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「はあ……」
ジェイクィズ・バートガルは憂鬱だった。
せっかくの休暇中、突如ジブリール局長から連絡が入ったのだ。
「休暇中に申し訳ないねぇ。でも人手が足りないから任務だよ(はぁと)」
と、通信が飛んできた時にはさすがに殺意を覚えた。まったくあいつはトンデモない上司だ。いくらオレ様が強くて頼りになるからといって、働かせ過ぎではあるまいか。
まあ、そこまではまだいい。ここじゃよくあることだ。問題はその次である。
「今回は隊長と一緒に悪魔調査だよ! やったね楽しげ!」
と本当に楽しそうに言ってくる局長はとりあえずいっぺん死んでくればいいと思う。
ジェイクィズは彼が苦手なのだ。局長はそれを知ってるくせに、こうやって組ませてくる。本当に勘弁して欲しい。
そう、あいつ。サキ・スタイナーだ。
去年隊長に就任したばかりの子供。確か年は今年で十四だったと記憶している。とにかく可愛げのないガキだ。子供らしさのカケラもない。(逆にあったらあったで死ぬほど嫌だが)
ジェイクィズは子供が苦手だが、子供らしくない子供もまた苦手だった。サキ・スタイナーとまともに顔を合わせたことはないし、言葉を交わしたのも数えるほどあるかすら危ういのだが、時折見る彼の瞳がとにかく苦手だった。
あの色素の薄い瞳は、川のようだ。透明で、澄んでいるが、その奥では底が深く、激しい流れがある。傍からではその深さも、流れの激しさも、知ることが出来ない。そんな得体の知れないものなのだ。
任務相手が女の子だったらよかったのに、とジェイクィズは心の中で何度も何度も何度も叫んでいた。
それに、今回の休暇も決して前向きなものではなかったのだから、余計に気分が沈むというもの。
手が空いているもっと暇そうなのを捕まえればいいのに。例えばこの間入ってきたエグナーとかいう奴。いかにも真面目そうだし、喜んで仕事を引き受けるだろう。
「なんでオレなんだよ……」
「局長が選んだからだろう」
不意に、背後から声。聞き覚えのある子供の、少年の声だった。驚いて振り返ると、いけ好かない顔が見上げていた。
案の定、例のガキだった。射抜くような蒼灰色の瞳がふたつ。頭一つ分下からこちらに向けられている。
ぴんと伸びた背筋に、皺ひとつないオリーブ色の制服をきっちりと着込み、左腕には赤い腕章が通されている。隊長の証だ。黒い硬そうな長髪は頭頂より少し低い高さで縛りあげてある。年齢の割に少々小柄な少年のその姿は、歳不相応な役割を課せられているとは微塵も感じさせない堂々としたものだった。
「なんだ、隊長ッスか……ビックリさせないでくださいよ」
「悪かったな」
「ええ。悪いです。害悪です」
どこまでも直球に悪態を吐いても、サキ・スタイナーは顔色ひとつ変えない。それにさらに苛立ちを募らせつつ、「何かオレにご用で?」と尋ねた。
「そこに立っていられると、邪魔なんだが」
彼が指したのは、局長室のプレートが掛かった扉だった。扉の左右に置かれている試験管のような形の培養槽には、目玉の大きなオタマジャクシのような生物が数匹泳いでいる。扉の奥からは怪しげな臭いが漏れ出ており、色で例えるならば紫色をしていそうだ。