鳥籠の形をした檻の中にいた。
目の前に広がる鉄格子は決して細くない。
その一本に指を這わせ、女の非力な力でも曲がらないだろうか。という淡い期待も込めてぎゅうと握り締めるが冷たさだけが手全体にじんわりと伝わってくる。
「ねぇ、レギュラス。お願いだからここから出して。」
格子の壁を隔てた向こう側には、簡素な椅子に腰掛けて本を捲る青年。訴えかけるようにしてあげた声に、レギュラスと呼ばれた男は僅かに幼さの残る美しい顔立ちにとびっきりの笑みを浮かべた。
「嫌です。」
澄んだテノールボイスが空気を続けて震わせる。
「だって出したら俺の前から消えるでしょう? あの人のところへなんて行かせませんよ。」
「・・・どうして、こんなこと」
否。という、初めて問うた時と何ら変わらない返答に、絶望に支配された頭を項垂れさせる。
レギュラスは綺麗な笑みを崩さないまま本を捨てるようにして床に落とすとバサリと音がした。
椅子から腰を上げ鉄格子に近付くべく歩み寄り跪くと、隙間から手を伸ばし青い光沢のある女の髪を撫でた。
「俺を見てくれないFirst name先輩が悪いんですよ。何度も好きだと、愛してる。と伝えてるのに、望むもの総てを与えられるのは俺だけなのに。」
年上であるFirst nameの手触りが良い髪の毛を一房、落ちていくのを何とか引き止めながら掌に収めてそれに口付けを落とすレギュラス。
「違う、違うんだよ。レギュラスはレギュラスなの。それ以上でも以下でもないんだよ。」
First nameは頭を振って告白に否定とも取れる言葉を返し、少し歪んだ視界で空手になったレギュラスを捉える。
「“レギュラスである以上、シリウスにはなれない。”
解かってます、だから閉じ込めてるんですよ。叫んだって暴れたって無駄です。でも泣くのだけは辞めて下さい。先輩を悲しませたくは無いんです。」
眉を歪め、苦しそうにそれでも笑うレギュラス。膝を伸ばし立ち上がると、椅子の近くに落とした本を拾うべくFirst nameに背を向けて歩き出す。
「レギュラス・・・私が貴方を好きだった時さえ忘れちゃうよ・・・」
「なら、いっそ忘れてください。俺は貴女がここにいればそれだけで良いんです。」
レギュラスがくるりと振り返ると、レインの頬に泪の筋が出来ていた。声を殺して泣いているが、両手は憎々しげに格子を握っているためか泪を拭くことはしなかった。
小さく溜息をつき、先ほどより速度を増してレインに近付くレギュラス。
「泣くのだけは辞めて下さい、ってさっき言ったじゃ「――ッ触らないで!」
先ほどと同じように格子の隙間から手を伸ばし、First nameの泪を拭おうとしたレギュラスの腕はバチンという痛々しい音と絶叫に拒まれた。
First nameはやってしまった。という表情を浮かべ、払い除けたレギュラスの杖腕と自分の杖腕を交互に見やり、バツが悪そうにその腕を背中に隠した。
「・・・嫌ったって憎んだって構いませんよ。貴女の心がその感情だけに支配されればそれは愛と変わりませんから。」
「・・・哀の間違いよ」
110417
久しぶりに文章作ったらトキメキも切なさも無い文章であった。
とりあえず高貴な美少年ならヤンデレでも許されると思うんだ。
わけのわからない束縛だけは真っ平御免だけどね!
U子。