01 始まりは雨

それは、雨だった……。


ついてない。
本当についてない。
ってバス乗り間違えた私が悪いんだけどね。

127系統の大学行きのバスと53系統の団地行きのバスを乗り間違えて、団地方面にバスが曲がり始めた途端気がついた私は慌ててバスを飛び降りた。

そこは大きな市民公園で、回りにはコンビニすらない。
しょうがないから、ひとつ前のバス停まで歩いて戻り、ベンチに座って次のバスを待つ。
寝坊した中途半端な時間だから、バス停には誰もいない。

ってか人家もあんまりないトコだからね。
はやくバスこないかな〜

足をぶらつかせて暇を持て余していると
バス停にある軒に誰か走り込んで来た。

あー急な雨だもんね。
ん?何、この人?///色っぺ〜〜

なんか、無駄に色気のある長身の人が雨を避けるために入ってきた。






業務に明け暮れふと空いた時間。
気晴らしに散歩をしていたら、突然の雨。
仕方なくバス停の軒下に避難したら先客がいた。

長い亜麻色の髪をしたどこか儚気な少女。
(ただ眠いだけ)
何かを見据えるようにわたしのことをじっと見つめる。
こんな時間に一人…こんな場所に不似合いな若い娘さん。
その澄んだ瞳に心臓がどきりと脈打った。






紫がかった髪から雨の雫がしたたり落ちてるよっ!
濡れて先の細くなった髪の束が尖っていて綺麗〜。
モデルさんみたい。
切れ長の目には睫毛ばちばちの美人さん。
伏し目がちにハンカチで服の雫を払う姿も様になってる。

いや〜バス乗り間違えたせいでいいもん見れた。
それにしても
あの人男かな?いや女?
う〜ん、な・ぞ・

男のシンボル喉仏は…。髪がかかってよくみえないな〜
んじゃ、股間は…う〜ん。ズボンのシワのような、そうでないような…。
なんでもないのに男だからってモッコリしてるわけないか。
ナマエのお馬鹿さんっ☆
どちらにしろ、ここからじゃよくわからん。

ふと視線を上げるとバチリ目があった!

やべ、股間凝視してたのバレた?
変態かと思われたかも?いや、否定はしないが…

慌ててブンって音がするぐらい頭を降って目をそらした。
どうしよう?視線を感じる…。

すみません。まだ触ってませんから






わたしと視線があった途端、真っ赤な顔で俯く彼女。
ふふ、今時目があったぐらいで赤くなるなんて純情な……
この先にある蒼凛大の学生さんかな?


静かな雨音が音楽を奏でているようだ。
パラパラと降る音が二人を包む。
まるで世界に二人きりのような感覚。
何故だか心惹かれ、彼女をいつまでも見ていたくて目が離せなかった。






どうしよ〜?まだ見てるよ。

チョーきまずい…バス待ってる感じじゃないし、はやく行ってくれないかな〜。そっか雨のせいか…雨宿りしてるんだよね。

あ、そうだ。


『あの、これ…よかったら使ってください』

「えっ?」

差し出されたのは一本の傘。

「でも、君は…」

『わたしは折りたたみもあるので』

そう言って立ち上がりわたしの手に傘をかけた。

「いや、でも…」

ブルルルルッ

せっかく彼女と話をしていたのに無情にもバスがやって来た。やっと聞けた可愛らしい声をもっと聞いていたいのに。





おお!神の助けバスが来た!
取りあえず引っ込みつかない傘を押しつけバスに乗り込もうとした。

「待って。君は…いや、傘はどうやって返せば」

『差し上げます。ニッコリ(股間を凝視したお詫びに)』

昨日駅前の飲み屋でもらった『酔い処!寺田屋』とデカデカと書かれたビニール傘だし
むしろ捨てたかったし。
分解して資源ゴミに出すの面倒だったし


ひえ〜バスに乗ってもこっちを見てるよ。

ビシバシ視線を感じる。
顔を覚えて「コイツ変態です」って通報するつもりじゃ…

前科のないが唯一の取り柄なのに、それさえも私から奪うつもりか。
し、視線が痛い。すみません、ナマエが悪かったですぅ。

つい間がもてなくて思わず手を振った。

ま、この辺うろつくことないから、もう二度と会うことないと思うけどね。




また意外な場所で会うことになるとはこの時のわたしは露とも思わずに。


しかし、結局声からいって男だったのかな?
ま、い〜や






最後にバスの中からニコリと笑い手を振ってくれた。
もう一度…会えないかな。
団地行きのバスか、団地に住んでいる子なのかな?

心に芽生えた何かを抱きながらバスを見送った。





(ぎゃあ〜、曲がる〜!!またバス乗り間違えた!!)




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