11 モーセ来たる!壱の巻
『カナちゃん可愛い〜///写メ撮らせて〜』
「ナマエ、ちょっとこっち来て。髪の毛やってあげるから」
カナちゃんに強引に座らされてサイドアップテールにしてもらう。
相変わらず器用だねー。
私は自分の髪でさえも上手くまとめられないのに…
普段はおろしっばなしで櫛入れただけの私の髪がカナちゃんの手によって揺れる。
時々、見るに見かねたカナちゃんがこうして髪を結わえてくれる。
そうだよね。この格好でザンバラ頭じゃあんまりだもんね。
『カナちゃん写メ〜』
「じゃあ一緒に撮ってもらぉ」
『うん!』
カナちゃんは
セパレートの浴衣で襟部分にはレースが見える。
スカート部分はミニでパニエボリュームたっぷり。裾からもレースがチラリと覗き…
所謂ゴスロリチックな浴衣。
かわゆす//
思わずハァハァしちゃうよ。
私も同じ格好してるんだけどね…。格好は…
今日は蒼凛祭当日!
私たちはコスプレまがいの出立ちで剣道部のお汁粉屋の給仕だ。
メイドって柄じゃないし…
しかしなぜ女子だけこんなミニ!
カナちゃんが変な男に絡まれたらどうすんだ。
私にだけ見せるのはいいけど。
むしろ私だけにしてくれ。
だって男子は普通に胴着に袴。
見慣れない人から見たらあれも衣装になるのかな?
私も普通に胴着が良かったよ…。
お店は結構繁盛していた。
なんだかんだ人が沢山やってきて、右から左に忙しく働く。
文化祭ってこんなに大変だったけ?某コーヒーショップのバイトもこんなに大変じゃなかったよ。
でもあとちょっとで交代だ。も少し頑張ろー。
とその時―
ん?
何やらざわざわとしているような…
何かあったのかな?
なんとなく浮き足だったような雰囲気でざわついている。
その雰囲気が特にする入口のほうを気になって見ると――
「おおっ!ナマエやってるな!」
『た、高杉先生っ!』
ざわめきがモーセの『十戒』の映画ように道をあけ、その真ん中で高杉先生が弾けんばかりの眩しい笑顔で登場した。
下界で見るとイケメンっぷりが更に良くわかるよ。
みんなが遠巻きに騒ぐのも納得。
『わざわざ来てくれたんですか?』
「おう!今日は祭日で非番だからな。賑わってるな〜」
ええ高杉先生の半径3M以内は特に…。
高杉先生がキョロキョロ見回す。
あれから一度だけ腰を診てもらいに高杉先生にかかった。
その時文化祭の日にちを聞かれて遊びに行くと言われたけど。
社交辞令だとばかり思ってた。
まさか本当に来るとは。
「それよりなんだ、その格好は!」
『出店の衣装ですが…』
ぐっと高杉先生に睨まれる。
眼力強すぎです。
何か変かな?
思わず身構えていると
「可愛いなっ!オレの嫁に…
『なりません!冗談は服だけにしてください』
――その時
「晋作!一人で先に行くなと何度も……」
またもややざわめきを引きつれて、高杉先生の後ろから長身のイケメンがやって来た。
「…ん?」
『…あ』
「…お?」
『…えっ?』
「小五郎!来たか。」
私と長身のイケメンさんのやや意味不明な言葉のやり取りは高杉先生の声で遮られた。
こっここここの人…!!
(注:ナマエはニワトリになったわけではありません)
「やっぱりコイツだったか!小五郎、お前の…」
「んん!…晋作、お店の中で騒いではご迷惑だ。とにかく席に座ろう」
高杉先生が連れて来た人は以前バス停で見かけた濡れた人だった。
(あ、表現に語弊が…)
男だったんだ…///
つい、反射的にチラリとまたもや股間に視線を落としてしまう。
って!もしや私を通報しに来たんじゃ―
…ヤバイ熱出そう。
『い、いらっしゃいませっ。高杉先生、来てくれてありがとうございます。
…お、お友達の方ですか?』
気を取り直して、改めてメニューを出しながらひきつり笑いと共に取り敢えず下手に出てみる。
「桂小五郎だ!同じ幕恋病院の医師だ」
バンバンと前に座る桂先生(?)…の肩を叩きながら高杉先生が豪快に話す。
この人も幕恋病院の…本当にイケメン病院だぁ〜
高杉先生といい、イケメンな上に医者なんて、天は与えるトコには大放出なのね。
私にも一個でいいからくれっ。
「この前は傘をありがとう。ここの学生さんだったんだね」
いきなり話の核心からかっ!
『あ、あの時はすみませんでしたっっ!!(そして危うく今も///)』
だから許して〜〜
身バレしたなら逃げ場はない。頭を膝にぶつけそうな勢いで謝った。
「え?なんのことだい?」
…あ、あれ?
恐る恐る頭をあげると
にこりと優しい眼差しで微笑む桂先生。
「なんだ!小五郎コイツに何かしたのかっ!オレは聞いてないぞっ」
『何もしてません!(桂先生は)
その、私の勘違いみたいで…』
高杉先生…ややこしいから話に入ってこないで。
とにかく私の変態行為は気付かれてなかったってことかな?良かった〜(触らなくて)。
そのまま適当に誤魔化した。
『お待たせしました』
注文された品を運んでいくと高杉先生が看板を指先して
「ナマエ、お前剣道部だったんだな」
『この前診察の時にも言いましたが…』
「そうか!小五郎も剣道やってたんだぞ」
『えっ?』
「ああ、以前少しね」
「なにが少しだ!インターハイ、インカレにも出た強者だぞ」
「昔の話だよ」
『凄い!強いんですね』
こんなに細くて物腰柔らかで女性に見間違えるほどの容姿なのに!
『今度ぜひお手合せお願いします!』
強い者への闘争欲が駆り立てられる。
「最近きちんと練習してないけど、私でよければ喜んで」
『やった〜!約束ですよ』
俄然やる気出てきた。
桂先生いい人〜。
私は昔から強い人と手合わせするのが好きだ。
強い人に挑んでいく緊張感がたまらない。
「何が最近練習してないだ。素振りはお前の朝の日課だろ」
「素振りだけだよ」
『でも続けるって偉いです!』
桂先生は困ったような顔して控え目に言った。
「一度身につけたものを己の怠慢で錆びさせてしまうのは忍びなくてね」
桂先生って真面目だなー。
ストイックな感じだもんね。
「ナマエ〜。交代の時間だよ」
カナちゃんが二人と話している私に声をかける。
「それじゃ、オレたちもそろそろ」
立ち上がったところで、高杉先生が肘を桂先生の肩にかけて何か耳打ちしてる。
途端に顔を赤くして高杉先生を見据える桂先生。
ほわ〜絵になる二人だねー。
ハッ!もしやカナちゃんっ!
…やっぱり
横にいるカナちゃんを見れば二人を見つめ、瞳をキラッキラッさせて熱いため息一つ。
腐女子カナの餌食だな。
かんぜんに
「(コッソリ)ナマエ、あの二人どんな関係」
『(コッソリ)病院の同僚で、んー…それ以上?』
休みの日に一緒に近所の大学の文化祭に来るぐらいだからな〜
「///っそれ以上っ!
ナマエお二人を案内してあげなさい。休憩時間でしょ(そして後で報告頼む)」
『え、でも…』
「そうか!よろしく頼む!」
ニコニコ笑顔の(腐)カナちゃんと(無邪気)高杉先生に挟まれ私は「ハイ」としか答えられなかった。
[ 11/12 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
top