◆ それは反則
「彩花!ちょっと出るぞ!」
夕餉の後晋作さんが部屋に来てくつろいでいたわたしに告げる。
こんな時間にどこ行くんだろう?わたしの手を握り半ば強引に歩き出す。
裏口からこっそり行くってことは桂さんには秘密なのかな?
ニカッと笑い嬉しそうに手を引き、振り返ってわたしを見る晋作さん。わたしも思わず顔が綻ぶ。
外に出ると暑かった昼に比べて夜は心地よい風が吹き自然に気持ちも解放的になる。
夜に連れ出されるなんてどうしたんだろう?内緒の行動に冒険みたいでワクワクする。
「わぁ……!」
思わず感嘆の声がもれる。
晋作さんが連れてきてくれたのは大きな川の土手
向こうからは花火が上がっている。
人も沢山出ていて花火大会なのかな?
この時代の花火はわたしが知っているものとは違ってまっすぐにシュルっと伸びるものや、赤橙色の単色のものだ。
でも京の街に似合うとても風情のあるものだった。
花火が大好きなわたしはとっても嬉しかった。
「晋作さん!ありがとう」
「彩花に見せてやりたいと思ってな!未来にも花火はあるか?」
「あるよ!でももうちょっと色も沢山あって、形も丸だけじゃなくてハートとかピースマークとか猫とか…」
「はーと?ぴーすまーく?」
一生懸命説明すると「やっぱり未来は面白い!」といつもの太陽みたいな笑顔で笑ってくれた。
花火の光に照らされる晋作さんの笑顔がとても素敵で、つい見惚れてしまったわたしは慌てて花火のほうを見た。
どうしちゃったんだろう?わたし…?なんかおかしい…。胸がきゅんって締め付けられる…。
最近晋作さんを見ると感じるざわざわと落ちつかない気持ちがぶり返してくる。
最後に花火を見たのは京都の夏合宿前だった。
そう言えば彼氏が出来たら花火大会に行きたいな〜とか思ってたっけ…。
えっ?彼氏?…
急に意識し始めたら自然と顔が赤くなり俯いてしまう。
いつも冗談みたいに「オレの女だ!!」って言うから変に意識しちゃうんだ…。うん、きっとそう!
思考に陥ってると突然後ろからギュッと肩を抱かれる。
「彩花疲れただろう。俺に寄りかかれ!」
わたしの体の重心が後ろにいる晋作さんにかかるようにグッと引かれる。
「…!!」
わたしの髪が晋作さんの腕に絡まり心臓が壊れてしまいそうなほど鳴り響く。
夜で良かったなんて思う位真っ赤になって、くっついてしまっている背中からわたしの鼓動が伝わるんじゃないかと更にドキドキする。
いつもふざけてされてることなのに…わたし…
わたしのつむじの上に軽く顎を乗せる晋作さんの顔をちろりと見上げる。
「どうした?彩花、オレに惚れたか?」
そのままの体制でいつもと違って耳元で甘く静かに囁かれる。
いつものセリフなのに…
優しい包み込むような笑顔もいつもと違うから
「惚れてません!」っていつものように返すことが出来なくて…
その笑顔は反則――
体重を預けたまま、わたしの顎の下で組まれた晋作さんの逞しい腕にそっと手を添えた。
ドン!!
と一際大きな音がして大きな大きな花火が打ち上がる。
(晋作さん…わたし晋作さんのこと…)
パチパチパチパチと火の粉が舞い落ちる―
わぁと見物人から歓声があがる。
いつもより騒ぐ心臓の音は花火のせいか、気が付いたあなたへの想いのためか。
同じ時間に同じ場所で同じ物を見る喜びを
ふわりと頬を撫でる心地よい夜風と共に
今日だけはおとなしく晋作さんの腕の中―
了
――――――――(あとがき)
晋作’s Bar企画提出作品です。
素敵なお店です!ぜひ皆さんお出かけあれ♪
(2011.6.14 執筆)
[ 30/75 ]
[mokuji]