それからまた数日後、坂本竜馬暗殺事件が起きる。
そこに新選組が関わっているという噂が流れて数日たち、油小路で御陵衛士の伊東さんと数名、さらに藤堂さんが斬られた・・・と知った・・・。
藤堂さんは、御陵衛士として人生を全うしたのだと、彼は最後にどちらに残るかを決めたのだと・・・そう思ったのだけれど、悲しくて苦しくて涙が出た。
もっと早く、新選組に戻ってくれればと、そう思わないではいられなかった・・・・・・。
そして、そこに斎藤さんの名前が出てこないことを喜んだ。
きっと、新選組に戻ったのだ・・・・・・。
それからのれいは、少しずつ江戸へ帰る準備を始めていった。
島原に呼ばれて置屋に出向く時も、みんなに順々に別れの挨拶を済ませている。
一番お世話になった小雪太夫は、子供を生んですぐに、産後のひだちが悪くて亡くなってしまった。夏のことだった・・・。
お正月の三日間、あの時には既に妊娠していたと言う事だ。
子供は無事に、すくすくと育っている。
その、小さな子供にも挨拶をして、ギュッと抱きしめた。
「お母さん、本当にお世話になりました。」
「なんや、娘が去っていく思うと、涙が出るわ・・・。」
「やだ、泣かないで下さいよ。」
「れいさん、ほんまに江戸に帰らはるん?」
小雪太夫に代わり、太夫に昇格した美園さんが、れいの着物の袖を握り締める。
「はい。帰っちゃいます。」
「あの斎藤はんは・・・?どないなってるん?」
「斎藤さんは、お仕事ですよ。」
笑顔で片付ける。けれど、女とはこういうことに聡いものだ。
美園さんとお母さんに一気に睨まれる。
「あんたはん、斎藤はんに黙って帰るつもりやね?」
「どないしたん?何で離れたりしはるん?」
二人を誤魔化そうとしたけれど・・・・・・、何となく、真実を語ってしまっていた・・・。
「身分が・・・、違いますから・・・。恋仲にはなれても、その先を望まれたら、終わりなんです。」
「恋仲だけで、ええやないどすか!」
美園さんが眉を吊り上げて言うけれど、お母さんがれいの手を握って、優しく包んでくれる。
「あんたはんも、苦労性やねぇ。相手の男のために身を引くなんて、出来るもんやおへんえ。」
「お母ちゃん、何で恋仲のままやったらあかんのどす?」
「男は、結婚も出世の一つになり得るぅゆうことどす。」
「ほんで、何でれいさんが身を引かなあかんのどす?妾を囲うのも、武士やったら甲斐性の一つやあらへんの?」
「私が、未亡人だから・・・です。」
それを知っているお母さんが、頷いてれいの手を握り続けてくれる。
「もし、斎藤さんが来ることがあったら・・・。」
「黙っとくえ。それで、ほんまにええんやね?」
「はい。」
しっかりと頷くと、お母さんが手を放して、背中を力強く叩いてくれる。
「ほな、気をつけて帰りや!!」
「有難うございます。」
微笑んで、店のみんなに挨拶をして、元気に島原を後にした。
一つだけ頼みごとをして・・・。
家に着くと、そこには既に自分の荷物が風呂敷に包まれて準備されている。
それを持ち、家の中に向かって一礼をすると、毅然とした表情で外へと歩き出した。
冷たい冬の風が、頬に吹きつけてくる。
雪が降りそうだと・・・空を見上げてそう思った。
自分の心の中の涙は、とっくに凍り付いて雪となっているけれども・・・。





その数日後に、天満屋に滞在中の斎藤さんが何者かに襲われる事件が起きる。
斎藤さんは無事に事件を切り抜け、その後、新選組の屯所へと戻る。
新選組は、戦いの中へと身を投じて行くこととなる。
鳥羽伏見の戦いが始まるまで、あと少し・・・。
れいが居なくなったことを、斎藤さんはまだ知らない・・・・・・。






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