こう
せい!



大広間の入り口で蒼と銅のボーダーが踊った。一拍おいて、レイブンクローの寮色だと理解する。
ここ最近、敵対する真紅と黄金のグリフィンドールカラーより目にする機会が多い。何故かと言えば、妙な東洋人が僕の周りをうろついているからだ。それは女子生徒で、年上で、それなりの地位の有る人だから無下には出来ないのだけれど。


「ハロー、レギュラス君。」
「・・・こんにちは、Last name先輩。」
「はい、今日は白にしてみたの。綺麗でしょう?」
「あの、Last name先輩、いい加減聞きたいんですけど、」
「あ!私、変身学が有るから行かなくちゃ。それじゃあね。」


僕のこと殺したいほど嫌いなんですか?とは聞けず。今日も受け取ってしまった、トリカブトの花束。ラッピングやリボンはお粗末だけれど、そのまま服用すれば少量でも死に至るという誰もが知っている毒草が、フードのような花弁を揺らしありありと存在感を示していた。昨日はピンク、一昨日は黄色、その前は紫だったか。
溜息を吐きながらスリザリンのテーブルを歩きながら見渡して、よく知った姿を見つけた。


「何だ、また貰ったのか。」
「ええ。僕に恨みでもあるんですかね、彼女。」
「何かしたのか?First name・Last nameだろう、レイブンクローの。」
「覚えがないだけかしれないんですが、全く。」
「兄弟揃って女には苦労するらしい。」
「バカなこと言わないで下さい、僕は兄さんとは違いますよ。」


白いトリカブトの花束を食事中のスネイプ先輩に押し付けて、自分も席に着く。一瞬顔を顰めたスネイプ先輩だったが、すぐに目が輝いた。「花色による脱狼薬の効果でも比較してみるか」なんてブツブツ呟きながら聞き覚えのない魔法をトリカブトに唱えて鞄の中にしまい込む。多分、保存とか採取のような魔法だと思う。






「ああ、レギュラス君。今思ったけど、キミ、私があげたトリカブトどうしてた?」
「・・・こんにちは、Last name先輩。僕の手には負えないのでスネイプ先輩が魔法薬学の材料として使ってますよ。」
「なるほど、有意義だね。脱狼薬なら黄色が一番上手くいくよ、きっと。」


西日の差し込む図書館内の窓際の席で呪文学のレポートを書いていたら、目の前にLast name先輩が居た。レイブンクローカラーのネクタイがリボンの形になっていて「似合う?」と聞いてきたので、「良いんじゃないですか」と返しておく。大方変身学で形を変えたんだろう。


「そう言えば、朝言いかけてたことって、何?」
「トリカブトを渡されてから文献や書物を調べてたんですけど、相当酷な死に方するんですね。とある民俗では、憎くて苦しめてから殺したい相手に盛る毒がトリカブトから作るものなんですって。」
「知ってるよ。北米から、東アジアにかけての民俗だよね。」


「先輩は殺したいほど僕を嫌いなんですか?


・・・って今朝は聞きたかったんです。」


遂に、言ってしまった。が、Last name先輩は、きょとんとした顔で「いや、寧ろ好きだけれど。」と言う。「は?」口をポカンと開けてしまった。手が止まる。羊皮紙にじわりじわりとインク溜まりが染みを作った。ああ、書き直しだ。でも提出までは期間があるから大丈夫か。


「レギュラス君はそういうマニアックでネガティブなものしか知識として残さないの?どうして花言葉とかは調べないのかな。」
「花言葉、ですか?」
「それと、キミ自身の名前。」





ほんの片隅に引っ掛かるようにして残っていたトリカブトの記述の備考が、驚くほど鮮明に思い出せる。インクの染み込みすぎた羊皮紙にぽつりと穴が空いた。「何、を」言ってるんだこの人は。


「知的アピールと凝った演出をしてみようと思って。」


飲み込んだ言葉の先すら分かっていたと言わんばかりに妖艶に微笑むLast name先輩は、それはそれは美しかった。がらがらと思考が音鳴りをして崩れだす。嗚呼駄目だ、これは。
勝てない。思わず笑ってしまった。


「ふふ、好きです。レギュラス君。」
「・・・殺されると思いこそすれ、告白されるとは思いませんでした。」





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小さき王に餞を」様に捧ぐ。

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以下企画主様に寄せた感想↓


作者のU子です。【美しい輝き】は元々知ってた花言葉で、毒と忌み嫌われるトリカブトにもこんな素敵な花言葉も潜んでますと主張したいが為に選んだ花でした。みんなに知って欲しい、特にレギュラス好きさんには!

素晴らしい企画に参加させていただき、誠にありがとうございます。

かしこ。

せい
こう!
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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