*捏造注意*(個人的解釈有)
似非ユダヤちゃんによって似非スウェーデンさんがドイツを更に嫌いになる話。





















ドイツさんの家から逃げ出したのは大々的にユダヤ人が迫害される前だった。

屋敷の母親のような料理長が女中さんらが、私のためにと少しずつ持たせてくれた餞別と、亡き父親から受け継いだ聖書を大切に懐へ仕舞い込んで、行く宛もなく『とにかく遠くへ』と山を越え谷を越え、どこへ行くとも分からない船へ紛れ込み海を渡ったりもした。

それは決して楽しい旅などではなく自分が生きる為の逃避だったが、死んでしまえばそれからも解放されるのだろうか。

―――幸いにして、凍死は苦しくないと聞く。
脇目も気にせず逃げていた為か、いつの間にか北上し、雪国へ辿り着いていたらしい。
薄汚れた包帯を巻いた指を震わせながら、ひらひらと落ちる雪の一片を薄目で何とか捉えていた。


「アンタ、大丈夫けぇ?」


唐突に。四角い眼鏡を掛けた不機嫌そうな顔が私の目の前にあった。

余りに突然すぎる登場。

思わず『ひっ』と軽く悲鳴を上げそうになるが、それを飲み込んだのはローブを被った頭部に積もった雪を払う手つきが驚くほど優しかったからだ。

脱力するような安堵感を認めた瞬間、お腹が大きくグゥッと鳴って恥ずかしさについ顔を赤らめたら、肯定にも似た唸り声とにょきっと大きな手が出てきた。





「スーさん、スーさん!サフランパン焼けましたよ!コーヒーにしますか?それともホットミルクに?」


ドアを蹴り破らん勢いで寝室に入ると、スーさんはまだシーツにくるまり、夢を蕩揺たっていた。
大きな体躯を窮屈そうに縮込め、カーテンを開け放った窓から差し込む朝陽に目を細める。一見不機嫌そうだけれど、スーさんは覚醒に時間が掛かるだけだと、2ヶ月半の居候生活で知った。


あの後私は盛大にお腹の音を響かせ、後に無表情の鉄面皮だと知ったスーさんを眼鏡が曇るほど笑わせた末にスーさんのお宅に転がり込んでいる。

最初はお客様としてもてなされていたけれど、お世話になっている以上何もしないわけには行かないと我が儘を言って家女中まがいのことをしているがこれがなかなか楽しい。

そんな長い長い回想を終わらせても尚眠りを貪ろうとシーツを被るスーさん。だがいい加減に起きて貰わないと折角焼きたてのサフランパンが冷めて固くなってしまう。


「起きて下さーい、はい眼鏡。サフランパンが有りますけど飲み物は何にします?」

「…グレック。」

「朝からお酒は駄目ですよ。」

「…したらミルクコーヒー。」


眼鏡をかけ、のっそりとベッドから降り立つスーさん。シーツが開け美しく筋肉の付いた胸元があらわになる。思わず目を背けるが、スーさんは隠そうともせずにむしろ頭をガシガシと掻いて髪の毛を乱していた。




幸せな日々は、突如として終わりを迎える。それは夢が覚めるような感覚に近い。


「邪魔をしている。」

「…ドイツ。何しに来よった。」

「上司の命令で逃げ出したユダヤ人女性を探している。スウェーデン、貴様の所で新しい女中を雇ったと聞いたが?」

「知らん、」


がちゃん、と世界の崩壊する音が聞こえる。

お茶を乗せたお盆が手からこぼれ落ちていたのに気付いたのは、足に跳ねた紅茶の飛沫のじんわりとした温もりが冷めてからだった。
調子に乗って女中よろしくお客様へお茶を出すなど馬鹿なことをしなければ良かったのに。そんな後悔が頭をぐるぐると巡る。


「誰か居るのか?」

「待っ、ドイツ!」


ドアが開いて目の前に見慣れたドイツさんが立っていた。その後ろから珍しく焦ったようなスーさんが見える。初めて見る表情だ。
そんな顔も出来るのかとつい凝視してしまったが、突然自分の頬が打たれた。パァン、と乾いた音が響く。叩かれた勢いで顔を背けてしまった。

ゆっくりと頬に手を当てながら再びドイツさんに向き直る。


「…お久し、ぶりです…ドイツさん。」

「三ヶ月は会ってないな?随分探した。」

「わざわざお迎え、ですか?」

「上がお前を連れ戻せと五月蝿くてな。…帰るぞ。」

「あ、」


ぐい、と腕を取られ、後ろ向きのままドイツさんに引きずられて行くと、何とも言えない顔をして棒立ちになっているスーさんがどんどん遠退く。


「ドイツさっ、せめて…お別れの挨拶くらい…!」

「駄目だ。逃亡しない保障は無い。」

「―――っ!スー、さん!」
「なっ、オイっ!」


掴まれていた腕から手を無理矢理解いて、来た方向に走り出す。
5メートルと離れていないところに、銀縁眼鏡をずらしながら必死に駆け寄ってくるスーさんが見えた。



手を伸ばす。

スーさんも、手を伸ばしてくれる。



指先が、

爪が、



かつん と鳴って。


そうして、そのまま。



二度と触れ合うことは無かった。




(貴方が好きでした、)
(貴女が好きでした。)

(伝えることも、)
(伝わることも。)


((何も出来ぬまま))







090305
ヘ/タ/リ/ア/夢。は初めて書きました。
改行多めで、うざいから少し直した(100114)
スーさん好きだけど口調イマイチわかんね\(^O^)/
東北訛りと北海道訛りとの違いがイマイチ…。
取り合えず、スウェーデンがユダヤ人を保護していたという逸話を元に。しかしドイツが非道になってしまった!ホントは優しいんだよ!ユダヤに大しての行為を知らされてなかったという設定なんだから!
U子。
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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