「まあええ。アタシらここで着替えるからとっとと出てけや」 「なあ、」 「なんや」 「オレたちは何着ればいいんだ」 「んなもん適当でええやろ。ほれ、この紙袋渡すわ。せやから廊下で着替えてこい」 「ただの変態じゃねーか!」 『ロシアンルーレットだな』 「じゃあな、よしって言うまで入ってくんなよ」 「入らねーよ!だいたい鍵閉めるんだろ?」 ピシャッと部室のドアが閉まり、鍵が掛かったであろう音が聞こえた。 「なんなんだアイツ…」 『ボッスン、紙袋の中身は何だ?』 「あ?ああ、開けてみるか」 ガサガサと手を入れ中のものを一つ出す。 「全身タイツ?」 『スケルトンじゃないか?』 「スケルトンってなんだっけ」 『骨だ』 広げてみると、真っ黒な全身タイツに白のプリントが全体に施されていた。 「誰が着るんだよ、こんなの」 『もちろんボッスンに決まっているだろう』 「オレぜってーこんなの着ねーかんな!」 『他には何が入っているんだ?』 スイッチも紙袋から一つ、取り出した。 『仮面か?』 「あれだろ、あのーあれ!」 『オペラ座の怪人か』 「そう、それ」 『オレはこれにしておこう』 「あ、ずりぃぞスイッチ!」 『まだ袋の中に何かあるんじゃないか?』 「マジで?」 『出してみてくれ』 「よし!なんかかっこいいヤツ来い!」 勢いよく取り出したそれは、真っ白いものだった。 『全身タイツだなw』 「またかよ!!なんでだよもう!」 『そういう運命なんだ、諦めろ』 「どんな運命だよ!」 『自分は骨だと言い聞かせてスケルトンの方の全身タイツを着るんだな』 「まあ、白よりマシだけどよぉー」 『よし、着替えに行こう』 「どこに?」 『トイレだ。オレは別に仮面をつけてジャケットを羽織るだけだが、ボッスンはいいのか?ん?』 「はあ…」 ボッスンとスイッチは部室から少し離れているトイレへ向かった。 「誰もいねーよな」 『ああ』 ボッスンは人がいないか確認し、個室に入っていった。 『オレも着替えるか』 スイッチも一応個室に入り、上だけ着替えた。 「着づらいな…」 『終わったぞ』 「早いな!ちょっと待ってろ、あと少しだ…」 『早くしないと先に戻るぞ』 「あと5秒!」 ボッスンはバタバタと個室から出てきた。 『似合っているぞ、ボッスンw』 「うそつけ!」 『ワロスワロス』 「笑うな!」 『さて、部室に戻るとしよう』 「ちょっと待て、オレこの上から服着るから!」 『それは無駄だ』 「なんで」 『手と足の骨が丸見えだぞ』 「こええよ!全身タイツって言えよ!」 『そのまま行ったらどうだ』 「いやいや服着てった方がマシだ」 ボッスンは着慣れた制服を素早く纏い、慌ててスイッチについていく。 「スイッチは違和感ないな、それ」 『ボッスンも違和感ないぞ』 「違和感ありまくりだろ!」 部室前まで戻ってきた二人が、ドアをノックするよりも前に、ドアが開いた。 「終わったでー、てなんやのそれ!」 悪魔の衣装を身にまとったヒメコはボッスンの手を指差していた。 「骨だよ骨!」 「なんで制服着とるん?」 「恥ずかしいだろ!」 「お前は存在自体が恥ずかしいんやから大丈夫やろ」 「何それ!?」 「さあ脱げ」 「悪魔か!」 「悪魔やけど?」 「そうじゃなくて!」 「スイッチ、ボッスンの服脱がせや」 『イェッサー』 ヒメコとスイッチの連携であっという間にボッスンは全身タイツ姿になった。 「似合い過ぎやろ!おもろいわー!こんな似合うのボッスンだけやろ」 「うるせー!」 「そんでスイッチはなんや?何の格好や?」 スイッチは仮面を装着した。 「お前もめちゃくちゃ似合うとるやないか!なあ、モモカ」 「そうだね」 『ソレホドデモナイ』 「ちょおみんなで写真撮ろうや!」 「いいねそれ!」 「スイッチ、カメラどこやったっけ?」 『ロッカーだ』 「せやせや」 「オレも写んなきゃダメ?」 「みんなで撮らな意味ないやん」 『脚立用意完了!』 「あれ、これどうやってタイマーやるんや?スイッチ」 『こうだ』 「みんな並ぶでー」 『押すぞ』 「オッケーや」 10秒のカウント音が鳴り始めた。 「ボッスンもっと骨っぽい格好しいや」 「骨っぽいってなんだよ」 「腕とか足とかカクカクさせたらええねん」 『あと3秒だ』 シャッターが下りる音とフラッシュが光った。 「はよ見てみよーや!」 カメラを操作し、先ほどの写真を探す。 「だいぶ溜まっとるなーあ、これアタシの誕生日ん時のや」 『あとでパソコンにデータを移そう』 「あ、これか」 先ほどの写真を見る。 「お前ポーズプロやな!」 「骨の気持ちを理解してんだよ」 「なんや骨の気持ちて」 『開き直ったな』 「オレは骨だ」 「みんな中身骨やけど」 『これは壁紙にしよう』 「あ、アタイにもその写真送ってくれよ」 「アタシも!アタシも!」 大事な思い出 ← |