「本当に、良いんですね?」
「ああ。武士に二言はねぇ。」
「分かりました。」
櫛を取り出して、髪を梳く。
そうして綺麗に揃えてから、端から鋏を入れていく。
長い髪が床に散らばっていくのを、土方さんと斎藤さんが目で追う。
れいは、髪を襟足に揃えて切ると、少しずつ段差を入れていく。
前に回り、前髪を櫛で梳いて、確認をする。
「前髪は、やっぱり長いほうが良いですか?」
「短くしたら、どうなる。」
「そうですね・・・、髪質が違うのでちょっと想像出来ないでしょうけど、永倉さんくらいにすると・・・、水に濡れた永倉さんって感じですか・・・。土方さんの顔だと、少し幼く見えるかもしれませんね。」
「じゃ、長いままで頼む。」
「分かりました。」
目を閉じて待つ土方さんの前髪を少しだけ切ると、顔にかかる部分と後ろに違和感が無いように斜めに切っていく。
土方さんの髪は、芯がしっかりとしているけれど、真っ直ぐで癖があまり無い。真っ直ぐなのが癖のようなものだ。
梳きながら慎重に切っていくれいの手つきを、斎藤さんが食い入るように見ている。
それに気付かないほどに真剣に切っている。
最後に髪を梳き、手で解しながら振ると、残った毛がパラパラと落ちていく。
前に回りこみ、耳元の髪の長さを引っ張って確認すると、少しだけ調整して、息を吐く。
「終わりました。」
鋏を帯びに差して、腰に手を当てる。
「相変わらず、良い男ですよ。我ながら良い出来栄えです。」
れいが、土方さんを褒めながら自画自賛する。
「うむ。見事だった。」
斎藤さんも同意する。
「何か、頭が軽くなったな・・・。」
後頭部を触りながら土方さんが首を左右に振る。
サラリ、と髪が揺れるのに慣れていないようで、何度も触っている。
「すぐに短いのに慣れます。それに、洗うのが楽ですよ。」
自分の毛先を捻りながら言うれいに、土方さんが頷く。
「次は、誰ですか?」
「ああ、島田を呼んで来てくれ。」
「はい。」
土方さんの言葉に、斎藤さんが部屋を出て行く。
それを横目で見ながら、れいは土方さんの切り落とされた髪の毛を手で集めだす。
「箒、無いんですか?」
「いや、有ると思うが・・・。」
「後で、借りても良いですか?」
「ああ。」
大方を集めて手を払うと、土方さんを見つめる。
「やっぱり、顔色悪いですよ・・・。」
「遅くまで起きていたからな。」
「じゃ、朝食まで寝てください。」
「そんな暇はねぇ。」
「でも、髪が短くなったので、冷えます。風邪でもひいたら大変ですよ。いっぱい寝て、体力付けておかなきゃ。」
「風邪なんざ、ひかねぇよ。」
取り付く島も無い・・・。
れいは溜息を吐くと、肩を竦めた。
久しぶりに父に会ってから、思ったことだ。
土方さんは、父に似ているのだ・・・。
だから、思わず反発してしまいたくなる。
でも、父に似ているということは、自分とも似ている部分があるのだと言うことだ・・・・・・。
無理をしたがる性格が、手に取るように分かってしまう。
他人に言われても、聞き入れないだろう。
「じゃ、良いですけど・・・。無理しないで下さいね。新選組にも、斎藤さんにも、土方さんは必要なんですから・・・。」
そう呟くと、土方さんから溜息が聞こえてきた。
しばらくすると、斎藤さんが島田さんを伴って部屋に入ってきた。
すると、土方さんが部屋を出て行く。
また、部屋に篭って仕事なのだろう・・・。
れいはその後も、島田さんや他の幹部の髪を切り、間に朝食も昼食も挟んで、手が痛くなるほどに切った。
鋏が切れにくくなってくると、斎藤さんがすぐに研いでくれた。
良い研ぎ師が居たもんだ・・・と、感心しきりだ。
「れいちゃん、俺も切ってくれよ!」
永倉さんがそう言ってきたが、正直、永倉さんの髪は切る必要が無い。
「あの、永倉さんがこれ以上切ったら、五分刈りになっちゃいますよ・・・?」
そう告げると、寂しそうに諦めてくれた。
「んじゃ、次は俺な。」
永倉さんが退くと、原田さんが前に座ってきた。
原田さんの髪は、硬質で跳ねる。
何度も鋏から髪が逃げるので、少しずつ切らなければいけなかった。
疲れてきた手には非常に困難な髪で、それ故に燃える。
よく跳ねる髪を、あまり跳ねないような癖の部分で切ると、表面の髪は短くして、段をつけて、襟足はそんなに短くすることが出来なかったが、それが意外と原田さんに似合っていた。
「これで、どうですか?」
髪を手で揺らすと、中から毛が零れ落ちてくる。
原田さんが自分で頭を振って髪を振り落とすと、指で梳き始めた。
「何だか、あんまり変わんねぇな。」
「そうですか?前よりも良い男になってますよ。」
「そうだぞ。れいちゃんに切ってもらえるだけ、有り難いと思いやがれ!」
永倉さんが原田さんの肩に腕を乗せると、お腹を拳で押し始める。
「やめろよ新八、拗ねてんじゃねえよ!」
笑いながら立ち上がり、二人は礼を言って部屋を出て行った。
これで、後は斎藤さんだけになる。
斎藤さんが、れいを見つめて、持ったままの鋏を抜き取る。
「大分、疲れただろう・・・。」
「そうですね、手がちょっと痛いくらいです。普段は、鋏ばかりじゃないので・・・・・・。」
指を握ったり開いたりしながら解すのを見て、斎藤さんが手の平を優しく揉み解してくれる。
「でも、これからは洋装の人も増えるのかもしれないですね・・・。」
「れい?」
「なら、これは良い機会です。髪結いをして暮らしていくための良い経験をさせてもらっちゃいましたね。」
手の平への刺激を気持ちよさそうに受けているれいを見て、斎藤さんは少しだけ複雑な気分を味わった。






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