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 身体が重い。そう感じてうっすらと浮上する意識が、その重さのほうへと手を伸ばす。にゃあ、と不服そうな鳴き声。そいつは、いつの間にか俺の腹の上で寝ていたらしい。

「おはよう。お前の寝床はあっちに用意してたろ」

 猫――名前はつけていないがオスであるため、彼と言っておく――はまだ眠そうにゴロゴロと俺のベッドに転がっている。怪我をしていたから拾って世話をしている野良猫だ。

「ほら、退かないと飯抜くぞ」

 そう呟くと、彼はピンと耳を立ててそそくさと寝室を出る。えらく物分りのいい奴だ。
 俺はやれやれと肩を竦めながら、上体を起こしてカーテンを引いて窓を開ける。
 清々しい朝だ。冬の冷たい空気を肺いっぱいに吸い込む。
 こうすると頭が冴えていくようで、俺はその感覚が嫌いじゃない。一回、二回、三回と繰り返して、ベッドからすっくと立ち上がった。軽く肩を回して、ついでに首もぐるりと回す。最後に大きく伸びをする。
 窓から外を見ると、日は登っているものの街はまだ静寂に包まれていて、かなり早い時間であるのがわかる。……もう少しくらいは眠っていてもよかったかもしれない。
 よく覚えていないが、ひどく夢見が悪かった。数年前の出来事と虚構がごちゃまぜになって、悪意に装飾された夢。とでも言うべきだろうか。母が死んでいたことと、それから妙にかったことくらいしか記憶に残っていないが、目が覚めてから感じる怠さや悪寒は、間違いなくあの夢のせいだと思う。もう一度あの夢を見るのは勘弁願いたいが、一度起きてしまえば同じ夢を見ることなどまずないのだから、気にせず布団に飛び込んでしまおう。
 なんてことも考えたが、それだと今度は仕事に間に合わなくなるだろう。
 仕事。そう、仕事だ。そういえば、今日は朝一番に局長から呼び出しを受けていたはずだ。支度をしなければ。もしも自分が遅れてしまったりなどしたら、他の隊員達に示しがつかない。それを思い出すと、先程までの怠さと悪寒はどこかへ消え去り、脳は代わりに「起きろ」と命令を下してくる。命令は大きく分けると三つ。顔を洗え、着替えろ、食事を摂れ、だ。
 ふと、カリカリと何かを引っ掻く音が聞こえた。音のするほうを見ると、彼が餌皿の底を軽く引っ掻いている。……わかったよ。と、肩を竦め、彼をひと撫で。まずは朝食をどうにかするところからだ。
 サキ・スタイナーは足元に擦り寄ってくる彼を窘めながら、キッチンへと入って行った。


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