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斎藤さんは、木陰から街道に躍り出ると、銃弾が飛んでくる方へと駆け出した。 時折軌道を変えながら走り、飛んでくる銃弾を避ける。 着弾場所の予想が出来るわけでは無いので、ただ闇雲に、ジグザグに走るだけだ。 時折、銃弾が身体を掠めて飛んでいく。 斎藤さんに集中して銃弾が飛んでいく中、斎藤さんに気を取られている新政府軍が悲鳴を上げて銃を取り落としていく。 斎藤さんが囮になって、隙を突いたのだろう。 けれど、これでは斎藤さんが死んでしまう・・・。 いくら素早い動きで避けたとしても、それは遠いから通用していたのだ。 近づけば、的が大きくなり、相手は打ちやすくなるし、斎藤さんは避けにくくなるだけだ。 それなのに、斎藤さんは突っ込むのを止めない・・・! そのまま新政府軍の中に突っ込んで、刀を振り回しながら次々に斬り捨てていく。 流石に集団の中に入られてしまうと、相打ちになってしまうので銃は撃てない。 腰に提げた刀を抜き放つ者も居るが、剣術で斎藤さんに適うはずがない。 そのまま斬り捨てられて倒れていく。 斎藤さんは、最後方まで駆け抜けると、指示を飛ばしていた一人の男に刀を払い、やっとそこで止まった。 指揮官を打たれた新政府軍が、散り散りに走り去り始める。 斎藤さんはしばらくそれを見つめていると、刀を拭いながら鞘に納め、戻ってくる。 新選組の面々が、斎藤さんの下へと集っていく。何やら指示を出しているらしい。 手の動きで、負傷した兵を集めるよう言っているのだと理解する。 指示を出し終わった斎藤さんが、れいの居る木を見て、向かってくる。 れいは起き上がり、斎藤さんへと駆け寄る。 「はじめさん!!」 斎藤さんの身体を見ると、先ほどよりも傷が増えている。 木の陰に入り、街道から見えない場所に来ると、斎藤さんはれいに凭れ掛かった。 「はじめさん!大丈夫ですか!?」 かすり傷だけで留まっているのが不思議で仕方が無い。身体の内側に打ち込まれた弾丸が無いか、手で必死に探ってみるが、無さそうだった。 「っく・・・・・・」 悔しそうな歯噛みが聞こえる。 「こんな小競り合いですら、俺たちは苦戦するのか・・・。」 れいは斎藤さんを抱き締めて、少しの間そうしていた。 そして、放すと斎藤さんの手を取り、自分のお腹に当てる。 「少し、お腹も大きくなったの。この中で、はじめさんの子も、頑張って大きく育っているの。」 突然のれいの行動に、斎藤さんが虚を突かれたような顔をする。 「あなたのお父さんはね、これくらいの戦いでは絶対に負けないの。苦戦したって、勝利に導いちゃうんだよ。でも・・・、ちょっと無茶しすぎよね。あなたも、心配だよね。これじゃ、本戦前に力尽きちゃうね。」 子供に向かって話している様で、実は自分に向かっていっているのだと、斎藤さんはすぐに理解した。 けれど、それを直接言ってこないれいに、肩の力が抜けて楽になる思いがする。 「すまない・・・。」 お腹を優しく撫でて、子供に話しかけるように謝ると、れいが泣きそうな笑顔を向けてくる。 懐から手ぬぐいを出すと、細く裂いて、斎藤さんの傷に巻き付けていく。 少し深く抉れている傷もある。 見るだけで、手が震える・・・。 「もっと・・・、手を抜いた勝ち方が出来るようにならないと・・・。」 「幕府軍は、武器に恵まれていない・・・。手を抜いた勝ち方は出来ない。手を抜くと、すなわち負けを意味する・・・。」 「はじめさん以外に、手練の人は居ないの?」 「今、俺の元には居ない・・・。それに、今日は斥候として回っていたに過ぎない。人数も少なかった。」 れいの手当てを受け終えると、斎藤さんは木の陰から出て隊士たちの下へと向かった。 隊士たちも、応急処置を終えて一塊に揃っている。 歩けない者は居ないようで、見回してからホッと嘆息する。 後ろを振り返り、れいを見ると頷いた。 それを見てれいが木陰から出てくる。 「巻き込まれた旅の人だ。」 不思議そうな顔で見る隊士たちにそう説明して、れいが横に来ると澄んだ瞳で見つめる。 「会津だったな。」 「はい。」 「俺たちもこれから会津に帰還する。送ろう。」 斎藤さんの言葉に、れいが目を見開いて驚く。 「え・・・?良いんですか!?私、速さについていけないですよ?」 「かまわない。そちらに合わせる。」 「え、でも・・・」 「こちらも負傷者を抱えている。それに、ここからはまだ峠が続く。また巻き込まれたら危ない。」 「夜通し歩けないですよ・・・?」 「今日は夜通し歩かないから、安心しろ。」 れいは隊士たちを見回して、再び斎藤さんに視線を戻す。 言葉を交わさずとも、斎藤さんとは他人の振りをする。 けれど、一緒に居たらボロが出てしまわないだろうか・・・。 それに、急ぐのだろうに、良いのだろうか・・・。 「大丈夫ですよ。無表情ですが、優しい組長です。」 隊士の人が、れいが警戒しているのだと思ったらしく、笑って話しかけてくれる。 「無表情・・・・・・。」 「むっ・・・。」 斎藤さんの方を見て、話しかけてくれた隊士を見る。 隊士は、悪びれた風もなく、笑い続けている。 「そうです。信頼のおける組長です。」 「だから、安心してついてきてください。」 他の隊士たちも、同意しだす。 れいは思わず笑ってしまった。 「信頼されているんですね。」 斎藤さんに微笑みかけると、斎藤さんが少しだけ視線をずらして、戸惑っているのが分かった。 新選組の中での斎藤さんが見られて、れいは思いがけない良いものを手に入れた気分だった。 「じゃぁ、お願いします。でも、本当に足手まといだと思いますよ・・・。」 「構わない。」 みんなに辛うじて聞こえる程度の音量で返事をして、その後に横に居るれいにしか聞こえない音量で呟く。 「傍に居ろ。その方が安心だ。」 「・・・はい。」
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