「で、何でここで働いているんだ?」 「実家に帰ったんだろう?」 了承すると、原田さんと永倉さんから容赦なく質問が浴びせられる。 「実家に帰りましたよ。」 「実家から、ここに仕事に来ているのか?」 「う〜ん・・・・・・。」 れいが返答に困ると、永倉さんが頭を掻く。 「その返事だと、違うみたいだな。」 「何で実家に居なかったんだ?」 「実家に、私の居る場所が無いからです。元々、一時的に実家に帰っても、その後は京のように自分で店を営む予定でしたから。」 「じゃ、今はどこに居るんだ?」 「遊女屋で住み込みで働かせてもらっているんです。」 「どこだ?」 「その質問には答えられません。」 「何でだよ!」 「どうせ、斎藤さんに知らせたりするでしょう・・・?」 れいは、小さな声で呟いた。 原田さんと永倉さんが顔を見合わせて、眉を顰める。 「まぁ・・・、とにかく、何も言わずに去るのは良くないと思うぞ。」 「ああ。きちんと話してやればよかったんだよ。」 「話せないですよ。話したって、どうにもならないことですから・・・。」 「そりゃ、まぁ、そうだけどよ・・・。」 原田さんが言い難そうに頷くと、永倉さんが突然雄叫びを上げた。 「ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 「な、何!?」 「新八!?」 叫び終わり、永倉さんがれいの腰を掴むと肩に担ぎ上げた。 「ちょ、永倉さん!!?」 「俺はまどろっこしいのは苦手なんだよ!行くぞ!!」 「ど、どこに!?」 「斎藤のところだよ!」 「何で!!」 れいの手から転がり落ちた風呂敷を持ち上げ、原田さんが肩を竦めて永倉さんを呆れ顔で眺める。 何で直接斎藤さんと話さずに逃げ出したのか、それが分かる原田さんが、永倉さんの単純さに思わず笑い出した。 「全く、新八は良いな。」 「ん?何がだよ。」 「それが、一番の近道だってことだよ!」 永倉さんに担ぎ上げられたまま、れいは吉原の門を後にした。 門番に呼び止めてもらえないか少し期待したが、遊女ではない自分は、出入りが自由だ。呼び止められるわけが無い・・・。 「何で、永倉さんはそうやって人のことを持ち運ぶんですか!?」 「だって、れいちゃん軽いし。」 「軽くは無いですよ!」 「じゃ、小さいし。」 「・・・・・・。」 小さいし・・・と言う言葉には、確かに反論できないが・・・。 「そう言う事じゃなくて!駄目ですよ!斎藤さんには会いません!」 「何でだよ。会えば良いじゃねぇか。」 永倉さんは簡単に言うが、そう簡単に運ぶことでは無いのだ。逃げ出した時とは状況が違っている。 「会ったって、事実が変わるわけじゃねぇ。どうせどう頑張ったって、嫁げねぇんだろう?じゃ、きちんと話せばいいじゃねぇか。」 原田さんが意地悪く言う。 その言葉に、胸が詰まる・・・。 「きちんと話せば、斎藤だって分かってくれるって、どうして思わなかった?」 そう言われては、返す言葉が無い・・・。 全ては、自分勝手に進めた事で、斎藤さんの武士としての道に、自分が居てはいけないと、自分が決めたことだ。 そこに、確かに一切斎藤さんの意志は無い。 永倉さんの肩の上で、大股に歩く身体の揺れを感じながら、どんどん落ち込む。 「ちょっと・・・、待ってください・・・。」 「斎藤のことを考えてのことは分かるけどよぉ・・・、俺は、一緒に頑張るって道も有ったと思うけどよ・・・。」 「あの・・・、本当に・・・、降ろして・・・。」 二人の言葉に追い詰められていく。 そして、段々と気分が悪くなる・・・。 揺れが、悪阻を引き起こしているのだとは思うけれど、精神状態も物凄く影響している。 「降ろしたら、逃げるだろう?」 「・・・じゃ、ちょっと、優しく歩いて・・・・・・。」 「おい、新八、ちょっと待て。」 「あ?」 「大丈夫か、れいちゃん?」 原田さんが永倉さんから降ろしてくれる。 「大丈夫・・・。ちょっと、揺れに酔っちゃっただけ・・・。」 「お前が大股でガッポガッポ歩くから!」 「悪い、れいちゃん!」 「大丈夫、大丈夫・・・。」 手を緩く振って、原田さんの腕に縋りつく。 「やべぇ・・・。これは、斎藤には悪いが、なかなかグッと来る状況だぜ・・・。」 「何を馬鹿なことを・・・。」 原田さんの腕を、弱々しく叩く。 「ちょっと、我慢してくれ。もうすぐ着くからよ・・・。」 原田さんがれいを横抱きにして、揺れないように素早く歩いてくれる。 「すいません・・・。」 「いいってことよ。」 「でも、帰るから、降ろして・・・。」 未だに意地を張るれいに呆れつつ、永倉さんが大股でついてくる。 「そんな青い顔して、まだ言うか・・・。」 「だって・・・・・・、会っちゃったら・・・、私の決心が鈍っちゃう・・・。」 「れいちゃん?」 「なのに、斎藤さんが諦めついてて、私なんか要らないって・・・、なってたら・・・・・・。」 自分勝手なのは分かってる。分かってるけど、どうしようも出来ない怖さがある。 逃げ出したのは自分なのに、何を言っているんだか・・・・・・。 でも、もしそうなっていても・・・・・・、母になるんだもん。母になるんだから、強くなきゃ・・・・・・。 「大丈夫。何でもないです。それが望みですから。」 そう言い直すれいを見て、原田さんと永倉さんが顔を見合わせて頷く。
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