初夏の匂い


「終わりましたー」

依頼されていた裏庭の掃除をこなし、鬼塚に片付けを任せ報告に来たところだった。

ありがとうね、と笑う相手にいえいえと謙遜をしてまた何かあったら言ってくださいと次の依頼に繋げるような言葉を残してその場を後にしようとすればお礼に、と紙を手渡された。




「ボウリング?」

報告から戻ってきた藤崎は開口一番、ボウリング行こうぜ!とテンション高く告げた。

これ貰った、と藤崎が差し出した紙にはボウリング1ゲーム無料券と書かれていた。

「おお!ええやん!いつ行く?」

「今から」

「今から?アホやろアンタ」

「アホじゃねえよ!よく見ろ今日までなんだよそれ」

「ありがちやな…」

「なんか用事あったか?」

「いやヒマやけど」

「なら問題ねえだろ」

歩き出す藤崎の横に並び教室に鞄を取りに戻り、運動部の掛け声や吹奏楽部の音を耳にしながら学校を出た。




「いやーボウリングなんか久しぶりやなー小学生以来や」

「オレは中学ん時以来だな」

受付を済まし靴とボールを借りて指定されたレーンに向かう。

先行はどうするかなんて相談をする前に画面をテキパキとタッチして鬼塚が投げ出した。

「おめー早ええよ」

画面を見るとどうやらピンは8本倒れたらしい。残りのピンもスペアを獲れそうな位置に残っていた。

案の定、鬼塚は開始早々スペアを獲り負けてられないと俺の闘争心に火がついた。

が、結果は無惨なものだった。




「女子に負けるとか情けないなアンタ」

「うるせ」

帰り道、罵られダメージを与えられながらどうにか歩いていた。


「藤崎」

「あ?」

「あれ」

鬼塚の視線の先は公園だった。
時刻は先程5時を少し過ぎたところだったが子ども達がいてよく見るとバドミントンの羽が木に引っ掛かっているようだった。

「アンタなら届くやろ?」

「無茶言うなよ!さすがにあそこまでは無理だってーの」

「アレは?パチンコ」

「今持ってない」

「ほんならアンタが下な」

「は?」

「ほら、行くで」

「お、おい…」

子ども達の元へ歩き出す鬼塚の後ろをついて行った。

「おいこら、坊主共!」

「な、何?」

「どんな声の掛け方だよこええよ」

「困ってんねやろ?アタシらが何とかしてやろか?」

男の子達は、ホントに?やらあんなの届かないよと諦めモードだった。

「ん、任せとき!」

(その自信はどこから来るんだ…)

「ほら、土台、さっさとしゃがむ!」

「…やっぱりか」

「しゃーないやろ、他に方法ないんやし」

「まあ…そうだな」




「お、おい。鬼塚…」

木に手を置いてしゃがむがぶっちゃけ立てる気がしなかった。

「よいしょ…っと…よし!立って」

バランスを崩さないように慎重に立とうと足に力を込める。

「よっ……と!」

「おお、ええやん!バッチリやで」

「肩車なんかで届くのかよ?」

「届くわけないやろ」

「は?」

すると、鬼塚は肩に足を掛けた。

「よいしょっ…と」

「いてててっ、おい鬼塚!どうするつもりだよ!」

「上見たら殺すで」

「え?お前、何を…」

「せーのっ!」

肩に立った鬼塚はそこからジャンプして木に飛び移ったようだ。

「うわぁ、お姉ちゃんすごいっ!!」
「かっこいいーっ!」

子ども達の声を聞きもう見上げても大丈夫だろうか、とそっと視線を上げた。

「ほな、落とすでー」

「ありがとうーっ!」

「ありがと、お姉ちゃん」

子ども達が羽を手に喜んでいるのを見て良かったな、と思いながら再び上を見る。

「お、おい鬼塚!危ないぞ、早く下りろよ」

「……」

「何してんだよ。早くしろって」

「……アンタが見てるから降りられへんのやけど」

「あ?」

「見えるやんか…!」

「…そ、そっか」

「まったく……よっ!」

着地した音がしてそちらに目を向けた。

「もう引っ掛けへんように気ぃ付けや」

「うん!」

「わかった!」

バイバーイと手を振って帰っていく子ども達を見送った。

「バッチリ解決やな」

「お前無茶し過ぎだろ…」

「取れたんやからええやろ」

「オレぜってーお前落ちると思ってたわ」

「アタシもちょっと思っててんけどアンタがなんとかしてくれるやろなって」

「…まあなんだ、無事で良かったな」

「せやな」

そうして帰るか、と放ってあった鞄を手に取り帰路へと戻って行った。
今思うと鬼塚と2人で遊んだのはこれが初めてだった。




初夏の匂い

2013/04/21
60000


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