10 売店

「土方さん!」
『……!!!』


抹茶兄さん(面倒なのでプリンは略)の肩越しに見えるは、立派な眉を釣り上げ眉間に縦皺を寄せた鬼…。
それは

さ、産婦人科のフェロモン先生!

ひじかた?土方先生って言うんだ。


「なんだよ、土方さん。取ってねぇよっ!
なぁ?」

抹茶兄さんにやんちゃそうな笑顔を向けられ、こくこくと頷く。

ヤバイ……土方先生、私の顔覚えてるかな…
この前診察途中に逃げ出したの私だと覚えてたらどうしよう。
イヤな汗が背中を伝う。


なるべく見られないように、コソコソと抹茶兄さんの影に隠れる。


「んん?おめぇはどっかで見た…」


不自然に顔を背けたけど、その眼力が顔に刺さる…

まるで視線の矢印が頬に食い込むようですぅ〜

い、痛いです。土方フェロモン先生…


「思い出した。この前のトンズラ娘だな」

『…ハハハ、その節はどーも』

「おめぇ、なんで逃げた」

『う゛…』

孕ませられそうだったから…
じゃなくて単になけなしの私の恥じらいが…


「知らねぇ男に股開くのが嫌だったか?
こちとら毎日何十人って診てるんだ。
気にすることねえよ。
医者なんかかぼちゃがキャベツぐらいに思っとけ」

かぼちゃ、キャベツ
股って…おいおい。
アンタこそ患者様にその言い方

私だってお医者さんが土方先生みたいな男性フェロモン撒き散らしたような男前じゃなければ、頑張って耐えたよっ。

………
…うう
やっぱり
誰であってもアレはちょっと
無理だった、かな…



何も言えず俯く私に、優しく声色が変化した。

「で、大丈夫か?」

『え?』

「具合だよ。エコーでは何ともなかったが、その後痛みはねぇのか?」

『あっ、は、はい。あれから痛みはありません。』

「そうか、そいつは良かった。また痛みがあったら恥ずかしがらずに何時でもこい。
若いからって婦人病を舐めんなよ」

『わ、わかりました。ありがとうございます。
…それとこの前はすみませんでした』

やっぱり心配してくれてたんだ。悪いことしちゃったよ。
少ししょんぼりして答えると、頭を撫でられた。
武骨な感じの大きな手。ちょっと荒っぽく撫でる掌は温かで優しい。



「はぁぁ〜。土方さんはいーよなー。
こんな可愛い子と知り合えてさ」

抹茶兄さん!存在忘れてた…ごめん。
けど可愛いって///
もしかして私のことか?
眼科の受診を全力でオススメするよ。

恥ずかしくて顔がカアッーと熱を持つ。



「くすっ。平助くんは男の下半身専門だもんね」

急に割り込んできた楽しげな声に横を向けば今度は澄んだ碧色の瞳。

『沖田さん!』
「うるせぇ総司!誤解招くようなこと言うな」

「またお会いしましたねナマエさん。覚えてくれていて嬉しいな。
土方さんや平助くんと知り合いなの?」

抹茶兄さんの怒りに全く取り合わず、沖田さんが飄々と尋ねてくる。

『知り合い…というか、何と言うか』

そ、それより男の下半身専門って…もしかして抹茶兄さんそっち系///



「なんだっ。その期待した目は!
(ハイすみません…)
オレは藤堂平助。泌尿器科の医者だ。ナマエって言うのか。よろしくな」

『ミョウジです。ミョウジナマエです。よろしくお願いします』

「おう!よろしくな。
総司!確かに男の患者さんが多いが女性だって沢山くるんだぞ。
…そりゃ、産婦人科に比べりゃ年配の人が多いがな…
どっちにしろ大切な器官だろっ!」

抹茶兄さん…じゃなくて藤堂先生の優しい笑顔とムキになる顔。
コロコロ変わる豊かな表情から目が離せなくなってしまった。

「それより、総司と知り合いか?」

『この前ちょっと…沖田さんは皆さんとは』

「コイツはうちの病院の小児科の医者だよ。
今は足やっちまって入院中だけどな…って総司!
何オレの抹茶プリン食ってんだよっ。それはナマエにやろうと思ったのに」

『えっ』

「いや、だって食ったことねぇって言うからさ、この旨さを教えてやろうと思って…」

藤堂先生は照れたように頬を染め、視線をあらぬ方向に向けながら呟く。


なんだ?この照れ具合に、この誤魔化しかた…
ぐぐぐぐっ!

何?この可愛い生き物///
持ち帰りてぇぇ


「そうなんだ。平助くんずっと手に持ったままだからさ。
じゃあナマエさん、あ〜ん」

口の前に沖田さんから差し出されるスプーン。

え、食べろってこと?
そこまで美味しいプリンなの?

沖田さんの笑みを携えた深い眼差しから目を逸らせない…
で、でもでも…///
まだよく知らない殿方だし//
いきなり「あ〜ん」はその…



パクリっ

「平助くん……なんでキミが食べるの」

「もともと、オレんだろっ。
それにナマエが困ってるじゃないか!」

「ナマエさんに食べさせたいって言ったのは平助くんじゃないか」

「うるせぇ!!」

バシッ、バシッ。
「…っ」
「いてっ」

冷たい微笑みで淡々と話す沖田さんと真っ赤な顔で怒る藤堂先生の頭を土方先生がはたいた。

鬼の形相再来。


「売店で騒ぐなっ!
それにまだ金払ってないだろ。
平助はいつまで油売ってやがる。早く戻れ。
総司はふらふらしてねぇでちっとはベッドで休んでろ、治るもんも治んねぇぞ!」


「おぅ!そうだった。
また師長に叱られる。ナマエ!またな。今度会ったら抹茶プリン食わせてやるからな」

「はーい。わかりました。ベッドに苔生やしてます。
じゃあね。ナマエさん。
あっ、平助くんプリン代は払っておいてね」

「なんでだよっ!お前が食ったんだろ」

「やだなー。平助くんも食べたじゃない」

「一口だけだろっ」

うるせぇっ!
二人ともとっとと行け!」

土方先生が拳を振り上げた途端。蜘蛛の子を散らすように沖田さんと藤堂先生は去っていった。


『仲いいんですね』

じゃれあう姿が微笑ましいよ。

「まあな、アイツらは大学からの後輩だからな」

ちょっと照れて頭をガシガシかく土方先生。
世話焼くのも楽しいんだろうなー。
そんな三人におもわず頬がゆるむ。

腐女子カナちゃんにも見せてあげたかったよ。




そこに売店のおばちゃんが一言。

「土方先生。プリン代」


「ぐ、あいつらっ〜〜」







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