れいは、斎藤さんと数人の隊士と連れ立って、峠を歩いていた。
峠は思っていたよりも足元が悪く、歩きづらい。
隊士が後ろを振り返ってれいの様子を伺う。
先頭を行く斎藤さんは振り返らないが、背中を見る限り、気を配ってくれているのだと分かる。時折分かりやすく歩く早さが遅くなる。
「ごめんなさい・・・。」
様子を伺う隊士に謝ると、隊士は慌てた様子で首を振りれいの横に並んでくる。
「いえ、とんでもないです。少し速いですか?」
「大丈夫です。速さは平気なんですけど、足場が悪いですね・・・。」
「ああ、そうですね。ここら辺は一番足場が悪いかもしれません。」
「じゃ、ここを抜けたら大分ましになりますか?」
「そうですね、ましになりますよ。」
「そうか・・・。じゃ、頑張りましょう。」
微笑みかけると、隊士が優しく頷いて先を行く。
追いかけながら、小さな窪みにすら足をとられる。
これまでの溜まった疲れから、足が上がっていないのだろう。
そして、その度に力を入れるからか、歩き通しのためか、またお腹が張って痛んできている。
斎藤さんが、汗を拭いながらついてくるれいを振り向いて、その様子に気付き近寄ってくる。
隊士たちが足を止めて見守る。
「あ、まだ大丈夫ですよ?」
れいが微笑むが、その頬が少しだけ引き攣っているのに斎藤さんは目ざとく気付いた。
頬に手を当ててそっと撫でると、突然れいを抱き上げた。
「な!!」
驚いて声を上げるが、隊士たちの反応の方に気をとられてしまう。
全員、唖然と斎藤さんを見つめている。
「ね、隊士さんたちがビックリしてる・・・。」
あまりの驚愕の表情に、こっそりと斎藤さんに囁くと、斎藤さんが隊士たちを振り向く。
全員、視線を外して先を歩き出す。
「・・・・・・。」
斎藤さんが沈黙を守る。
「複雑なの?」
「むっ・・・。」
「みんな、何でそんなに驚くの?」
「・・・?」
「後で、みんなに聞いてみます。」
斎藤さんに抱き上げられながら、小さな声で会話を続ける。
これが会話になっているのだと、分かる人は少ないかもしれないほど斎藤さんの口数は少ないが・・・。
「でも、本当にまだ歩けます。これじゃ、いざと言うときに腕が使い物にならなくなっちゃうんじゃ・・・?」
「これくらいで使い物にならなくなる腕など・・・。」
前を行く隊士たちが、時折後ろを振り返る。
それを斎藤さんが見ると、すぐに顔を前へと向ける。
「やっぱり、歩きます。みんながこっちを気にしてたら、回りに気を配れないでしょう?」
「しかし、不調なのだろう?」
「ちょっと、お腹が張ってるかな・・・。でも、これくらいで今までも歩いてきたから。」
「足場が悪い、もし転んだりしたら・・・。」
「平気。足手まといになりたくないの。」
「足手まといになりたくないなら、しばらくはこのままで我慢してくれ。」
「でも・・・。」
「お前が歩かないだけで、進む速度が増す。あと少しで足場が悪い場所が終わる。」
「本当?」
「ああ。そこまで行ったら、降ろそう。」
「分かった・・・。」
れいは頷くと、斎藤さんの顔を見つめる。
「あの・・・。」
「?」
「少しだけ、凭れかかってもいい?」
「ああ。」
息を吐き出して、斎藤さんの胸に凭れかかる。
温もりに抱かれながら、斎藤さんのスカーフを指で玩ぶ。
「有難う。」
「何がだ?」
「やっぱり、少し疲れてたから・・・。」
「ああ。」
「はじめさんに会えてよかった・・・。」
「ああ。」
「これって、やっぱり二人に縁があるってことよね。きっと、戦が終わっても会えますね。」
「ああ。」
斎藤さんが真剣に答えてくれるのが嬉しかった。
何の確証も無い自分の言葉を、斎藤さんは信じてくれていると言うことだ。
自分も、斎藤さんの必ず迎えに来るという約束を信じる力が増す。
しばらくそのまま、斎藤さんに抱き上げられて進み、少しだけ平坦な道になった所で、斎藤さんが休憩を言い出した。
れいは斎藤さんから降りると、お辞儀をして離れた。
少しだけ離れて休憩をしていると、隊士の一人が水を持ってきてくれた。
「さっき、何であんなに驚いていたんですか?」
「え?」
隊士に話しかけると、戸惑ったように頭を掻いている。
まだ若いようだ。
「いえ、組長は女の人に興味が無いのかと・・・。」
「助けてくださっただけですよ。女に興味があるとかではないと思いますけど・・・。」
「いえ、ああして抱き上げてまで助けると言うことは、珍しいのです。気に入られたのだと思いますよ。」
「・・・・・・。」
目を瞬いて、隊士を見上げてしまう。
斎藤さんが女人を助けないなど、想像が出来ないのだ。
いつだって、最初から、斎藤さんは自分を助けてくれたいたのだから、みんなにもそうでは無いのか?
「気に入ったって・・・、そんな・・・。」
戸惑って返事に窮すると、隊士が嬉しそうに笑う。
「女の人の影が全く無い人でしたから、何だか嬉しいです。」
「女の影が無い・・・?」
「ええ。仕事一筋といった感じで、憧れです!」
「そうなんですか・・・。」
嬉しそうに笑う隊士。本当に斎藤さんに憧れているのだと、その顔で分かるが・・・、複雑だ・・・。
これだけ長い間一緒に居て、女の影が無いと思われているというのは・・・。






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