04 整形外科へどうぞ

「うーん、やっぱりヘルニアじゃなさそうだなっ」

再び呼ばれて整形外科の診察室。レントゲン室から届いた写真を見ながら高杉先生は告げる。


『ヘルニア?』

「おお、ヘルニアってのは簡単に言うとだな。
背骨の骨と骨の間の軟骨が潰れて、
中の髄核が飛び出しちゃっうんだ。それが神経を押して、強い痛みになるっ!
レントゲン見ても、綺麗だからまあ、いわゆるぎっくり腰だっ!」

オレが説明すると、痛みからか涙目でこちらを見上げる。
そんな潤んだ大きな瞳で見つめられたらドキリとする。

「今日は少し電気あててくか。あと、湿布薬と痛み止めだしておくから、ま、様子見て駄目そうならまた来い!」

普段患者には個人的な気持ちはおきないのにな。
今日のオレはなんだか変だ。
あの腰の一撃が聞いたか?
若い女の患者が珍しいからか?
診察室からひょこひょこ出て行く後ろ姿をじっと見据えた。





しかし、高杉さんて患者さんに好かれているんだなー。
年配の人が多いみたいだけど、待合いに居る時、みんな暗い顔で入っていくのに、出てくるときは笑顔だもんな。
会う人を笑顔にできる人って凄い。
パワーをわけてもらえる、みたいな?
まあ、勢い良過ぎて逆に吸い取られる感も若干しないではないが…



隣のリハビリ室みたいなのに入って診察台に横になる。
看護師さんに腰に器具をつけてもらって上から薄いタオルケットを掛けられた。


「ブザーが鳴ったら終わりです。それまで楽にしていてください。
熱すぎる場合は声をお掛けください」


看護師さんがスイッチを押す。

おお!なんかビリビリくるよ。
低周波?なんだこりゃ?
それにホンワカ暖かで気持ちがいい〜
クッションも分厚くて柔らかくて…
ふへ〜力が抜ける〜〜
気持ちぇぇ

天国?
ここは天国なのかっ?

やばい睡魔が…





「高杉先生、ちょっといいかい?」

「おう!小五郎!午前の診察が終わったとこだ。メシでも食いにいこうぜっ」

「何度も言っているが、診察時間は桂と呼びなさい。まだ患者さんがいるだろう」

「堅いこと言うなっ!あとは電気やってる奴だけだ。なんだ?来週のオペの話か?」


オレはバンバンと小五郎の肩を叩きながら、ちらりとリハビリ室の方を見る。

ぷっ、なんだアイツ幸せそうな顔して、可愛い顔だな。
見てるこっちまで幸せになりそうだ。
ふと小五郎の顔に視線を戻すと、小五郎はアイツをじっと凝視している。


「…小五郎?どうした?」

ハッとした顔をして、いつもの澄ました顔に戻った。

「いや、すまない。…ここからは良く見えないが知り合いに似ていた気がして」

小五郎の割には歯切れが悪く、いささかバツが悪そうだった。
他の奴には普段と変わらないように見えるだろうが、長いつきあいのオレにはわかる。
何か隠してるな?

「ほう、若い女の知り合いがお前にいるとはな」

オレはニヤリと笑って小五郎の肩に手をまわした。
オレの思惑を悟ったように、今度は露骨にイヤな顔をする。
ますます、これはじっくり聞き出さないとな。


「取りあえずメシだ!」

「その前にオペの打ち合わせだよ」

オレの心に引っかかる女。
小五郎の知り合いか?
コイツのこんな落ち着きをなくした様子は初めてだ。
澄ましているがオレの目は誤魔化せないぞ。
些か複雑な心境が掠める。





ピンパロパロピンポンポン〜♪


はっ!!
ここはどこ?
私は誰?


私はナマエ
あ、病院か…。

あまりの気持ち良さに熟睡しちまった。





やべ、ヨダレが、ジュルっ





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