとは思えない・・・。 山南さんとは、かなり前に死んでしまった、新選組の総長ではなかっただろうか・・・・・・。 本当は死んでいなかったと言う事か・・・? よく分からない・・・。 分からないけれど、嫌な予感しかしない・・・。 不安な気持ちを胸に、夕日を眺めていると、お腹がポコンと打たれた。 「・・・?」 お腹に手を当てると、ポコン、ポコン・・・と、動く・・・。 「動いた・・・・・・。」 ポコン、ポコン、ポコン、一定の間隔で動くお腹の中の子に、れいは涙が溢れてくるのをとめられなかった・・・。 嬉しいとか、感動とか、そう言う事ではなくて・・・・・・。 何故だか、子も斎藤さんを心配しているような、そんな気がしたのだ・・・。 何かあったのではないかと、焦燥が募る・・・。 けれど、今から宿を出て追うわけにもいかない・・・。 お腹を擦りながら、れいは子に話しかけた。 「お父さんなら、大丈夫、大丈夫だよ・・・。心配いらないよ・・・。」 言いながら、斎藤さんの言葉が蘇ってくる。 『お前の大丈夫は当てにならない・・・。』 当てにならない・・・。そうだ、だって、全然大丈夫じゃない・・・。 斎藤さんが大丈夫かどうか分からない、この目で見られるわけではないのだから、分からないのだから、全然大丈夫じゃない。 ただ待っているだけなのは、不安で不安で仕方が無い・・・。 信じると決めた、待つと決めた。 けれど、それでも怖い・・・・・・。 怖いけれど、やっぱり信じて待つことしか出来ないのだ・・・・・・。 だから、強がりでも、慰めでも良い。 自分に、子に、言い聞かせるしかないのだ・・・。 「大丈夫だよ。大丈夫・・・・・・。」 暮れ行く空を見つめながら、止まる事のない涙を流して、泣き疲れて眠るまで、「大丈夫」と言い続けた。
数日後、土方さんと千鶴ちゃんが新選組先行部隊と合流するが、羅刹化した斎藤さんに止められ、清水屋で療養することとなる。 それから更に数日後、斎藤さんは会津藩藩主松平容保公に拝謁することとなる。 新選組が白河口の戦いへと身を投じることになるのは、後もう少し・・・。
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