「あの・・・・・・。」
れいが斎藤さんを布団の中から見上げる。
「何だ?」
「あの・・・・・・、ごめんなさい・・・。」
れいの言葉に、斎藤さんが溜息を吐いて目を閉じる。
「何か、変な勘違いしちゃって・・・。」
「・・・本当だ。」
「ごめんなさい・・・。」
「お前より、先に死んだりしないと、約束した。」
その約束がなければ、本当に、自分が必要の無い世が来たら死んでしまうかもしれない・・・とふと思う。
そして、目を開いて布団に横になるれいを改めて見つめる。
布団からこっそりと手を出して、膝に触れてくるその手を握り締める。
「その約束・・・、まだ守ってくれるの?」
「当たり前だ。」
「・・・・・・有難う。」
れいが、手を握り返してくれる。
静かな時間が流れ始める。
こうして二人で居る時間が懐かしく、とても落ち着く。
この時間が、どれだけ自分にとって大事だったかがよく分かる。
仕事だけだった自分に、初めて仕事以外で生きていると実感させてくれた存在が、れいだった。
「れいは、今何をしている?」
傍に居て欲しいと言いたい。けれど、これから再び戦場へと身を投じるのだ。今言ったとしても、傍に居られるわけではない・・・。
そうして、結局は他愛の無い質問になってしまう。
「髪結い、してますよ。」
「どこで?」
「吉原です。」
「吉原・・・・・・。」
それで、原田さんと永倉さんが見つけてきたのか・・・と、二人の遊びに少し感謝してしまう。
「家は?」
「遊女屋に住み込みです。」
「遊女では・・・無いんだな・・・?」
「違います!」
握り締める手に爪を食い込ませて、れいが怒る。
その痛みすら、甘く胸に疼く。
「いっそ遊女なら、お前に文句を言われずに身請け出来るのに・・・。」
「文句って・・・。」
逃げ出した自分の一世一代の決意を、文句で済まされてれいは呆気にとられる。
布団から起き上がって、斎藤さんと目線を合わせる。
「私、逃げ出したんですよ?」
「ああ。」
「はじめさんとは、一緒になれないって、そう言ったんですよ?」
「ああ。」
「それを、文句って・・・・・・。」
「俺は、認めていない。」
「認めないと思ったから、逃げ出したんです。」
「逃げ出した位では、認められない。」
「はじめさんが認めなくても、良いんです。」
「良くない。」
斎藤さんが握っている手を引っ張り、れいを胸に抱きしめる。
「認めない。俺は、お前意外を娶る気は無い。」
「でも、それじゃ・・・。」
「お前が去っても、誰も娶らない。」
「はじめさん・・・。」
「俺は、そんな武士になりたかったんじゃない。真の武士になりたかった。誰よりも強い武士になりたかった。」
斎藤さんが言う言葉の、中身が知りたかった・・・。
れいは、意地悪だとは思うけれど、聞かずには居られなかった。
「はじめさんが思う、真の武士って・・・?人を斬るのが仕事だと言う人の真って、何ですか?その強さって、何ですか?腕っ節が強いだけで、真の武士って、言えるんですか?」
「れい・・・?」
「はじめさんは、確かに左利きでも誰よりも強い、誰にも文句を言われない武士になりました。でも、その強さだけが真では無いでしょう?」
斎藤さんがれいを見つめてくる。
口を挟めずに、戸惑いを見せる斎藤さんに、更に言い募る。
「人を斬って・・・、それで・・・・・・?その先にあるのは、何でしたか?」
「・・・。」
「私は、真の強さは心に表れるものだと思います。」
「れい・・・。」
「腕っ節が良いだけで、良い武士だとは言えないんですよ。そこに囚われていては駄目です。」
斎藤さんの胸から距離を置き、しっかりと目を見つめて言う。
「あなたが必要とされているのは、戦場だけでは無い筈です。そうですよね?この部屋にある書類の山は、そう言う事ですよね。それを、きちんとこなしている。それも強さです。そして、新選組が戦いに勝っても、負けても・・・、その後にも沢山の人があなたを必要とします。それだけのことを、ここで実績としてあげているんです。」
れいの言わんとしている事が分からなくて、斎藤さんの瞳が揺れる。
「真の武士ならば、人を斬らなくても役に立つことが出来るはずです。はじめさんが求める、本当に強い武士ならば・・・、刀が無くても戦えます。」
そこまで言うと、れいがふわりと笑った。
今まで見たどの笑顔よりも鮮烈で、強い笑顔だった。
「けれど、そこに私が居たら、戦うことも出来ずに放り出されてしまうんです。そんなのは、私が嫌なんです・・・。」
「れい・・・・・・。」
斎藤さんが見つめてくる。
言われた言葉を考え込んでいるようだ。
「人を斬るのが武士の仕事では無いんだと、思いたいんです・・・。斬った先で、誰かが助かっているんです。だから、武士の仕事は人を助ける事なんだと・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「そう、思っているんです、私は。・・・・・・なら、人を助ける方法は、何も斬る事だけでは無いですよね。」
それに・・・と、れいが更に続ける。
「武士は、「生き様」ですよね?」
「れい・・・!?」
ただ、驚いた。
自分よりも、よほど武士らしいとすら思った。
生き様だと言ってくれたれいすら、世間に囚われているなどと思っていた自分に恥じいる。
「難しい事は分からないです。でも、はじめさんと一緒に居て、思ったんです。はじめさんが求めている本当の強さって、心・・・なんじゃないかと・・・。」
斎藤さんが、れいの頬に手を当てて、ゆっくりと顔を近づけてくる。
拒まなければ・・・と思うのに、れいはその口付けを受け入れていた。
そっと、触れるだけの口づけの後、斎藤さんが微笑んでくれた。
「ならば・・・・・・、益々、お前を離せない。」
「はじめさん!?今の、聞いていました?」
「ああ、全部聞いた。」
「じゃ、理解してもらえなかったって事ですか?確かに、言葉が下手で、よく分からなかったと思いますけど・・・。」
「いや、よく分かった。」
「じゃ、何で・・・・・・?」
「真の武士ならば・・・、身分が武士じゃなくてもそう在れると、分かった。」
「え・・・?」
「そもそも、局長も副長も、今は武士だが元は武士では無い。それでも、元から心意気と生き様は立派な武士だ。ならば、俺も身分が武士ではなくなっても、立派に武士として在れるだろう・・・。」
「そ・・・、え、いや、駄目!駄目ですよ!?」
話が思わぬ方向へと流れて行き、れいは慌てて斎藤さんを止めるが、斎藤さんは首を振ってれいを抱きしめた。
「元より諦めるつもりは無い。が、お前を諦めるつもりも無い。お前を娶って、何か言われたら、武士の身分を失っても良いと、そう思った。」
「そんなぁ・・・。」
「心が武士である限り、武士なのだろう?」
斎藤さんが確認するように問いかけてくる。
れいは首を傾げながら頷き、何がどうしてこうなってしまったのかを考えてみるが、混乱した頭は何も答えを見つけられなかった。






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