閑散とした中庭に、嗅ぎ馴れない刺激臭。思わず顔をしかめ、鼻先をローブで覆うと、その発生源を辿って茂みを掻き分けて歩みを進める。
と、見覚えのありすぎる後ろ姿が一つ。


「……学校ですよ、ここ。」
「知ってるよ、そんなこと。」


振り向いた、同寮の一つ年齢が上の女子生徒。唇には煙の出る棒がくわえられていた。初めてその状況に遭遇した時は、「棒付きキャンディだよ」と真顔で言っていたが、今となっては隠すこともせずにタバコをふかしている。


「不真面目です。監督生ともあろう方が。」
「監督生だからこそ?」
「聞かないで下さい。困ります。」


ぷわん、と口を「う」の形にしてドーナツ状の雲を吐く先輩。
始めは小さかった輪が徐々に広がって、星だけが光る新月の夜空に散っていった。


「美味しくは、無いんだけどね。」
「だったら何故。」
「癖、かな。」


煙草の先が、じわりと橙に焼ける。ミリ単位で炎がフィルターへと近付いていく。


「口が寂しいんだよ。飴じゃ足りない、キスじゃ刺激が多過ぎる。」


今度は形の朧げな紫煙が宙に消えた。先程もそうだったが、座っている先輩が吐く煙が形を無くしてもふわふわと大気中に漂い俺の鼻孔を突く。


「臭いです。」
「別に居て欲しいと言ったつもりは無いけれど。」


タイミング計れないのかぁ。まぁ一応先輩だしなぁ。とかなんとか呟いて、くわえていた煙草を指に挟みむと、

「いいトコの坊ちゃんは早く寮に帰りなよ。」
「……子供扱い、ですか。」
「実際君より早く生まれてるし、煙草も吸えないんじゃあ…」

ね。と笑みを深くして、唇で煙草を触む。じわ、とまた短くなるそれは、少しずつその柔らかげな薄桃色に近付いていった。

その煙草を奪いたい衝動に駈られる。手が、腕が頭で考える前に伸びた。
発火点を指先で握り潰す。不思議と熱さは感じない。多分興奮しているからだろう。

呆気に取られた先輩の口はポカンと開き、そのまま煙草を引き抜いてマジックさながらに掌に押し込めて存在を消した(ただの転送魔法なのだけれど)。
ぼんやり輝く星だけでは、先輩の顔を伺えず。


「明かり、点けてあげましょうか?」
「……煙草吸うのに明かりは要らないよ。」


手探りで探し当てたらしいダークシルバーのジッポーをがしゅりと擦ると橙の炎が顔を照らした。
いつの間にか真新しい煙草をくわえていた先輩の姿に軽く舌打ちしてしまう。

ひらひらと笑顔で手を振られてしまえば、その場を後にするしか無かった。
煙草の吸えないガキではダメらしい。












100114

五年ぶりに煙草を吸いました。
クラス会に行ったら好きだった男子も参加してて、煙草吸ってる姿を見て何も彼もが、どうしようもなく届かないもどかしさを感じてしまった。
煙草をマルメンのボックスを何本も貰ったけれど、肺一杯に満たしても虚しいだけだった。
でも彼女は居ないって言ってた。
U子
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