12 モーセ来たる!弐の巻

いま、
私はモーセに連れられた約束の地イスラエルを目指すヘブライの民…


自然に開く人波の中を落ち着かない足取りで歩く。

会話に花を咲かせる人達も、文化祭を楽しむ人達も、その中の一人がこちらに気付くと一緒にいる人も視線を追うようにこちらを見て、皆同じように道を開けていく。
頬を染めて眺めている人もいるよ。


マジ、視線とざわめきが、突き刺さる。





桂先生と高杉先生を両脇にサンドされて歩くワタシ。

もはや海を渡るヘブライの民と言うより捕獲された珍獣?
いや、連れられた宇宙人?
あの捕らえられた宇宙人の写真のように皆には見えているであろう。


目立つ二人はそんな周囲に気にすることもなく。
色々と話かけてくる。
けど、私は落ち着かなくて、全然耳に入らない。

きっと二人とも騒がれるのに慣れてるのね。


「ナマエ!この占いの館ってなんだ?
おっ!あれ旨そうだぞ」
「ナマエさんあそこのベンチに座ろうか」

『えっ?あの、はい、え〜と』

彷徨頭をなんとか現実に引き戻した瞬間、同時に声をかけられキョドル私。

「せっかく来たんだ。全部回るぞ!」

「晋作、落ち着きなさい。ナマエさんは今まで立ち仕事をしていたんだ。少し休ませてあげないと」

「む!そうか。ならナマエはそこのベンチに座れ。オレは何か飲み物買ってくる」

何がいい?って聞いた途端高杉先生は走り去った。
桂先生と二人ベンチに腰掛けた。

ふ〜海は無事に渡りきれたのだろうか。

「ナマエさん?」

『あっ、えと、その
高杉先生って…元気ですね』

「今日は一段と張り切ってるね。ふふナマエさんと一緒だからかな?」

『えっ』

急に言われてじわりと頬が熱くなる。リップサービスなのはわかるがあまり言われ慣れてないので…
大人はズルイ。


「…それより腰は大丈夫かい?痛みがあるようだけど」

『桂先生、気付いてたんですか?』

桂先生は何も言わずニコリと優しく微笑む。

はぁ〜至近距離で見ると一層色っぽい///
顔にかかる前髪を揺らしながら控え目に微笑む様はプライスレス!!

私のエア鼻血が噴射した。


そう、実は朝から腰の調子が悪かった。
一度痛めた腰は時おり違和感があって今日は密かに腰を固定するコルセットも着けている。

ただでさえ出店は人不足だし、それに間近に控えた大会のメンバーから外されたくなくて部活の仲間には腰の不調を隠していた。

カナちゃんでさえ気が付かなかったのに、さすがお医者さま!
あ、高杉先生も気が付いてない。
主治医のくせにー


「無理はしてはいけないよ。今日はもう休んでいなさい。
それに…腰は冷やさないほうが」

チロリと私のミニスカートに視線が落ちる。

『はは、似合わないですよね。あんまりミニとか履かないから』

無駄な抵抗なのに裾を下に引っぱりながら答える。

「よく似合ってるよ」

『!!〜///』

ぐはっ!魔性の微笑み。

桂先生ショップのカリスマ店員になれるよ。
「似合ってるよ(キラーン)」の一言でみんな店中の物買い占めていくってっ!!

『あああありがとうござる』

って私何噛んでるのっ!!





朝、晋作から急に電話があり「暇だろ」と無理やり呼び出された。

前に彼女のことは何でもないと言うのにしつこく聞き出され、粗方顛末を話しその時はそれで終わったのだが。


正直参った。


大学の文化祭なんて何年ぶりか、自分の大学の時にすらまともに参加しなかったのに。

文化祭という特別な日のせいか妙に浮き足立ち、熱気と若さに満ちあふれた空間。
自分のような存在が浮かないか、邪魔になりはしないかと落ち着けないなか、晋作に促されるように彼女の働くところにやってきた。

髪をあげ白いうなじを晒してくるくると忙しいそうに働く姿に目を奪われた。

すらりと惜し気もなく長い足をさらした可愛いらしい格好に鼓動が熱くなる。

さりげなく様子を伺うと時折腰を擦る仕草。
晋作には聞いていたが痛むのではないだろうか。

それを気付かれまいと笑顔で振る舞う健気な姿にいい知れぬ思いが沸き起こる。

…この気持ちは一体何だろう。

もっと
彼女のことが知りたい。







オレは渋る小五郎を強引に連れてきた。

気持ちがわからなければ確かめればいい。

飲み物を買うと言って二人きりにした。
そっと植え込みから様子を伺う。

小五郎の表情にオレは核心した。
ただの興味からだったがここはオレが一肌脱ぐか。

「しかし小五郎のやつは鈍感だからな…」

「わたしは高杉先生を応援します」

「ぬわっ!オレの背後をとるな!…お前はナマエの友達の」

「カナです。いいんですか?高杉先生!取られちゃいますよっ」

「う、オ、オレは別にその、まだ…」

「いいんですよ!人を愛するのに男だって、女だって関係ありませんからっ。むしろ応援します。お似合いです!男同士の恋素敵です。
あ、報告は義務で…」

「お前…何言ってんだ…」
「え?違うんですか」

「……(コイツまさか)」

「……(違うの?つまらん)」

「ナマエと小五郎だ!!」

「あーそっち。ってええっ!!
桂先生が…?
ナマエは可愛いけど天然だからな〜(オマケに変態)。今までアプローチしても気付いてもらえず何人の男が泣いたか」

「小五郎もな、今まで来るもの拒まず去るもの追わずだからな」

「///それって男女問わず!?ね、男も?男も?」

「お前その思考やめろ!」
「ちっ、ケチ」


植え込みから二人の様子を見るになかなかイイ雰囲気のようだ。

せっかく知り合いになれたんだから連絡先ぐらい聞けと
さっき耳打ちしてせっついてはみたが…

普段なら事もなげに連絡先ぐらい聞きだすヤツだが。


あんな小五郎初めてだ。



あの鈍感石頭をどうするか…







(ぷぎゃ〜!マジ本物の鼻血出て来たっ!)






[ 12/12 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]







top

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -